-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載50回)
~どうする今後の労働力と運転資金確保~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 令和6年に入り弊社は栽培面積を1.3ヘクタール拡大して総栽培面積がおおむね5ヘクタールとなった。それから社員の1人が近々産休に、続いて育休に入る予定だ。現在、N社員・O社員の2名と地域おこし協力隊員(隊員I氏・隊員O氏)2名が収穫作業時間は別として一般栽培管理を行っている。研修生は週に3日から4日程度、我が社で研修している。これまでの栽培面積においても十分な労力とはいえない状況であった。雇用主としてはある程度は予期していたが、年明け早々、地域おこし協力隊員の新規就農のための農地拡大の事案と出産・育児休暇の計画が同時に浮上したのである。そのため、みかん園5ヘクタールの面積を管理していくための労働力と運転資金確保をどうすればよいか対応に追われている。

  農地を拡大した背景は、今年の年明けに、近隣の農家(Y氏)がみかん園管理について相談にきたことから始まった。そのY氏は私が農業改良普及員をしていた頃からお付き合いのあるみかん専業農家である。相談内容はその農家のみかん園の90%を株式会社Citrusに管理して欲しいとの要望であった。理由はY氏が体調不良でこれまでのような農作業継続は困難であると告げられたのだ。我が社の研修生2名が2年後地域おこし協力隊を卒隊した後に、隊員が自立就農するための農地確保を考えていた矢先だった。しかし、今すぐ確保が必要ということではないことをY氏に伝え、その日はとりあえず対象園の現地確認をするのみで終わった。有田みかん産地といえば階段畑の傾斜地が殆どを占めているが、Y氏の園は違っていた。40年前に山林をブルドーザーで切り開いた緩傾斜地で水はけと省力化を考えた、階段畑ではなくほぼフラットな園地であった。登記上総面積は13,337㎡で一筆にまとまっていて、防除やかん水用のスプリンクラー設備に加え園内道が整っていた。みかん栽培には理想的な園地であった。私の本音は今すぐにでも我が社で引受けたいところだったが、Y氏はJAの理事であり集落共選の組合員であることから、まず関連団体に声をかけ地域で支えてもらうことを打診した。

  その後、地域の農家に支えてもらう話も出たようだが、Y氏は若者である地域おこし協力隊員が自立することに協力していきたと申し出てきた。2年後といわず今すぐにでも地域おこし協力隊員が自立したいというのなら管理をお願いし、体力に自信はないがY氏が栽培指導はしていけるとのことであった。

  地域おこし協力隊の運営は有田川町役場であることから、早速、私と園主Y氏が役場に出向き話し合いをもった。役場の意向は地域おこし協力隊活動計画上の3カ年の任期を全うさせたい。卒隊後には、国・県の新規就農に関する補助金適用を計画中でもあり、今すぐ農地を確保して地域おこし協力隊活動を辞退させて就農させるには早すぎるとの結論となった。

  この結論を持ち帰り社内会議を開いた。社員らにはこれまでの経緯を説明し対象園地を確認させた。社員らは対象のみかん園は合理化されているので気に入り、管理方法については社員と隊員で検討するから是非借りてほしいとの結論となった。私は我が社が2年間借り受け、地域おこし協力隊員が自立する2年後に管理を引き渡す予定で進めてもらうこととして役場に伝えた。役場もそれに同意し、同時に園主にもその旨を伝えた。有田川町の地域おこし協力隊の実施目的では「卒隊後有田川町において就農すること」としており、協力隊活動は「地域の農家と連携しながら隊員自ら農業を学んでもらう」仕組みを募集要領に載せている。

  我が社と園主の農地の利用権設定が2月末に農業委員会において成立し、管理については我が社の地域おこし協力隊の育成方法(本紙第76号で紹介のとおり)を適用した。I隊員に自立後管理するみかん園として事前に2年間責任を持って模擬経営者として管理をしてもらうこととした。隊員は2名いるのでもう1人のO隊員には我が社が管理している別の園地3,000㎡のみかん園を模擬管理してもらうこととした。その3,000㎡は卒隊後3年間自立経営の手助けとしてO隊員にお任せしてみようと考えている。これまでの農作業は社員が隊員に教える形式だったが、今年からは隊員が自ら作業計画を立てて活動する方式とした。隊員2名は1年未満の農作業経験しかなく作業のスピード感に不安があったが、やらせてみると現在のところ問題はなさそうである。O隊員へのお任せ園地には必要に応じて社員が出向いていくが、ほぼ隊員が地域の農家やY氏の指導により管理できている。このような仕組みとした背景は、N社員が今年の夏に出産を控えており、現在薬剤散布や施肥等の労働を控えているからで、すでにO社員に負担をかけてしまっている。我が社のルール上「地域おこし協力隊」の労力を組み込んでいなかったが、地域おこし協力隊の勤務は週4日間で、3日間フリータイムがある。その3日間で可能な日に我が社でアルバイトをしてもらうこととした。これでもまだまだ労力は足りないので、借り受けた園主Y氏の奥さんに、彼女が元々管理していた摘果作業と収穫時アルバイトをお願いした。栽培面積の拡大による生産資材費は事業計画には計上していなかったので、資金繰りに苦慮している。借り受けたみかん園の販売がうまく運ぶことを願って、グロワー/シッパー連携している「株式会社みかんの会」から販売代金の前借りをするか、銀行から融資を受けるか、もしくは役員報酬未払い処理も視野に入れ、運転資金の確保を考えている。

  臨時の労働力確保については、これまで社員が産休や育休を取ること、そして仕事復帰する場合等の就業事情がなかったのでその対応が急務である。休暇制度は特定保険労務士に指導受けながら社会保険で運用できるが、休暇中の労働力確保は会社が実施しなければならない。任期付きで社員を雇用するべきか、臨時のアルバイトを募集するのか、いずれにせよ突然の出来事に直面している。

添付写真は、これらの課題を社員・地域おこし協力隊員そして4月の人事異動後の県担当者・役場担当者を交えて意見交換した後の撮影。中央の4人が社員と地域おこし協力隊員(2024/4/18)

2024/4

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