-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載6回)

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 5月31日付で完成した第一期の株式会社Citrusの決算報告書を見ながら原稿を書いています。農業法人としての初年度の決算は赤字経営となり、資本金を44万円減らしてしまいました。このままでは「温州ミカンの栽培は儲からない」といわれてしまいます。しかし、当社の問題点として、栽培技術の点で2つ、経営手腕の点で1つ、明確になっています。2年目の今年度は、これらの課題を解決すれば、経営を黒字に転換していけると考えています。

  栽培技術の課題の一つは、借り受けた圃場の微気象を充分把握できていなかったことです。地域の自然環境や過去の管理実態を把握しないまま、教科書通りの栽培技術を投入したことに原因がありました。中山間地域で借り受けた圃場は、海岸部に比べて夜露の発生が多く、黒点病などの病害の発生時期が海岸部の樹園地と大きくずれていたため、防除の適期を逃したことにあります。害虫は、発生をみてから防除しても何とか対応できますが、病害は発生してから防除しても治療はできません。この病害により進物用に当てようとしていた約30トン(1ヘクタール)の果実が、一般の安売り商材と加工仕向けに回さざるを得なくなったことです。

  栽培技術上の課題のもう一つは、品種に応じた収穫適期を逃したことです。この借り受けた圃場はおおむね1年間放置されていて、それまでの耕作者からのアバウトな情報のみで、前年の状況を取締役の誰もが的確に把握していなかったことです。それにより収穫作業の時期が遅れ、それに追い打ちをかけられたのが、昨年11月の雹の被害です。

  経営面では、労働管理の甘さです。収穫時期の労力は、アルバイトで人数は確保できたものの、借り受けた圃場での初めての収穫であったため、アルバイト作業者への作業分担や収穫樹の見分け方、圃場での果実の選別方法などについて、充分な指導ができていななかったことが挙げられます。これらにより作業能率を著しく低下させてしまい、アルバイトの能力を充分に引き出すことができず、一人当たりの平均採果量は280Kg/日(8時間)程度にとどまってしまいました。この採果能力は、ベテラン収穫作業者の2分の1から3分の1程度にしかなっていませんでした。この結果は、アルバイト作業者が採果をサボっているわけではなく、経営者の指示のまずさであることは良く判っています。

  過去の1年を振り返ってみますと、農業経営者であれば過去の管理データの分析から、今年度、次年度の管理方法を計画していくのは当たり前のことであり、私も農業の情報化の研究を長年行っておきながら、実際には何もできていなかったということは、「農家として失格である」と深く反省しています。また、農業生産法人の規模拡大についても、慎重に取り組んでいなかったという結果でもあり、反省しています。

  昨今、TPPへの対策として、「農業法人への農地の集積を」という話を聞いていますが、安易に規模拡大を図るのは考えものであると思っています。果樹園芸地帯では、基盤整備による農地の集積も困難ですし、放置された樹園地を復活させるにもそれなりの経費が必要です。行政の関係者は、農業を復活させるための施策を一生懸命模索中のようです。

  弊社のような1年生の農業法人の実態をオープンにして、現在の日本農業が抱える具体的な問題を一つ一つ見いだし、みんなで考え、日本農業の復活に取り組んでいきたいと思っています。数値データでは「農業者の高齢化」と一口に言いますが、果樹地帯の現地で、農家の高齢化に直面してしまうと、若者は農業への魅力を失ってしまうと思います。そうならないためにも、弊社は率先垂範して労働環境を整え、黒字経営にもって行かなければなりません。

  また、本機関誌の使命でもある「GAP普及」を推進するため、弊社の生産物を販売する部門を担う「株式会社サンライズみかんの会」(法人の出資者でもある)と連携して、この会社に農産物を持ち込む農家のGAPにも取り組みはじめています。去る5月8日には「みかん栽培講習会」を開催し、その指導に弊社のスタッフが応援する仕組みをスタートさせました。まだまだ解決しなければならない課題はたくさんあると思いますが、設備投資、社員の新規採用、規模拡大などを行いつつ、新年度には明るい未来を求めながら事業を進めて行きたいと思っています。

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