-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載35回)
~新型コロナウィルスが間近に迫る危機~
~その中で新規参入のいい話もあり~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 2月13日、有田みかん産地に衝撃が走る。夜8時頃、弊社から7キロほど離れた済生会有田病院の医師が新型コロナウィルスに感染したとのニュースが飛び込んできた。

  著者はこの病院に入院している友人のお見舞を14日に予定していたところであった。本来なら11日にお見舞いを済ませていたところであるが、同行する仲間の都合で予定を3日間遅らせたのである。本当にニアミスをするところであった。

  15日に、弊社citrusの姉妹会社「株式会社みかんの会」が運営する直売所は大丈夫かと友人から連絡が入り、何のことか意味がわからず確認したところ、その直売所の横が中国人がよく利用するホテルだったことを知らされた。あわてて、直売所を運営する株式会社みかんの会の社長に確認をとったところ、ニュースの翌日直売所を閉めたとの報告を受けた。この直売所とホテルと済生会有田病院は100メートル四方の範囲内にある。済生会有田病院での院内感染のクラスターは発表されたが、ウィルスがどこから来たのかは不明のままで、熊野古道を訪れる中国人旅行客が良く出入りするお店の1つとして弊社の関連する直売所が対象となり、顧客対応をしていたアルバイト社員が調査され、2週間の経過観察の対象となった。幸い、ホテル従業員や直売所を含む近隣の飲食店からは感染者は出なかった。

  和歌山県は早い時期に新型コロナ情報の詳細を知事自らが県民に伝えたことでパニックにはならなかったが、弊社近くの70代の農家の死亡が伝えられた時には驚いた。このことにより、中晩柑類の販売に影響が出た。ニュースでは、果物店やネット販売をしている農家への注文にキャンセルが多くなったという風評被害が伝えられた。和歌山県もそれについて弊社も調査を受けたが、弊社の農産物の販売をお任せしている姉妹会社の株式会社みかんの会からは2件ほどキャンセルはあったが、キャンセルは続いていないとの回答であった。しかし、果物の単価は現在も低迷している。このままの状態が続くと、損害金額の決定は4月末となるが、農業共済の農業経営収入保険の適用を受けることになると思われる。これらの危機を感じながら倒産リスクを回避するために令和2年度も農業経営収入保険を3月5日に継続更新をした。

  収入面での問題はクリアー出来るが、弊社の新型コロナ危機はまだ終わっていない。3月15日に大阪のライブハウスに行って感染した10代の女性が通勤に利用していたJRの駅の近くに弊社の社員が住んでいて、弊社に通勤している。

  和歌山県知事はSNSを通じて「和歌山県内の感染は終息したわけではないが、最初にクラスターとなった済生会有田病院は3月4日に正常に復帰した。感染者の氏名や住所は非公開であるが、勤務先や通勤経路について、勤務先の会社やJRの了解を得て公開していく考えであり、感染者へのヒヤリングを基に濃厚接触者のPCR検査を速やかに実施しており、早期に感染者を発見することが出来きている」と発表している。知事は、このような報道とは別に、SNSを通じてこれらに関する公的・私的なエピソードを含めて関心を持つ県民に対して情報を公開してくれているので、新型コロナの感染に対する危機感と安心感を正しく持つことが出来ている。

研修生2名と指導する社員
インターシップ中の農林大学校就農支援センターの研修生2名と指導する社員(左)

  こんな中ではあるが、弊社は3月2日に社員を新規採用した。昨年末から今年1月にかけてインターシップに来ていた農林大学校就農支援センターの社会人課程の28才の女性である。2月末に9ヵ月の研修を修了し、弊社に迎えた。これまで弊社は、農業大学校の新卒生を対象に新規採用してきたが、4年制大学卒業の社会人の採用は初めてであり、この4月から同一労働同一賃金制度が導入されることから、初任給の決定に苦慮した。昨年は、求人を行ったものの新規採用には至らなかったので、今年は経営者として新入社員に感謝をしている。というのは、有田みかん産地の将来はどうなっていくのだろと思わせる現象を著者が身近に感じていたからである。 最近、有田市がみかん農家全戸を対象に後継者についてアンケートを実施した。その結果について、6割の農家は「今もそしてこれからも後継者が望めない」という回答であったとテレビ番組で紹介されていた。そこで、「リクルートと市がタイアップして後継者の受入れ事業を企画した」というニュースがあった。有田市の農家の平均年齢は64才とされていて、10年経過すると有田のみかん生産量は4割減になるだろうと市は予測値をしめしていた。

3月2日入社式、入社した社員
3月2日入社式、入社した社員(左)

  著者が在住する有田川町においては同様の問題を抱えており、農家の平均年齢は有田市より更に高く、68才くらいであろうと推測され、危機感から町独自に新規就農者を迎える事業を企画した。その事業とは、町が3年間の農業研修を実施し、その後、町内で就農することを条件に募集をおこなった。2月末に募集を締め切ったところ、正規応募は2名であり、応募に至るまでの現地確認者が1名あった。弊社は町より依頼を受け、3年間の就農前研修の受入を承諾し、著者が3名の方の相談相手を務めた。審査の結果、その内の1名を将来新規就農するであろうと判断し推薦した。このまま応募者本人の意思決定あれば、5月から弊社で1名の研修を受けることになる。若者の農業参入の少ない中、著者はこれまでの弊社の取組みが第3者にも認められつつあるのかなと喜んでいる。

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