-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『GAPの理解と普及推進』

GAP普及ニュース25号(2012/3)掲載

山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事

 先日、ある県のGAPセミナーで「環境にやさしい農業には、有機農業や特別栽培農産物、エコファーマーといった制度があるが、GAPはどこに位置づけられるのですか」という質問がありました。読者の中にも同様の疑問を持っている人がいると思います。

 「有機農業」は、化学肥料や化学合成農薬を使わず、堆肥などの施用による地力の維持、微生物や天敵利用による病害虫防除といった手法で農作物を栽培する方法であり、こうした栽培を2年以上続けている圃場で3年目以降に栽培・収穫された農産物を有機農産物と呼んでいます。

  「特別栽培農産物」は、化学肥料の窒素成分量や化学合成農薬の使用回数を、その農産物が生産された地域の慣行レベルの半分以下にして栽培・収穫された農産物です。

  「エコファーマー」は、堆肥等による土づくりを基本とし、化学肥料、化学農薬の使用量を低減する持続性の高い農業生産方式の導入計画を提出して県知事によって認定された農業者の愛称で、これらの農業者による生産で、化学肥料や化学合成農薬のおおむね20~30%以上の低減が見込まれています。

  こうして見ると、程度の差こそあれ、化学肥料や化学合成農薬の使用を減らし、環境に与える負荷を軽減する農法の推進になっています。

  また、これらの制度の認証や認定のポイントは、「有機農業」が生産される圃場にあるのに対し、「特別栽培農産物」は栽培方法、「エコファーマー」は生産者にあります。

  では、最初の質問に戻って、GAPはどこに位置づけられるのでしょうか。

  GAP、すなわち適正農業管理は、環境を保全し、作業者の安全や農産物の安全性を確保するための取組みであり、本来すべての農業者が取り組むべき農業のあるべき姿です。このことは、単に化学肥料や化学合成農薬を減らすといっただけの取組みではなく、農場管理のすべての場面において配慮しなければならない事項を示しています。

  したがって、GAPというのは有機農業、特別栽培農産物制度、エコファーマーいずれにも必要なものであり、どこに位置づけるといった性格のものではありません。

  冒頭のような質問が出る背景には、農産物の生産に関する多様な制度が日本にあるということが挙げられます。特に特別栽培農産物の栽培基準は都道府県ごとに定められており、ロゴマークも47都道府県で独自に定められています。これでは消費者が混乱するのも無理はありません。

  もう一つ、よく聞かれる質問は、「2010年4月に国が示した『GAPの共通基盤に関するガイドライン(以下GAPガイドライン)』と2011年5月に日本生産者GAP協会が示した『日本GAP規範』の違いが判らない」というものです。

  国の「GAPガイドライン」は、農業を営む上で関係する法令等で定められている多くの事項を整理し、作物部門ごとに体系的に取りまとめたパッケージであり、法令の遵守という点からも大変参考になるものです。日本生産者GAP協会の「日本GAP規範」では、国の「GAPガイドライン」に記載されている項目についても充分考慮し、その内容を反映させています。その上で、農業者が本来実践すべき模範となる事項について、科学的根拠に基づき、何故しなければならないのかという理由や問題点を示した上で、環境保全や労働安全、食品安全を脅かすリスクを減らすための予防原則の必要性やその対処処方法を示したものです。

  農業者に「何故やらなければならないのか」ということをしっかり理解して貰い、納得して貰うことは、その後の「農業者自身による自発的な実践」に繋がって行くことが期待されます。その意味で「日本GAP規範」は、教育的手法に沿った内容といえます。

  これまでの農業は、どちらかというと品質の良い農産物をできるだけたくさん収穫することに重点があったように思います。そのために、漫然とした定期的農薬散布や基準以上の施肥が行われる一方で、直接収益に結びつかない環境保全や廃棄物処理、労働安全などに対する取組みがおろそかになっていた面もあるのではないでしょうか。

  この「日本GAP規範」に基づいて「良い農業を実践する」ことは、農業倫理をベースにした法令遵守や、環境保全への取組み、作業者の福祉向上、安全な農産物の生産・出荷など、『産地としての社会的責任の自覚と、安全・安心な農産物の提供』などにつながることになります。また、一方で、『安全で安心できる農産物の安定的な供給と、環境に配慮した持続的な農業を支援したい』という消費者の期待にも応えるものと言えます。一人でも多くの生産者が「日本GAP規範」に基づいた適正農業管理(GAP)に取り組まれることを切に願うものであります。

  また、こうしたGAPの推進に、国では都道府県の普及指導員を対象とした研修の実施や、営農指導員などの産地の様々な指導者の養成に対して支援をしています。日頃から農家に接しておられるこうした指導者の方々に、しっかりとGAPを理解していただいて、GAPの考え方と実践を農家に根付かせていただくことが、本来あるべき農業であるGAPの普及・推進に欠かせない存在であり、その活躍を大いに期待しております。

 

GAP普及ニュースNo.25 2012/3