-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 70号

《巻頭言》
食品の一次加工から見た一次生産の課題

日佐和夫  一般社団法人 生産者GAP協会 理事
大阪公立大学 食品安全科学研究センター/微生物制御研究センター 客員教授
元国立大学法人 東京海洋大学大学院 食品流通安全管理専攻 教授

 食品衛生法の一部が改正され、HACCP制度の創設などが施行された(令和3(2021)年6月1日)。このことは、国内法のグローバル対応の第1歩でもある。その中で、一部の地域で生産農家が、収穫時に製造されている伝統食品や地域特性保存食品などの中で「漬物」が、新規営業許可業種の対象とされた。しかし、家内工業的生産設備などが営業許可要件に適合しないと判断され、「廃業の危機」に「漬物製造業者」も遭遇している。具体的には、「秋田のいぶりがっこ(文献1)」や「神奈川の三浦たくあん(文献2)」などである。また、富山市学校給食による牛乳が原因とされる下痢原性大腸菌食中毒事例(文献3)と一次生産である生乳との関係も課題であると思われる。この牛乳が原因とされた「下痢原性大腸菌」食中毒事例は、わが国で初めての食中毒であると言われている。今回、この二つの事例から「食品の一次生産と一次加工」について、意見を述べてみたい。

Ⅰ.一次生産農産物を農家での一次加工(漬物製造業)の営業許可要件の取扱に対する柔軟性への期待

1.季節性収穫農産物である「漬物」が新規営業許可業種になったことの理由

 食品衛生法の一部改正(令和3年6月1日施行、営業許可の対象となる業種の変更)に基づき、「漬物製造業」が新規営業許可対象品目になった。以前は、「漬物の衛生規範(食安監発第1213号:H25(2013).12.13改訂)」は通知されていたが、「漬物」は営業許可対象ではなかった。しかし、「漬物」製造過程で使用される食品添加物と「漬物の衛生規範」の遵守が、保健所の監視・指導の対象となっていた。一方、2012年8月、札幌市で発生した「白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事件(文献4))」を契機に、「漬物の衛生規範が改訂」され、さらに、今回の法改正で、これら「衛生規範」を含め、多くの通知が廃止(生食発第3号および生食発0601第7号:令3(2021).6.1)された。その中で、「白菜浅漬事件(文献4)」が新規営業許可品目の起因になったと推察している。一方、営業許可要件の中で加工を行うための専用区域(場所)を求めてきた。このことは、設備構造基準の視点から正論であるが、一方では、HACCP制度の中で、ハード的な「設備構造要件」を重視するのではなく、ソフト的な「管理運営要件」を重要視する傾向にある。しかし、現実的には、「管理運営要件」の中に「設備構造要件」を示唆する記載もあることから食品衛生監視・指導、また営業許可要件の中で、過去のDNAである「設備構造要件」を否定することは困難である。

2.「漬物」という食品分類カテゴリー

   「漬物」には、「農産漬物」「食肉漬物」「魚介漬物」がある。また、「漬物の加工方法」として、浅漬、塩漬、粕漬、麹漬、糠漬、酢漬、味噌漬、醤油漬、辛子漬などがある。これ以外に、地域によって特徴のある漬物が存在する。その中で、喫食する機会が多いのは、「農産漬物」である。また、「食肉漬物」の中には、「生ハム(食品衛生法の分類では未加熱食肉製品)(厚生省告示第95号、S57(1982).5.17)」があり、「魚介漬物」では、石川県の「フグ肝の麹漬け、糠漬け」などがある。生ハムについては、食肉製品製造業の営業許可、および生ハム(未加熱食肉製品)の規格がある。一方、石川県の「フグ肝の麹漬け、糠漬け」については、フグ毒(テトロドトキシン)による食中毒が懸念されるが、歴史的伝統食品と解釈されているのか営業許可の対象ではないようである。しかし、石川県では業界規制がある。この石川県の事例は、一次生産品の簡単な一次加工品製造における柔軟性、多様性を含んだ歴史的実態解釈であると理解できる。

3.一次生産品の一次加工における営業許可の柔軟な行政対応の可能性

  「漬物製造業」が新規営業許可対象になった理由として、2012年8月、札幌市での「白菜浅漬事件(文献4))」であると推察した。しかし、本件は、「浅漬」であり、むしろ、「野菜サラダ」のカテゴリーに分類されるべきであると考えられる。従って、「漬物」を「浅漬」と「古漬」に分類区分するなら科学的根拠である数値指標を設定すべきであると考える。この数値指標化によって、「浅漬」は「サラダ」として「そうざい製造業」とし、前述の「秋田のいぶりがっこ(文献1)」や「神奈川の三浦たくあん(文献2)」などが、「古漬」に分類されるなら、従来のように営業許可範囲外(例えば、届け出制)として、一次加工ができることを期待する。また、季節性農産物の有効活用、農家の経営安定化のために、農産物などの季節生産における一次加工、および零細・小規模生産に対し設備構造での柔軟な取り組み(文献5)も、許認可である都道府県の行政判断を併せて期待したい。

