-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『日本農業を如何に復活させるかは重い問題』

GAP普及ニュース18号(2011/3)掲載

石谷孝佑
一般社団法人生産者GAP協会 常務理事

 菅総理の提唱で、TPPやFTAに関する論議が盛んになったが、TPPは農業問題だけではなく、労働問題や金融問題など、幅広い問題が俎上に上らなければならないことが少しずつ判ってきた。しかし、農業問題は、日本国民が日々生きていくために必要な食料に直接係る最も重い問題であることには変わりはない。

 農業問題で言えば、日本の優れた農産物を輸出することが主に取り上げられているが、我々が先ず考えねばならないことは、輸入に大きく依存している食の現状を如何に脱却し、日本国内の農業生産を如何に確保し、食料を戦略物資にされない生産体制を如何に構築するかにある。そのためには、知恵のある農業政策の具体的な内容が語られねばならないが、現在の戸別支払いは単なるバラマキに近いものであり、総合的な農業政策にはなっておらず、そこに理念や思想、知恵や工夫が感じられないのは極めて残念であり、これからの日本農業と食糧供給の前途を深く憂慮している。

  現在の戸別支払いが単なるバラマキであるため、情熱を持って農業に取り組んでいる専業農家の支援にもならず、まとまりかけていた生産体制を崩壊させ、流通・販売側に単なる価格補填であることを見透かされて、米などの買上げ価格を一律に叩かれ、生産者に補助金の恩恵が行き渡らない可能性が出てきている。

  このような中で、世界的には気象災害が深刻化しつつあり、食糧生産そのものが停滞し、増え続ける世界の食糧消費に食糧生産が追いつかず、世界的な食糧備蓄が大きく減少し、食糧価格の高騰を招いている。一方で、日本の耕作放棄地は依然として増え続け、食糧供給の不安は日々大きくなっている。

  1970年代にアジアを襲った食糧危機は、新品種・新技術による米・麦の増産による「緑の革命」で救われたが、当時の日本は「食糧鎖国」に近かったので、それ程大きな影響は受けなかった。しかし、現在の食糧価格の高騰は、1970年代の危機的状況から見れば、まだ入り口に差し掛かったところである。図1は、購買力平価(実質価格)で主要穀類の価格を比較してみたものであり、2008年の穀類の上昇はまだ微々たるものであることが判る(伊東正一「新版・米の事典」幸書房2009)。ここ2~3年で世界的な食糧在庫がなくなれば、どれほどの価格上昇になるのか、想像さえつかない。

図1 世界における※、小麦、コーン、大豆の価格の推移
(実質価格,1961年~2008年)

  併せて、日本の農業地帯の地下水や河川・湖沼などの水質汚染が進み、飲用に耐えない地下水が増え、農業地帯に虫食い状に発生する耕作放棄地は病害虫の巣になり、森林整備にも充分な手が入らず、日本の農業環境、自然環境は悪化の一途を辿っている。

  このような時にこそ、「日本版GAP規範」に基づく骨太の「環境保全型農業」を推進し、「環境支払い」を中心に据えた総合的な農業と農山漁村の振興策を展開し、若い人が農業だけで暮らしていける生産体制を構築していく必要がある。そのためには、レアーアースで経験したよりも更に深刻になると想像される「食糧の戦略物資化」を招かないように、韓国等に見習い、農業支援を防衛費に順ずる位置付けにすべきであろう。

  これまで日本のとってきた農業の保護政策は、関税などで農産物の価格を高く維持し、その高い価格を消費者が負担することで農家の所得を支える仕組みである。主にこのようにして価格をコントロールする「消費者負担型」で行われてきたが、これからは、豊かな自然を守り、景観を保護し、水資源を確保し、農山漁村の暮らしを守りつつ、品質の良い食料を安全に確保するために、国民がこぞって税金で負担する社会を作っていく必要があると考える。また、品質的に優れた農産物の生産を消費者が直接支えていくCSA(Consumer Supported Agriculture)のようなシステムを支援していく必要がある。欧米で盛んなCSAも、オリジナルは日本であることを忘れてはならない。

   日本農業、特に食糧生産を支える土地利用型の稲作・麦作・大豆作などは、その生産だけでは食べていけないため、担い手が高齢化し、農業の考え方や技術などの伝承が途絶えるところまで来ている。このような待った無しの状況になっていることを、農政を担う人達は深刻に受け止め、抜本的な対策を講じることを強く要請したい。

GAP普及ニュースNo.18 2011/3