-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

『地球温暖化と農業の行方』

GAP普及ニュース61号(2020/1)掲載

石谷孝佑
一般社団法人日本生産者GAP協会 常務理事

 先日のCOP25で、地球温暖化を防ぐために二酸化炭素の排出を抑制することが話し合われたが、中国、インド、ロシア、アメリカなどの巨大CO2排出国の意見が一致せず、削減目標の具体的な数値が決められず、合意は見送りになった。

 二酸化炭素の削減について欧州と国連がリーダーシップを取ろうとしているが、これには大きな痛みを伴う。今回は、「脱石炭」に加えて「脱石油」という言葉まで叫ばれるようになり、「日本は石炭発電を推進している」として、不名誉とされる「化石賞」を授与された。しかし、日本は、多くの原発を停止しており、発電の多くを天然ガスに頼っているが、安価でクリーンで効率の良い石炭発電も比較的高く、ここで開発した石炭発電の技術で途上国の発展にも貢献している。

  COPで二酸化炭素の排出を抑制せよと言われても、途上国は経済成長を止めるわけにはいかず、二酸化炭素排出の大元である人口増加を抑えるわけにもいかず、経済成長と共に豊かになった途上国で肉食が増加しているが、この肉食を抑制するわけにもいかず、穀物消費は増え続けている。欧州や国連は、再生可能エネルギーだけで、途上国の発展をどう描けというのであろうか。日本の一部のマスコミは、このことに気が付き始めている。

 

地球の温暖化と寒冷化

 地球温暖化の速度は、気象庁の発表によると100年で約0.7℃であるが、この100年間は温暖化と寒冷化を繰り返しながら、直近では少しずつ温暖化している。私が農水省の研究所に入所した頃は寒冷化の真っただ中で、「氷河期が来る」「冷える地球」などというタイトルの書籍が多数出版され、研究でも、寒冷地の作物の導入や稲の耐冷性育種などが盛んに行われていた。この寒冷化が一転し、温暖化が始まったのは1980年代であり、広く知られるようになったのは1990年代である。

 昨今の温暖化にも地域差があり、高緯度ほど温暖化が顕著であり、日本では九州より北海道の温暖化が顕著になっている。かつて九州で栽培されていた稲や麦の品種が関東で栽培されるようになり、東北・北陸の品種が北海道で栽培されるようになり、北海道は日本の穀倉地帯になっている。かつて、コシヒカリは津軽海峡を渡れないと言われていたものが、今や北海道もコシヒカリ一族の繁栄する地になって、良食味化されている。

人類の成長の限界

 食糧生産では、1972年にローマクラブが出した「成長の限界」という書籍によって「地球規模の食糧危機が来る」ことを警告され、当時は、穀物価格の高騰と第一次オイルショックによって私達は大きなショックを受けたものである。その後、ローマクラブはコンピューター・シミュレーションをやり直し、1992年と2005年に「成長の限界」(ダイヤモンド社)を出版しているが、「1972年の予測が正しい」ことを追認している。その予測によると1992年に既に持続可能なレベルを超え、食糧生産が頭打ちになる「成長の限界」が来るのは、なんと本年の2020年である。

 しかし、図1(農林水産省)が示すように、予想通り世界の耕地面積は頭打ちで伸びておらず、その意味で予想は正しかったのかもしれないが、予想に反して1980年以降も単収は伸び続けており、その結果として世界の食糧生産も伸び続けている。この理由は、大気中の二酸化炭素の増加と、地球全体の温暖化によるものと考えざるを得ない現象であり、これによって人類は救われていると言えよう。

図1 世界の穀物の生産量、収穫面積、単収等の推移と見通し(1961年=100)

農業と二酸化炭素

 空気中の二酸化炭素を増やせば、単収が増すというのは古くから行われていた農業技術である。野菜や果実などの生産を伸ばすために、ハウス内の二酸化炭素濃度を高める方法は広く行われているが、昨今の地球は、全体がこのようなハウスの中のようになっていると考えることもできる。ちなみに、地球の二酸化炭素は、この100年で100ppm近く上昇し、30%以上も高くなり、400ppmを超えている。下に示す表1は、二酸化炭素濃度を100%近く高めた時の、作物の収量増加を示したものである。穀物や野菜・果実を問わず、作物は一様に収量が高まっているのが判る。

 このような例は、地球全体の緑の増加によっても裏付けられている。図2は、温暖化が始まった1982年から2010年までの28年間の「地球の被覆率」の変化を衛星データで示したものである。緑の濃いところは、植生が増えているところであり、赤いところは植生が減っているところを示している。これによると、サブサハラ、東アフリカ、インドのデカン高原、西オーストラリアなどが顕著に緑が増えており、その増加率は28年間で11%であったと報告されている(ドノヒューら2013)。一方、植生が減っているのは、シベリアの北部やアラスカの北部、オーストラリアの中央部などが見て取れる。シベリアのタイガは、温暖化によって永久凍土が溶け、森林が崩壊していると言われているが、一方で、そこから天然ガス田、油田が多く見つかっており、化石資源の賦存量は飛躍的に高まっている。

図2 二酸化炭素の増加による世界の緑化(衛星データ)

食物連鎖の頂点に立つ人類

 農業は、植物が太陽のエネルギーを使って空気中の二酸化炭素を固定するところから始まるが、植物の光合成は、動物が利用できる形の炭水化物や蛋白質を作りだし、同時に酸素を作り出す重要な働きであり、農業なくして動物の栄える緑の地球は存在しない。

 振り返ってみると、人間をはじめとするあらゆる動物は、植物の作った炭水化物や蛋白質を利用し、空気中の酸素を利用し、二酸化炭素を放出している。人が食べる肉類も、その動物が植物を食べ、酸素を利用してできるものであり、人が直接食べれば効率がよいものを、わざわざ植物を動物に食べさせ、その肉を食べている。

 海産物にしても、ほぼ全ての出発は植物プランクトンであり、それを動物プランクトンが食べ、それを小魚が食べるという食物連鎖があり、人間は、その頂点にいるマグロなどの海産物を食べている。また、海藻も光合成をし、貝類や動物などが食べ、それを人間が利用している。その大元は、二酸化炭素と太陽の光エネルギーであることを人類は忘れてはならない。

GAP普及ニュースNo.61 2020/1