Ⅱ.2021年6月、富山市学校給食の牛乳による食中毒事件での一次生産(生乳)と一次加工(乳処理:牛乳)、さらには生乳流通の問題におけるHACCP的考察(推論)

 

 牛乳は装置産業であること、栄養特性などから食品の中で安全、品質、栄養などに優れた食品と考えられている。一方、行政的にも、「総合衛生管理製造過程(以下マル総と略す)の承認」工場が多いこと、また、厚生労働省関係から指針になる出版物(文献6~8)など行政的、技術的にバックアップされた業界であると推測している。また、特に、学校給食納品乳処理(牛乳)メーカーは、「マル総」承認工場であることを求められていると聞いている。
 このような背景の中で、学校給食提供であること、地域・中小製造工場であることにおける問題点、さらに本食中毒の原因菌が牛乳による「下痢原性大腸菌(注1)」というわが国、あるいは世界?で初めての原因菌であることから工場における原因箇所特定予測と共に、一次生産である酪農(搾乳、および生乳流通)についても述べてみたい。

注1)下痢原性大腸菌の分類(国立感染症研究所HPより)

1.腸管病原性大腸菌(EPEC) 2.腸管侵入性大腸菌(EIEC) 3.腸管出血性大腸菌(EHEC) 4.毒素原性大腸菌(ETEC) 5.腸管凝集性大腸菌(EAEC)

1.本食中毒事件の概要

  本食中毒に関する情報は、当初は、マスコミ情報が主であったが、2022年3月17日に厚生労働省食中毒部会開催資料(文献3)が入手できたので、その事件概要を整理した(表1)。

表1. 事件の概要
1.発生:2021年6月16日~17日に食中毒症状発生
2.患者:1,896名
3.主な症状:腹痛、下痢(水様性、軟便)、発熱
4.原因食品:成分無調整牛乳(128℃、2秒)
5.原因物質:大腸菌OUT(OgGp9):H18(国研:衛生微生物部)
牛乳中の細菌検査結果(最確法)
大腸菌 約10/100ml  生菌数約300~20,000/ml

2.一次生産としての生乳の一般衛生管理事項

 乳牛でも、肉牛でも酪農での衛生的飼育が重要である。しかし、酪農家の高齢化に伴い衛生的飼育管理が難しくなってきているのが実態である。例えば、肉牛処理(と畜段階)前に牛の汚れ(鎧(ヨロイ):生体牛への糞便付着状態)に応じて、出荷農家に対し、と畜場が洗浄経費を要求する場合がある。乾燥した鎧の除去は、牛にとっても相当ストレスになり、肉質に変化をきたすと言われている。このことは高齢化などで生産農家での衛生管理(特に、生体牛の糞便管理)が困難であることを示唆している。このような状況中で、コストを払ってでも生産農家は、清掃・洗浄管理作業をと畜場に依存している。また、と畜場では洗浄作業が従業員の負担になり、残業代や人員確保の負担にもなっている。
 一方、乳牛においては、搾乳工程、および生乳流通工程での衛生管理が重要となる。酪農農家によっては、飼育環境やその作業は、異なると推測されるが、搾乳工程、および生乳流通工程での衛生管理の例を表2に示した。

表2.搾乳工程、および生乳流通工程での衛生管理の例(筆者作成)
  1. 搾乳機一式(ミルカ―およびパイプなど)の洗浄・殺菌
  2. 乳缶の洗浄・殺菌(近年はバルククーラーが増えている)
  3. バルククーラーの洗浄・殺菌、および電源入れ忘れ(生産者所有)
  4. 乳缶中の搾乳生乳の迅速低温管理
  5. クーラーステーションまでの低温管理
  6. クーラーステーションの温度管理(管理者の明確化:バルククーラーに準じる)
  7. タンクローリーの洗浄・殺菌と温度管理

 しかし、表2で示した衛生管理については、酪農規模により異なることも考えられ、「多様な衛生管理」が行われていると推測する。例えば、大規模酪農家では、搾乳からタンクローリーまで、完全自動パイプラインー搾乳―集乳方式で、外界に触れることのないシステムも考案されている。また、このシステムには定置式(CIP)洗浄システムが導入されていることは言うまでもない。

