-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『日本の農業改良普及事業と本来GAPの推進』

GAP普及ニュース35号(2013/11)掲載

山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 昨年(2012年)9月発行のGAP普及ニュース第28号から今回の第35号まで、海外の農業普及制度も紹介しながら『日本の農業普及制度とGAP推進』について連載させてもらいました。この連載にあたって、海外の農業普及制度について改めて勉強する機会を与えられたわけですが、海外の普及事情を調べて感じたことは、日本の農業普及事業が良く組織化され、効果的な活動ができる体制が出来上がっているということでした。

海外の多元的普及とは

 海外の普及事業について書かれた文献を見ると"多元的普及事業(Pluralistic extension system)"という言葉をよく目にしますが、最初はこの言葉の意味するところが良く判らなかったというのが正直なところです。

 これは、アジア・アフリカなどの発展途上国の政府が行っている公的な農業普及事業が、予算や人員の面で十分な活動ができず、民間企業やNPOによる農民への指導・助言活動に頼らざるを得ないという状況、すなわち公的な普及事業だけでは対応しきれないということを表した言葉ではないかと思うようになってきました。民間には、種苗会社、肥料などの資材会社、生産物を買い上げる流通業者などがあり、NGO、NPOにも地域に根ざしたものや、世界的に活動を行っているものなど多様であり、いずれも民間企業やNGO、NPO団体などの意向に沿った指導がなされることになります。

  こうした指導は、指導する側の利益や主張を前面に出した活動となることが多いことや、対象とする農民や地域が限られるという難点があり、よほど全体の統制が取れていないと、国として推進すべき農業の方向とは異なった方向に行く可能性が高いとも言えます。

途上国における商用GAP導入のインセンティブ

  アフリカやアジアでは、かつての宗主国によるプランテーション農場などで、主にヨーロッパへの輸出を目的とした商品作物が栽培されていた名残があり、現在もこうした商品作物が多くの地域で作られています。また、ヨーロッパへの輸出ということになると、ヨーロッパの多くの取引業者が商業GAPの認証を要求しているので、商業GAPの認証を避けて通ることができない状況にあり、このことが商業GAP導入の強いインセンティブになっているように思います。

  一方で、自給的な小規模農家が多いのも発展途上国の特徴となっています。こうした自給農家が多い地域は都市部から遠く離れていることが多く、生産物輸送のためのインフラが充分でなかったりするため、民間の普及活動の対象になりにくいというデメリットがあります。

  こうした地域についても公平にサポートするのが公的普及ということになりますが、発展途上国では何ぶん予算と人員が少ないために、結局、公的普及事業からも取り残されるという問題点も抱えています。

日本の普及事業と本来GAPの推進

  こうした発展途上国の農業普及活動の実情を知ると、日本の普及事業は非常に恵まれていると思います。現場で活動している普及指導員は、大学院卒業生と同等レベルの学力を持ち、行政や農協と生産者などの関係者間の高い調整能力を持っています。そして何よりも5年、10年先を見据えて地域農業をしっかり発展させようとする姿勢があることです。このことは、いわゆる商業GAPではなく、農業のあるべき姿としての持続的農業のための公的なGAP(適正農業管理)にも通じるものがあります。

  国際連合食糧農業機構(FAO)が提唱している本来のGAPの概念は『農場において、環境面、経済面、社会面の持続性に対応し、結果として安全で高品質な食品や非食用農産物を生産するための実践』(FAO COAG 2003 GAP page)であるとしています。

  このことは、まさに地域農業を推進するにあたって、将来に亘って農業が持続発展するように、環境にも配慮し、経済的にも持続するための収入を得、安全で高品質な農産物を消費者に供給していくことを目指している日本の普及事業と重なるところが多く、非常に親和性が高いと考えています。本来の「GAP概念」に基づいたGAP指導をしっかり行っていれば、商業GAPの認証取得は自ずと付いてくるものと思います。日本の優れた普及事業体制を活かし、普及指導員や営農指導員による本来GAPの推進に期待するものです。

GAP普及ニュースNo.35 2013/11