-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『Good Practiceの尺度とは?』

GAP普及ニュース60号(2019/10)掲載

小池英彦
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事

 GAPに関連づけて「自動車運転のGood Practiceとは何か」について車を運転しながらしばしば考えてきた。以前の巻頭言でも書いたが、まっとうに(「意地悪に」とも言う?)法令遵守ということを考え、制限速度40kmのところを、その通りのスピードで車を走らせるとどうなるだろうか! 河川の堤防道路などの狭く一方向にしか進めない道路では、たちどころに数珠つなぎとなるだろう。40km制限のところを40kmで走るという理屈は通りそうもない。

 本当かどうか定かではないが、言い伝えによると、「+10 kmで走るんだよ」とか、(車の流れを乱さないように)「前の車に合わせて走れば良い」とか、自動車教習所でもそのように教えているらしい。そう言われると、自分もそう教わったのかもしれない。しかし、+10km位では足りない場合の方が多いようだ。

   後続車が迫ってくると、心理的にいやなものである。車間距離が詰まってくると、追いかけられている気分になるからである。後続車は自分の運転に合わせているだけだ・・と、気にしないことが肝心だと思いつつも、ついついスピードが出てしまう。後続の運転者の顔をミラーで覗くと、皆イライラしている表情に見え、「もっと早く走れ」と言わんばかりに見えてしまう。後続の運転者の気持ちをついつい忖度してもキリがない。

  自動車運転のGood Practiceは、つまるところ交通事故を起こさないことであろう。したがって、できれば、前の車が忖度しなければならなくなる運転ではなく、前の車の運転に共感して、制限速度以上のスピードを出したくても、充分な車間距離を確保するような運転をしたいものである。追いかけたくなる気持ちも抑え込んで・・・。

  ここで、JAFの行っている調査から「信号機のない横断歩道での歩行者横断時における車の一時停止状況に関する全国調査」を引用させてもらう。

  詳しくはhttp://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/crosswalk/index.htmを参照されたい。

  JAFの機関誌「JAFmate」の記事にもなっているのでご記憶の方も多いかと思う。我が長野県の成績が良いので気を良くしたところではあるが、「本当に長野県では、信号のない横断歩道で車は一時停止するの?」と問われると、3年ほど前までは「???」であった。自分が車を運転している場合、歩行者が横断歩道で待っていることに気がつき、余裕があれば止まるかな、といった感じである。歩行者が横断歩道で待っていることに気付かない場合も多いことだろう。逆に自分が歩行者として横断歩道にいる時、ボーっとしていて積極的に渡ろうという態度を見せない場合は、車に止まってもらった経験はわずかである。しかし、なかなか渡れないので手をあげて前向きな姿勢を見せても、見過ごされて横断歩道を通過していく車も少なからず経験している。止まってくれるのは「全国平均8%、そんなもんじゃないの?」というのが実感だった。

  ところが、2年前、異動で勤務地が変わり、とあるI市内で車を運転し、信号機のない横断歩道の歩行者になる機会が多くなって驚いた。それは、私の観察では、信号機のない横断歩道を渡ろうとする歩行者がいる場合、9割以上の車が一時停止していたのである。また、私が、ボーっとしていて積極的な態度を見せない場合でも、横断歩道の前に立てば、たちどころに車が一時停止して渡らせてくれるといった調子である。

  ちょうどそんなとき、「JAFmate」のこのレポートを読んだので、長野県が成績の良い結果にうなずいた次第である。ちょっとひいき目かもしれないが、歩行者が横断歩道で待っていても、横断歩道をサッとやり過ごす車がいると、たいていは県外の車のように思う。そういえば、職場の朝礼等で週1回、「安全運転5則」とか「安全運転の5原則」などとしてスローガンを職員全員で唱和することころがあると思うが、I市の職場では「横断歩道の歩行者の安全を確保します」というような、歩行者へ視線を向けた文言があった。今の職場も含め、横断歩道の歩行者への気配りがスローガンになっていたところは、他にはなかったような気がする。

さらにJAFのHPからの引用

  JAFのホームページには、『「信号機のない横断歩道での日本の交通ルールは、道路交通法第38条第六節の二「横断歩行者等の保護のための通行方法」で、「横断しようとしている、あるいは横断中の歩行者や自転車がいるときは、必ず一時停止をする」と定められており、ドライバーは横断歩道の直前でクルマを一時停止させ、歩行者や自転車の通行を妨げないよう義務付けられており、違反者には違反点数(2点)や反則金(車両の大きさにより7,000~12,000円)が科せられる」とある。日本では、このルールに対するドライバーの認識がなぜか非常に甘いようであり、規則はあっても守られていないことが大きな原因といえる』とある。

  JAFは、「横断歩行者の事故や死傷者の減少の一助となるよう「信号機のない横断歩道」における車の一時停止率の向上を図る」ことを目的に、このような調査をしているとのことである。自動車運転のGood Practiceを啓蒙しているのである。

 最後に、「安全に運転する」は、GAP認証の「管理点と適合基準」の内の管理点に相当すると思われ、「安全運転をしていますか」との問いになる。では、適合基準にはどういう文言が入るのだろうか? 管理点をもう少し細かく、「制限速度40kmの標識のある道路を安全に運転していますか」とすると、自分であれば「基本的に時速40kmで走行し、前の車との車間距離を充分に確保し、後続車が追い上げてきても気にしない」とでもしておきましょうか。

道路交通法第26条(車間距離の保持)
  第二十六条 : 車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいても、これに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。

GAP普及ニュースNo.60 2019/10