3.乳処理製造工程における問題点(食中毒部会資料を整理)

 生乳段階での衛生的問題点を述べたが、乳処理工程で生乳由来の食中毒菌が混入汚染することについて、食中毒部会の資料(文献3)に基づき、以下のように整理した。

表3.乳処理製造工程(含む機械名)における問題点(含む指摘事項)(文献3の資料を整理)
No.乳処理製造工程
(含機械名)
各工程における問題点(含む指摘事項)
作業工程全般 1.記録が少なく、経験に基づいており、確認不足があった
2.作業工程が変更されても手袋を交換していなかった
3.次亜塩素酸ナトリウムを直射日光の当たる場所で保管
4.使用済清拭布や手袋を消毒バケツで洗浄、これが汚染原因
製造工程上の全般的問題点 1.配管洗浄方法や頻度に問題
2.殺菌剤の管理方法や使用濃度に問題
生乳受け入れタンク*
 生乳受け入れ
1.生乳受入れ試験時に、未殺菌乳を飲用
2.受入れタンク清掃時に専用の長靴を使用していない
3.受入れタンクからバランスタンクまでのCIP洗浄未実施
4.ライン接合部に残留物があり、セレウスが検出
(4.バランスタンク 5.殺菌機①予備加熱(80℃) 6.保持タンク 7.ストレーナー(80メッシュ))
 基本的に表1の資料には言及した文言は見られなかったので記載を省略した。
ホモジナイザー(均質機) 1.圧力計に誤差(実際より大きな値が表示)
殺菌機
① 加熱殺菌(128℃,2秒)
② 冷却(10℃以下)
1.配電盤表示温度により温度調整するシステム
2.温度センサー(測温抵抗体)は、抵抗値を温度変換するシステム
3.FDV(Flow Diversion Valve:異常時の流路切替弁)は、配電盤表示温度と連動されてなく、温度センサー(測温抵抗体)により、FDVが発動(連動)される。
4.温度指示調節計(測温抵抗体)は経年劣化により絶縁低下がみられ、配電盤表示温度より低い温度であった。交換発注中(劣化した測温抵抗体を使用?)
5.R2.8プレート交換済
10 サージタンク 1.サージタンクのベントからの汚染を示唆(ベント位置変更)
2.CIP洗浄実施、蒸気殺菌(80℃、40分間)
11 ストレーナー(80メッシュ)
12 バランスタンク 1.前日の殺菌乳(18L乳缶3本)を投入、18L破棄、36L製品化
13 充填包装機 1.充填機、およびパック容器整列台の汚染の可能性
2.CIP洗浄実施、蒸気殺菌(80℃、40分間)
3.HEPAフィルター年1回交換(充填室)

*:洗浄は手洗い、それ以外の工程(機械)はCIP洗浄(但し、CIP洗浄配管系統図面記載なし)

4.本事例のHACCPに基づく理論的考察の試み(推測)

 筆者は、過去に「真空包装辛子蓮根によるA型ボツリヌス中毒事例に基づく辛子蓮根製造過程のHACCPプラン作成の試み、日佐和夫・林賢一・阪口玄二、日本包装学会誌、Vol.7, No.5, 231-245, 1998.」を報告した経緯がある。また、実務的業務で、「牛乳の大腸菌群汚染調査」や「牛乳の異味・異臭ロットクレーム発生事故」などを経験してきた。これらのことから、今回は、UHTプレート式熱交換器(殺菌機)をフォーカスし、その原因について理論的考察を試みた。

