-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『GAPの推進と『GH農場評価』の勧め』

GAP普及ニュース56号(2018/4)掲載

佐々木茂明
一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
株式会社Citrus 代表取締役

 2018年1月19日に開催された有田地方4Hクラブのプロジェクト発表会の場で「GAPに関連して『GH農場評価を受けてみませんか』と県の普及指導員から推進されました」と弊社の社員から報告を受けた。4Hクラブ活動で、GAPについて話題に上ったのは、この5年間でこれが始めてだという。社員らは、農業大学校で『GAP規範』について学んできた経緯があり、また、弊社においてもGAPによる農場認証には至っていないが、持続可能な農業の在り方への認識は高いことから、普及指導員の説明は理解できたようである。しかし、4Hクラブ員の大半は「GAPに始めて触れた」と聞いている。

 このような現状のなか、昨年12月28日の日本農業新聞の記事に「GAP認証農産物 穀類と青果10万トン 農水初調査 五輪食材は十分量」とのタイトルがあり、「農水省は、27日、農業生産工程管理(GAP)の認証を取得した農産物の年間生産量について、始めて調査結果を発表した。<中略> 2020年東京五輪・パラリンピックで使う食材を十分供給できることがわかった」と出ていた。これとは別に、昨年の12月8日に農林水産省からGAPに関する認知度調査結果(1回目)も公表されており、調査の趣旨を「農林水産省では、『平成29年度中に都道府県等が実施するGAP研修参加農業者の8割以上がGAPの正しい理解をしていること』を目標に、都道府県内で実施する研修等において認知度に関するアンケート調査を実施しています」と説明している。質問内容とその結果は、農林水産省のweb siteに以下のように公開されている。

  • Q1 GAPを実践すると、経営の改善に効果がありますか。(正解は「はい」で80%)
  • Q2 GAPの実践に当たっては、チェック項目に従って農場内を点検するだけでなく、問題点の発見や改善に継続して取り組むことが重要ですか。(正解は「はい」で90%)
  • Q3 GAP認証をとれば、それだけで農産物のブランド化につながりますか。正解は「いいえ」で59%)
  • Q4 国際水準のGAP認証は、食品安全の取組みだけを行えば、とれますか。
    (正解は「いいえ」で78%)
  • Q5 あなたはGAPに取り組みたいと思いますか。
    (「はい」が40%、「いいえ」が31%、「既に取り組んでいる」が24%)

  全国平均の正解率は41%となっている。17都道府県は、「回答数が充分でない」ということで公表されていない。残念ながら、和歌山県は「回答数が充分でない」ものに含まれているが、一体何を意図して結果を公開しているのかが生産現場では理解しにくい。

  このアンケート調査の対象は、GAPの研修に参加している農家やGAP認証をとった農家であり、無作為に抽出された農家ではないことから、生産現場では、全般に「GAPが認知されている」とは思えない。これらのGAPに関する情報が農林水産省より公表されているが、その意図が読めない。著者は、「GAPが普及され、オリンピックの食材も充分に確保されたことから、農林水産省の仕事は達成されつつある」といっているように、一般消費者に誤解されてしまうのではないかと危惧をしている。

  2017年度GAPシンポジウムにおいて発表された各都道府県のGAPへの取組みは、2020のオリパラに向けてようやく始まったばかりのように思われる。県やJAが指導チームを編成して推進するといった形態である。また、個人の農家がいきなりGAP認証を取得するにはかなりハードルが高い。まずGH農場評価によりオリパラへの食材供給をきっかけに、次のステップにGAP認証取得に発展していくパターンを狙っての体制づくりが進みつつあるように感じた。

  JA福井県五連の取組みをみても、お米のブランド名をキーワードにして、それに関わる生産者のGH農場評価の義務付けは実現の可能性が高いとみられる。茨城県ではGAPの第三者確認制度を立ち上げ、GAP認証取得に要する期間や費用を緩和する役割を持たせているようだ。また、GHによる農場評価を普及させ、オリパラ後のGAP推進につなげるなど、特徴のある推進体制が進みつつある。岐阜県ではGAP認証取得者は3件と少ないことから、指導体制の構築、生産者への支援等の取組みを大幅に拡充していくようである。これらの取組みはいずれも各県独自のアイデアで進められていることから、地方による温度差はかなり見られる。早くGAP指導体制のルールと指導員養成を国レベルで義務化することを望みたい。

  和歌山県は、農林水産省のアンケートに参加しており、昨年よりGH農場評価についての指導者研修に取り組んでいる。今年、4Hクラブ員にも推薦していることは大きな一歩であると、当協会の理事の一人として喜んでいる。弊社は今年の2月に「GH農場評価」を受け、社員らは、指摘された問題の改善に取り組んでいる。しかし、日本は国の『GAP規範』がないので、当協会が作っている『日本GAP規範』や『GH農場評価ガイドブック』などを参考に、樹園地の改善に取り組んでいるが、国策で4Hクラブの活動を指導している機関がGAP推進を行う以上、商業ベースや外国で作られた規範やマニュアルではなく、日本の国が示す本物の『GAP規範』が欲しい。そうすれば、農業現場の指導者が迷わず農家のGAP指導を行えるのではないかと考える。

  今年が、弊社にとって、和歌山県の4Hクラブ員、和歌山県農業者のGAPへの取組み元年になれば幸いであると思っているが、この時期、もうGAPは達成できたかのような情報ではなく、GAPの取組みは常に努力を続けていくべきものであり、現場はこれからであることを充分認識して、関係機関にはしっかり取り組んで欲しいと考えている。

  本来のGAP(適正農業管理)は、国内・域内の持続的農業を目指し、公的に定められた『GAP規範』に基づいてGAPを実践するものであり、欧州では2005年から義務化されている。国はそれに基づいて補助金を出したり、クロスコンプライアンスの補助をしたりしている。

  日本のスーパーは、日本の農産物に対して農場認証を求めていないことや、海外からの輸入品にも輸出国に農場認証を求めていないので、日本の生産者は、海外からGAP認証を求められたときに、改めて対応すればよいということである。

  『GH農場評価』は、『日本GAP規範』に基づいたものであり、GAPを実践するにあたって『GH農場評価ガイドブック』などの参考書もあり、評価に必要な経費も安く、適時に自主管理で行うこともでき、協会のアドバイスも受けられる。本来のGAP(適正農業管理)を進めるためには、『GH農場評価』を是非やって見て頂きたい。「農場改善にはこの方法しかない」との実感である。 今後、GH農場評価の評価結果に基づいた実践報告をして行きたい。

GAP普及ニュースNo.56 2018/4