-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

『GAP普及ニュース 巻頭言集』

 普及ニュースに掲載された、有識者による巻頭言。

岐阜県が『持続可能な農業』の実現に向けてGH農場評価制度を開始

GAP普及ニュース65号(2020/11)掲載

田上隆一
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

 オリンピック・イヤーだった2020年は、新型コロナウィルスによる感染症の大流行でGAPの普及・啓発活動の多くが開催中止を余儀なくされました。そのため生産者が出演する新たな教材を作成してオンライン研修等で補完しています。

 そもそも日本生産者GAP協会の使命は、「人間活動と自然環境との調和」を目指す農林水産業のあるべき姿を「適正農業規範」に著し、日本の農業現場で行われる「適正農業管理(GAP)」のあり方を研究し、その実践を普及することにあります。

 振り返れば、2011年の震災直後に「日本GAP規範」の初版を出版し、その規範の内容を農業者がどの程度農業現場で達成しているかを評価して農場管理の改善指針を提供する「グリーンハーベスター農場評価制度(GH農場評価制度)」を同時に構築し、そのガイドを出版(2017)してきました。

 GH農場評価制度では、その評価システムを使って個々の農家の管理上の問題点を明らかにし、その農場にふさわしい改善策を講じるよう、農家と一緒になって考えていく指導者を育成することが必要になります。2008年から各地に出向いて実施してきました都道府県の普及指導員に対する「GAP指導者養研修会」をブラッシュアップして、GH農場評価の現場で農場のクリニックができる指導者を養成する「GH農場評価員養成講座」に組み換えました。GH農場評価員は、実際の農場の現場に臨んで、その農場の管理上の問題点を把握することが必要になります。また、GH農場評価員を配置する拠点としての「農場クリニック」が全国の多くの農業生産地域に必要になります。これまでに都道府県の普及指導員並びに農協の営農指導員ら5,455人が「GH農場評価員養成講座」を受講し、評価員試験に挑戦して合格した人数は、2020年3月31日時点で757人にもなりました。これらの方々は、今後の日本農業にとって大きな力になっていくものと期待しています。

 今年はコロナ禍による外出自粛に伴い、あらゆるイベントの中止が続き、多くの人々にとって経済活動はこれまで経験したことのない程の停滞になり、パンデミックの収束が見通せないままで一年が終わろうとしています。

 しかし、日本の『持続可能な農業』の実現にとっては、歴史に残る明るい出来事がありました。それは、岐阜県が「グリーンハーベスター農場評価制度」を導入して、2021年以降の『持続可能な岐阜農業』を推進していくということになったからです。中日新聞(2020年10月3日)などによれば、東京オリンピック・パラリンピック後に岐阜県GAP確認制度は終了するが、「ぎふクリーン農業」として長年続けてきた「持続可能な農業」の実現に向けて、GAP推進の新制度「ぎふ清流GAP評価制度」を設けるということです。

 日本で言われているGAPの多くは、農場認証である「GAP認証」を指しており、特に「国際水準GAP」と称されているものは、グローバル食品企業などが要求する「農場監査」のことです。多くの食品は、国境がない自由取引で巨大化したサプライチェーンにより、世界中から安価な農産物を調達し、消費者には大量の調理品・加工食品として届けられています。このため、加工原料には世界標準の安全規格が必要となり、農産物の輸出入には「農場監査」が必須になってきています。しかし、民間の農場監査はビジネスですから、日本の零細農家ではコスト負担に耐えられないことや、途上国に多い農産物輸出国との価格競争に耐えられるのか、という問題があります。その上、先進国が多い製品輸出の相手国は、2020年以降、特に厳しい環境規制を輸入農産物や加工食品に要求してきています。そもそも先進国のGAP認証は、輸入農産物から自国の農業を守る砦の役割を果たしてきました。環境を犠牲にして安価な農産物・食品を生産し、それを輸出してくる途上国から、自国の農業と環境を守る重要な役割があったのです。

 このようなグローバルな農業・食料問題に対応していくためには、農業政策の環境対策へのシフトや農産物・食品の流通環境全体にも関わる大幅な改革と革新が必要です。改革の一つのキーワードは「消費者の信頼確保」です。

 「環境に配慮し、衛生管理を行き届かせ、国際水準GAP認証を取得した農場の農産物・食品を戦略的に輸出に回し、国内では、グローバル企業が世界中から集めたローコストの食材による調理・加工品を消費する」という食社会の経済モデルからは、日本人の明るい未来は描けません。国民にとって、それは食と農の負のスパイラルになります。国内の消費者・小売からの信頼を得るための「真の国産信頼」を実現し、「農場監査ビジネス」ではなく、「公的機関による農場保証」により実現する「生産者と消費者との信頼の懸け橋」を構築することが、真に期待される日本のGAP推進ではないでしょうか。

 今こそ、本来のGAPとGAP認証の意義と意味を明確にしましょう。GAPは「持続可能な農業」です。GAP認証は、消費者に対する「農業の品質証明」です。

 岐阜県が口火を切った「グリーンハーベスター農場評価制度を利用した『持続可能な岐阜農業とその消費者信頼』の推進が、全国に波及していくことを強く希望しています。

GAP普及ニュースNo.65 2020/11