(1)UHTプレート式熱交換器(殺菌機)の機能とメンテナンスの課題

 表3のNo.9の1および2では、配電盤表示温度とFDV(Flow Diversion Valve:異常時の流路切替弁)とが連動しない構造で、温度センサー(測温抵抗体)との連動(表3のNo.9の3参照)であった。すなわち、温度センサーの測温抵抗体の劣化による絶縁低下がみられ、FDVはその機能を発動されず、結果として、温度センサーの温度が低かったと判断される。従って、未殺菌、あるいは殺菌不足の牛乳がサージタンク(殺菌済)に搬送された可能性は否定できない。この温度センサーのモニタリングがCCPモニタリングであるとの認識を持っていたかどうかであろう。しかし、実際の殺菌工程での稼働当初では、殺菌温度到達までFDVが作動し、配電盤表示温度と温度センサーを確認しながら殺菌温度到達とFDV機能であるリターン停止の確認作業が実施されていたと推察している。しかし、この一連のUHTプレート式熱交換器のメンテナンス不良、および確認作業は、表3のNo.1から推測される一般衛生管理不良の事実から、残念ながら高い確率で適切なメンテナンスが実施されなかったと推察できる。
 しかし、本件の原因菌が大腸菌であることから温度センサーの絶縁低下が原因で、FDVのリターンが作動しなかったと仮定しても、実際温度が128℃、2秒に達しなくても、または63℃、30分、あるいはその同等以上であれば、当該原因菌は殺菌されているものと推察できる。この温度低下の原因については、熱源(ボイラーなど)供給温度やボイラー蒸気圧の低下の可能性も否定できないことからこれらの記録も確認する必要がある。つまり、ボイラーなどの熱源の機能低下が殺菌温度に影響することも考えられる。それ故、これらの事象について、ミニプラントでの実証試験や牛乳由来原因分離株(大腸菌)とその標準株によるZ値(耐熱性値)を測定し、当該原因菌が耐熱性を獲得しているかどうかの評価が可能であると推測する。
 また、前述のUHT殺菌プレートは薄いステンレスプレートから構成され、ガスケットの必要枚数が圧着されている。当然、高温で処理されることからステンレスプレートに乳成分などの付着、プレートのピンホール、さらにガスケットなどの劣化・装着不良などによる液漏れを防ぐために、機械メーカーの指示(取扱説明書)により、メンテナンスが実施されていることがPRP(前提条件プログラム)である。しかし、このプレート式熱交換器のメンテナンス不良による未殺菌乳の混入が今回の事故要因であると推察している。

(2)その他の要因

 その他の要因として、1.CIP洗浄システムの過信(タンクの手洗い、ジョイント部の分解洗浄とパッキンの交換)、2.充填ライン系統の微生物管理、3.サージタンクのベントからの汚染とサージタンクの冷却、牛乳プラントのモニタリングポイント装置の汚染などが想定される(文献9)。しかし、予備加熱(80℃)、および殺菌加熱(120℃、2秒)が正常に運転されていれば、生乳由来の大腸菌(非耐熱性細菌)などは殺菌されていたが、UHTプレート式熱交換器(殺菌機)のメンテナンス不良、すなわち、生乳(5℃)と殺菌乳(120℃)との熱交換器のメンテナンス不良により、殺菌乳に生乳が混入したと推察した。

5.まとめ

 前述の「辛子蓮根ボツリヌス中毒事件」の論文検討の中で、当時、「原料である蓮根、辛子、小麦粉のどれが原因食品か」という原因追及のマスコミ記事を記憶している。このことは、原料が農作物であること、わが国は、WHOの「ボツリヌス菌汚染区域」であることなどから、すべての農産物にはボツリヌス菌が付着してもおかしくない。要は製造過程での「汚染、あるいは増殖」が問題となる。
 今回取り上げた2事例は、一次生産段階のリスクと一次加工段階でのリスクである。前者は製品リスクが極めて低い農産物加工(古漬:いぶりがっこ、三浦たくわんなど)に過大な設備を要求することの問題点を提議した。一方、この許認可権は地方行政の裁量で可能ではないかと考えている。後者は、生乳の品質を考える上での一次生産の問題点を指摘し、その安全確保をするのが乳処理メーカー(一次加工)であると考えられる。従って、GAP(適正農業規範)の中でも、川下(加工)の実態を考慮する必要があろう。今回、同じ生乳供給者が2社の乳処理メーカーに納品していたと聞いている。このことは行政調査において、ケーススタディ(事故牛乳処理メーカー)とケーススタディコントロール(正常牛乳提供乳処理メーカー)調査が実施される行政体制の必要性を提案したい。また、この提案、あるいは実施は、それぞれに関係する衛生技術専門家の責務であると推察する。

