-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『グリーンハーベスター(GH)農場評価制度によるGAPレベルの向上』

GAP普及ニュース53号(2017/4)掲載

山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 日本の農業生産現場におけるGAPの普及・推進を図ってきました(社)日本生産者GAP協会の活動は、今年度で丸10年になります。この間に、GAP発祥の地であるイングランドの『GAP規範』の翻訳・出版や日本版『GAP規範』の出版、2ヵ月に一度の「GAP普及ニュース」の発行、GH農場評価制度の開発と普及など地道に活動を続けてきましたが、日本におけるGAPは、まだまだ普及しているという状況にはなっていません。ここにきて2020東京オリンピック・パラリンピックの食材調達基準(案)が示されたことで、GAP認証がにわかに世間の脚光を浴びるようになってきているようです。

 私が住んでいる福井県では、リーダー的な農家が2~3年前からGAPの推進を農家や団体に働きかけ、県、普及センター、農協とも連携しながらGH農場評価制度による農家へのGAP普及とGAPレベルの向上を目指して活動をしています。この活動の中で、私も農家の集まりで講演を行ったり、GH評価を希望する農家へのGH評価を行ったりしてきました。数多くの評価を経験することで、農家の一般的な傾向が見えてきています。このような評価の経験から、GAPの視点で見た農家の改善点を理解するのに役立つと思いますので、この場を借りて紹介させて頂きます。

  なお、GAP普及ニュースの第52号にも関連の記事を掲載していますので、併せて読んでいただければと思います。

  GH農場評価制度は、ご存知のように『日本GAP規範』や『GLOBALG.A.P.基準』などを参考に約100項目の評価項目を定め、それぞれの項目に対する評価の時点での状態を「問題なし→0」「軽微な問題→1」「潜在的な問題→2」「重大な問題→3」「喫緊の問題→4」として評価し、対象とする農場の具体的な改善を促す教育システムになっています。GH農場評価制度は、認証に対する「合格、不合格」を判断するものではありません。あくまでも評価した時点での農場のGAPのレベルを示すものであり、農場の具体的な改善を促すための評価制度となっています。評価項目は、以下のような7つのカテゴリーに分かれています。

  • (1)農場管理システムの妥当性(圃場図や緊急時のマニュアル準備など経営全体の項目)
  • (2)土壌と作物養分管理(過剰施肥の回避や肥料成分の流亡防止などの項目)
  • (3)作物保護と農薬の管理(環境に配慮した病害虫防除や農薬の安全な保管などの項目)
  • (4)施設・資材と廃棄物の管理(肥料や燃料、廃棄物の保管管理などの項目)
  • (5)農産物の安全性と食品衛生(安全な農産物の出荷と食品衛生に関する項目)
  • (6)労働安全と福祉の管理(農作業事故防止や労働法の遵守等などに関する項目)
  • (7)環境保全の便益の取組み(景観や生物多様性の取組みなどの項目)

 GH評価させていただいた農場は、主に稲作経営で、地域の中でも一目置かれているような組織や専業農家ということになります。そうした農場のGH評価を十数件行って得た結果から、重要で基本的な共通する改善点について述べさせてもらいます。

1.リスクや手順を文書にして確認

  GH評価の場合、最初に経営全般の話を聞き、適正に管理されているかどうかを聞き取ります。この際に、一番感じるのは、日頃考えていることが「文書に記録されていない」ということです。GAPでは『リスク管理』ということが重要になります。農場での活動によって生じる環境の汚染や農作業の事故、食品の安全を脅かすようなリスクを極力抑えるようにするために「どうしたら良いのか」ということは、常識的には理解しているようですが、それを文書にしたり、地図に落としたり、というところまでは「記録されていない」というのが現状のようです。文字にすることで問題点をより明確にし、さらに地図に落とすことでより身近なものとして問題点を共有することができるようになります。文書化には、他にも緊急時の対応手順や、クレーム対応と商品回収手順、衛生管理手順などがあります。

2.農薬の安全な保管

  全ての農薬を鍵のかかる農薬保管庫に安全に保管している農場はほとんどないというのが現状です。写真のように、スチール棚に裸で置かれていたり、作業舎の片隅に置かれたりしていて、誰でもいつでも取り出せるようになっています。まずは、鍵のかかる保管庫で安全に保管するということから始める必要があります。

スチール棚に置かれた農薬

3.農薬の調合時や洗浄の際の環境汚染の防止

  農薬の調合時や作業終了後の農薬散布機の洗浄時に、希釈液が排水路に流れ出る可能性がある場所で作業をしている事例がたくさん見られます。万一、ここで希釈液がこぼれたらどこへ流れていくのかということについて、もっと配慮する必要があります。その上で、残った希釈液の安全な廃棄場所を非農耕地に設定することを考える必要があります。

4.燃油の条例に従った貯蔵

  米麦等の乾燥機やボイラーのための燃料タンクを設置する場合は、設備の導入時に防油堤や消火器などを設置する場合がほとんどです。しかし、トラクターなどの農機具の燃料としての軽油をドラム缶で保管する場合によく見られるのですが、防油堤や火気厳禁の表示、消火器などがない場合が大半でした。

5.廃棄物の焼却禁止

  『廃棄物』に関しては、廃ビニールや農薬の空になったポリ容器などはJAの回収で処理している場合が多いのですが、粉剤の空になった紙袋や段ボール箱などを作業舎の周りで焼却しているという場合が結構見られます。野焼きは原則禁止になっていますので、ご注意ください。

廃棄物の野外焼却(野焼き)

6.危険な作業でのヘルメット、防護用品の着用

  日頃の農作業において、危険な作業はたくさんあります。例えば、天井クレーンの操作や、フォークリフトの運転、梯子を使った高所作業などですが、ヘルメットを着用して作業をしている現場を見たことがありません。また、農薬を取り扱う場面でも、散布時はマスクやゴーグル、手袋をしていても、調合する時には素手で行っているなど、作業の安全性に対する認識が甘いと言わざるを得ません。ヘルメットや防護用品などは、しっかり着用しましょう。

ヘルメットなしのクレーン操作

  以上、初めてGH農場評価を受ける農場の評価結果から、GAPの改善を要する基本的なところを紹介しました。

  GH評価を受けた農家が、こうした評価結果を受けとることで、初めて問題点を自覚し、改善につなげていただける場合がほとんどです。まずは、自分の経営の問題点を把握することが第一歩となります。その点でGH農場評価制度はGAPレベル向上のための効果的なツールになると確信しています。どうぞ気軽にご活用ください。

  今回、GH評価させていただいた農場が、指摘させていただいた問題点を改善し、次の評価の時に「どれだけレベルが上がっているのか」を楽しみにしたいと思っています。

GAP普及ニュースNo.53 2017/4