-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載24回)
~法人設立5年目を迎え、軌道修正~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 平成12年4月に農業生産法人を設立して5年目を迎えた。ここに来て、温州ミカン農業の規模拡大の困難さを実感している。当初、遊休農地を借り受け、目標の管理面積を5ヘクタールとしていましたが、このまま計画を進めてよいかどうか迷い始めている。 今年の6~7月、農林水産省近畿農政局や和歌山県農林水産部から相次いでみかん生産農家の課題について問合せがあり、いろいろと議論させていただいた。近畿農政局は、有田振興局においてみかん生産をしている農業生産法人との意見交換会を開催した。その会に弊社Citrusに出席依頼が届いた。

  開かれた会議には近畿農政局からは部長や和歌山支局長ら職員7名が出席していた。意見交換は「なぜ有田みかん産地に農業生産法人が少ないのか」をテーマに、現在法人化している組織から意見を聞きたいとのことであった。出席していたのは、株式会社早和果樹園、株式会社伊藤農園、そして弊社の3社のみであった。

  早和果樹園は2000年に農業生産法人を設立し、2014年に6次産業化の優良事例表彰で、最高の農林水産大臣賞を受賞した和歌山県屈指の会社である。法人化する以前は、農家7戸のみかん出荷組合として組織されていた。近年の取組みは、有田に大型のみかん搾汁工場(写真1)を設置したことが挙げられる。


有田初の温州みかん搾汁工場(2015.12完成)

  一方、伊藤農園は、1897年創業で、明治時代からのみかん商人としての老舗であり、2009年になって法人化している。TV番組の日経スペシャル「ガイアの夜明け」(1月13日放映)でも紹介され、ジュース加工などで販売実績を伸ばしている会社である。

  両社は有田市に拠点を置き、国内はもとより、世界を相手に数億円を売り上げるライバル会社同士である。前号で紹介したが、弊社の売上げは両社の足下にも及ばない状況であるが、近畿農政局からの質問への回答によって、共通の問題が見えてきた。それは、栽培面積の限界点である。早和果樹園は「会社として7ヘクタールを7名の社員で管理している」と答え、伊藤農園は「10ヘクタールを10名で管理している」と答えた。1社で管理している面積では伊藤農園さんが有田で一番の大きな規模のようで、有田振興局によると「有田みかん産地では1組織としてこれ以上の規模はない」とのことであった。いずれの会社においても、通常管理面積は社員1名当たり1ヘクタール程度である。個人の専業農家の平均は2ヘクタールであることから、みかん生産農家が法人化しても「栽培管理が合理化され、大規模経営が可能になった」とはいえないとの見解で一致した。

  その原因に、社員として、みかん栽培管理のスキルアップを求める人材、また、温州ミカン栽培が好きといった人材の確保が容易でないことと、それに加えて、収穫期の臨時の労力確保が難しくなってきた背景等が見えてきた。弊社もこの課題は同様であり、数回にわたり本誌で紹介させていただいた。近畿農政局からは、米や野菜の大規模経営の法人の事例が出され、機械化が進んでいるが「みかん栽培ではどうか」と問われたが、出席者は、みかん生産園における整枝剪定・摘果・収穫・施肥・運搬等の作業の9割が手作業であり、機械化が困難である現状を報告し、「米や野菜生産のような合理化は出来ない」と訴えた。

  「では、法人化のメリットはどこにあったのか」という問題についての意見交換となり、早和果樹園は「法人化することで、今の早和果樹園に発展させることが出来た。法人化に取り組まなければ、普通のみかん生産農家のままであったと思う。法人化することで、年間を通して収益をあげることと、社員の労力配分を考えるようになり、6次産業化の結果である温州ミカンの加工を思いつくことが出来た」と述べた。伊藤農園は「今までは老舗にあぐらをかいていたが、バイヤーからの信頼を高めるために法人化をした。加工部門の規模を拡大するにつれ、新たな取引先へ拡大するには法人化が不可欠な時代となってきた」との意見であった。これらの意見交換を通じて、弊社の方針であった「栽培面積の規模拡大」は優先せずに、6次産業部門をうまく活用する方向で収益を伸ばすよう頑張ってみようと考え始めている。


近畿農政局主催の意見交換会(7月15日有田振興局)

  和歌山県農林水産部から意見を求められた内容は、長期計画作成に当たり「中間管理機構を活用したみかん生産農家の規模拡大は課題化出来るか」であったが、筆者の経験から「青果物生産のみの経営では不可能である」と回答した。しかし、農政局との意見交換を通じて「6次産業を導入し、雇用を安定化すれば、社員1人当たり1ヘクタールの管理は可能なことから、社員数に応じた規模にまで生産面積の拡大は可能である」と考えるようになった。しかし、そのためには農業生産法人化と6次産業化を一体的に進めなければならないと思う。JAが運営する大型協同選果場に出荷している農家は法人化や6次産業化を望んでいないようなので、これらの農家では規模拡大は労力に限界があり、無理と思われる。

  弊社は、様々な考えが交差する中、近畿農政局や和歌山県からの問合せがあったことで、この5年間の農業生産法人運営についての反省と今後の方向を考えるチャンスを得ることが出来た。筆者は、今後の会社運営を考え、現状の規模と加工面の充実で経営を安定化させさる方向でしばらく進め、農業の雇用事業などを積極的に取り入れ、人材育成にも力を入れていこうと決意している。


ガイアの夜明けの取材を受ける伊藤社長(伊藤農園ホームページより)

  連載前へ 連載一覧へ 連載次へ