-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載41回)
~経営改善計画実行~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 今年で会社を設立して10年が経過する。これまで農業の人材育成を課題に6名の社員を採用し、既に4人が退社した。2名を就農させることは出来たが、1名は4年勤務した後、家業の紀州備長炭生産(林業)の世界に入り、もう1名は採用から8ヶ月で就農すると退社したが離農してしまった。現在は正社員2名と研修生2名が常時農作業にあたっている。農業大学校勤務時代に卒業生の進路にと農業生産法人を立ち上げ農業を目指す青年を受け入れてきたが、ここにきて人材育成の難しさを感じている。親元での就農が決まっている場合は退社時の準備はないが、非農家が独立就農するとなればその準備が大変だ。昨年2月に退社した社員は継続して会社運営にあたってくれるものと信じていたが、先輩社員が就農したのをみて、退社2年前くらいから独立就農を考えていたと、退社時に打ち明けられた。幸い突然の退社ではなくおおよそ1年前に申し出はあったが、農地確保やどのような形態の農業にするのかを打ち明けてもらえずしばらく見守るしかなかった。会社の肥料農薬の調達先の肥料屋さんがその社員の農業大学校の同級生であり、相談にのってもらっていたようで、同級生から将来を任してもらえる農家が見つかったと報告があり、その就農への流れを同級生に託した。また、就農先が弊社取締役の知人の農家でもあり、決まった後は本人の取組次第となり、一件落着した。

今年の研修計画が決まった会議の瞬間(前列の地域おこし協力隊員(研修生)と奥様&役場担当&社員)

  地域おこし協力隊制度で有田川町に定住条件で就農を予定している研修生については、3カ年の我が社での研修が残すところ1年余りとなった。地域おこし協力隊卒隊後直ぐに就農するための農地確保、倉庫確保と直ぐにはいかない。その資金調達も考えなければいけない。有田川町役場の事業であることから、制度上、事前に協力隊員名義で農地確保は出来ないということとなり、弊社名義で農地確保に乗り出した。また、弊社に管理依頼のあった農地を1年後に協力隊員が管理する約束で管理を任してもらえる農地を確保した。今年に入って、元JAありだ営農指導課長が管理して農地を協力隊員に任せてもよいと役場に申し出があり、これで新規就農のための農地全部で80アール確保出来た。そこで、その借受け予定のみかん園での管理を研修とし本人にやらせてみることにした。その管理指導を元JA営農指導課長お任せすることが出来た。もう一人の研修生については有田川町受入協議会が研修先に認められ12月から農林水産省の農業次世代人材投資資金の給付(年間国150万円・県30万円)を受ける制度が適用され2カ年の研修に入った。

  現時点では会社設立当初の人材育成は半分成功したように思えるが、ここにきて株式会社Citrusの承継を考えていかなければならない時期に入ったことを痛感している。私事ではあるが昨年12月脊椎間狭窄症と診断され、身動きが出来ない状況が続いた。また、昨年の決算で190万円の赤字経営となり、打開策を社員らに考えさせていたところ、老木みかん園への優良品種導入による改植、また、八朔等需要の少なくなった品種を需要の高い品種への更新など提案してきた。そこで全てを予算の許す範囲で任している。昨年は入社2年目の社員の東主任は鳥獣害対策としてみかん園にフェンスを設置、その補助事業申請も自ら行った。また、各種補助事業もインターネットや役場、JAに問い合わせ、探し出して自ら動き始めた。この様子をみているとみかん栽培のためのやるべき仕事をこなしていく社員ではなく、会社の展望を考えながら次をみている。その様子は勤務姿勢でわかる。勤務時間は8時~17時であるが作業終了後毎日1時間から2時間事務所に残り社員2人で計画を立てている。昨年12に来社したアメリカ大使館の女性農務官を案内した時の会話を横で聞いていると、どうして農業に就いたのか、女性として農業の働く環境はどうか、との質問に的確に問題点を示しながら答えていた。経営者の私としてはなかなか聞けない内容だったが主任の回答を聞いて心地よかった。それに、昨年新規採用した大前社員も当初2から3年で自立就農と言っていたが、弊社の長期計画に積極的に参画し継続勤務の意向である。そこで、東山主任の考えを聞いてみた。主任からの答えは「私が農業をしようと思ったのは、高齢のおばあちゃん、おじいちゃんが傾斜地で仕事をしたり、重たいみかんのカゴを運んだりしている姿を見て、力になりたいと思ったのがきっかけでした。今思うと半ばボランティア精神のような感覚でした。結果、私の計画も甘々だった事もあり、家族から賛同を得られなかったので、考えを改め、農業法人就職を選択することになりましたが、仲間に恵まれた事もあり、今は楽しく仕事をしています。よく、この仕事をしていると、学歴や職歴について聞かれては『もったいない』と頭がカチカチの高齢者に言われますが、そんな事を言われる筋合いは無く、前の職場の環境より、今のこの環境が今の自分に合っていた、ただそれだけで仕事をしています。」と応えた。主任は幼稚園から高校までの教員免許を取得しており農林大学校就農支援センター社会人課程で農業訓練に入るまでは公立の幼稚園に勤務していた。

アメリカ大使館農務官を案内する(東山主任)

 東山主任と大前社員は令和元年にGAP普及ニュースで紹介した弊社と流通会社「株式会社みかんの会」でのグロワー/シッパー構想実現に向け本格的な連携を今年2月まとめ上げた。打ち合わせの日がGAPシンポジウムと重なり私はシンポジウムを優先した。理由は両社の社長間での合意は出来ていたので、両社の社員同士のコンセンサスを経営者なしでうまくいくかをみたかった。会議報告は合併する合理化の方が大と思うと伝えてきた。ここまで来れば会社を承継できる人材育成に成功かと思う。私は現社員の二人に弊社の将来を託して行きたいと考えている。

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