-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載13回)
~再び、6次産業化への挑戦~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

第2期目の決算が終わり、「当期黒字」と喜びたいところですが、これには裏が有り、新規の農業生産法人設立に対する各種の補助金が第2期目の収入となり、決算上は黒字となったわけです。

  補助金の種類は、農地を借り受けた場合に、借り手側に10アール当たり概ね2万円の補助があるわけですが、6年間で2万円、これが借り受けた翌年に一括して支払われます。したがって、今後4年間は0円となります。その他の補助金は、その規模やその事業毎に翌年支払われるのですが、平成25年度は規模の大きな補助事業に着手していなかったので、補助金収入は見込めません。


  当然のことですが、本来の農産物による収入を伸ばしていかないと、経常利益を黒字に出来ません。このため、市場の相場に左右されにくい販売方法を築いて、安定した収入を上げていかなければなりません。しかし、温州みかんの販売先が大手スーパーや小売店などの実需者であるため、ここは当然、市場相場から仕入れの値決めをしてくるので、当社の収益の改善を計画するのは至難の状況です。この仕組みから脱却するために、取引先の実需者に今年の弊社の温州みかん等の出荷計画を提示して、希望単価を品目毎に詰めを始めました。これには、実務と研修を目的に社員も参加して貰い、単価については社員に決めさせて収益を上げるための手段を共有することにしています。それにより社員は、改善計画に伴う商品の生産量を増やし、質を高める栽培技術の研究が必要となり、栽培の技術革新に努力してくれると思います。

  改善計画では、みかんの味は当然ですが、昨今では、特に収穫時の果実の大きさが取引に大きく影響してきます。昨年の失敗は、9月が多雨のため果実の肥大が進み、大玉果になり、着色が遅れ、出荷計画通りに出荷できませんでした。

  今年はそれを反省して栽培方法を改善していますが、8月は全国的な多雨で、ここ有田地方も8月上旬で600ミリの降雨があり、8月15日のお盆を過ぎてからも降雨が続き、果実の肥大がどの程度になるのかという予測がつかない状況です。

  実需者は、温州みかんのSクラスの小玉果を要求してきます。単価が安くて美味しいからです。しかし、生産する側はSクラス中心で栽培を行えば、着果増による樹への負担が樹勢を衰えさせ、隔年結果を誘発します。また、収穫のための労力も増えます。現状の栽培技術では、このような消費ニーズに対応できないのです。経営面からは、MサイズをメインにS、M、Lがバランスよく生産していきたいものです。現在の気象異変には栽培技術で対応していくしか方法はありませんが、プロ農家においてもよくわからないのが現場の実態です。

  もう一方で、経営安定をはかるため、本誌(GAP普及ニュース)の第37号、農場経営実践(10)にて「6次産業化への取組み」について書きましたが、総合化計画は農林水産省から認定されたものの、6次産業化へのハード事業は不採択との通知を受けました。そこで、6次産業化へのハード事業への再挑戦を進めています。今年3月に認定を受けた総合化計画の変更申請が必要とのことです。その内容は、平成26年度から27年度への補助金申請時期の変更です。幸い平成26年度も、昨年同様に「和歌山県6次産業化サポートセンター」が立ち上がり、そこから支援を受けています。そこで、申請内容をもう一度精査し、計画そのものを練り直しています。簡単には補助は受けられないと思いますし、申請にも相当の時間が必要になります。

  それと、6次産業化のハード事業申請の経験が少ない弊社や一般農業者には、申請書を作り上げること自体が大変な作業となります。また、6次産業化サポートセンターの支援がないと、県行政の担当者も判断に苦慮していることが覗えます。日頃の情報発信と情報収集活動をしっかりしておかないとチャンスは掴めないことも実感しています。

  一方で、国や県はホームページに事業募集を公開するのみで、「自力で応募してきなさい」と強気な姿勢です。弊社の場合は、情報発信はしているので、関係者から連絡を受けることが出来ていますが、情報発信していない場合は、事業が公開されたことすら伝わらないと思います。


図 和歌山県6次産業化ネットワーク活動交付金パンフレットから抜粋

  農林水産省の本当の意図はわかりませんが、和歌山県では交付金により各都道府県が窓口になる平成27年度6次産業化ネットワーク活動推進事業(図)の募集を10月10日締切りと公開しています。昨年度は1月公開でしたが、今年は半年前倒しの募集となっています。都道府県によって募集期間や内容に違いがあるかもしれませんので、興味のある方は最寄りの都道府県のホームページで確かめて下さい。

  経済産業省では「革新的なものづくり・サービスの提供等にチャレンジする中小企業・小規模事業者に対し、地方産業競争力協議会とも連携しつつ、試作品開発・設備投資等を支援します」として、平成25年度補正「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業(ものづくり、商業・サービス)の募集が今年の7月にありました。補助総額は1400億円とのことで、農林水産省の100倍の補助事業のようです。これらの事業で6次産業に取り組んでいる企業をみてきましたが、一般的な農業の経営形態で応募していくには無理があるように思います。農産加工に精通した知識や企画力を問われる応募内容になっているからです。

  今年の5月募集の結果では、和歌山県内で75社が採択され、その内、酒造メーカー、食品加工メーカー等4社が食品加工分野でしたが、農業者はいませんでした。弊社もこれらに対応できる企業的センスを早く身に付けたいものです。

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