文献1)ヤフーニュース、2021.12.6(月)配信:いぶりがっこ、伝統の味ピンチ 衛生基準導入、高齢農家「何年できるか」秋田、時事通信社
文献2)カナコロ:神奈川新聞社:2022/1/24(月)配信:三浦たくあん窮地、衛生基準導入でコスト増「やめるかも」 文献3) 厚生労働省:薬事・食品衛生審議会、食品衛生分科会、食中毒部会(令和4(2022)年3月17日)開催資料、https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-yakuji_127886.html
文献4)白菜浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒事件についてー札幌市、IASR(国立感染症研究所)Vol.34,(No.399),p126 May 2013
文献5)監訳:吉田隆夫、翻訳:日佐和夫、「Codex国際食品規格:食品衛生の一般原則2020改訂」、発行:e-食安全研究会、(一社)クリエイティブ食品開発技術者協会、2021.6.15
文献6)厚生労働省乳肉衛生課監修/動物性食品のHACCP研究班編「HACCP:衛生管理計画の作成と実践、乳・乳製品編、1998.1.1中央法規出版」
文献7)厚生労働省「HACCP入門のための乳・乳製品編H27(2015).10」
文献8)日本乳業協会:「乳・乳飲料製造の衛生管理計画の作成の手引き、2019.3.19公表、2021.4.9改訂」、発行・公表
文献9)日佐和夫:Codex食品安全規格「食品衛生の一般原則」改訂のポイントと運用課題:第7回 富山市学校給食食中毒事件を事例としたHACCPに基づく理論的考察(推論)、月刊食品工場長5月号、p56-59、2022

2022/6


≪提言≫
国が求める「GAP指導現場での効果的な方法」
-GH農場評価制度を利用した国際水準GAP推進モデル-

一般社団法人日本生産者GAP協会
 教育・研究委員会

1. 持続可能な農業経営と産地育成のためのGAP教育システム

 日本生産者GAP協会は、持続可能で適正な農業実践(GAP)の行動規範として「日本GAP規範」を発行(第2版2021年9月)しています。また、実際の農場管理レベルを評価する「グリーンハーベスター(GH)農場評価制度」を策定しています。
個々の農場及び生産組織のGAP推進のためには、農場運営及び組織管理の実態を評価し、「日本GAP規範」に示された適正な実践(グッドプラクティス)との隔たりがあれば、運営や管理方法などの改善指導をすることが必要です。「GH農場評価制度」は、GAPの実践やその指導を効果的かつ効率的に行う優れた手法として、多くの都道府県やJAグループに取り入れられています。

農業経営体の実情に即した効果的で効率的なGAP推進

 「GH農場評価規準」は、日本の法令や規則等に基づき作成された「日本GAP規範」に基づき、かつ国際取引等で広く使用されている「GLOBALGAP認証」の基準をカバーし、農林水産省が策定した「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン(旧ガイドライン)」に完全準拠しています。同省は2022年3月8日付で新たに「国際水準GAPガイドライン(新ガイドライン)」を策定し、2030年までにほぼ全ての産地で新ガイドライン水準での実施を目標としています。「GH農場評価規準」は元来、新ガイドラインで示す範囲をカバーしており、現在、新ガイドラインとの準拠確認についても審査を申請し(5月20日)、同省にて精査中です。

2. JAの営農指導と行政の普及指導で最も効果的なGAP推進

 日本の農業政策の柱として、「令和12年までにほぼ全ての産地で国際水準GAPが実施されるよう、現場での効果的な指導方法の確立や産地単位での導入を推進する」ことが閣議決定されています。(2021年度GAPシンポジウム講演資料)
  日本農業の圧倒的多数である小規模の家族経営農家が、「SDGs(持続可能な開発目標)」や「みどりの食料システム戦略」の最大のテーマである「持続可能で適正な農業実践(GAP)」に対応していくためには、主体的な協同の力とそれを支える行政支援が必須です。それは、これまでの業務にプラスするGAP推進ではなく、都道府県の普及指導員やJAの営農指導員が日常的に実行している本来業務としての農業指導の中で「生産者のGAPを支援すること」で達成されます。GH農場評価制度は、そのために設計された教育・評価システムであり、これまでの12年間で県の普及事業とJAの営農活動で実証されてきました。
  JAグループ(全農)の令和4~6年度の中期3カ年計画では、国際水準GAPの取組みに向けて、GH農場評価制度を活用した生産者・部会等への普及拡大と、そのための評価員養成支援を実施することが決定され、地域ごとにGH農場評価員の養成研修が開催されています。(2021年度GAPシンポジウム講演資料)
  岐阜県では、「GH農場評価制度」を採用した県主管の農場評価制度「ぎふ清流GAP評価制度」を開始しています。この新たな制度は、「2020オリ・パラ大会」に向けて一時的に設置された県確認制度を廃止し、いわゆるGAP認証ではなく、岐阜県農業振興のためのGAP教育手段として策定されました。岐阜県では、県確認制度以前から「GH農場評価制度」に基づく指導者養成を実施しており、県確認制度の審査員もGH農場評価員試験の合格者を任命していました。「ぎふ清流GAP評価制度」の開始時は個別農場による申込が多かったものの、今後は県内全ての農業者への取組み普及に向けて、生産組織を単位とした取組みを広げていくことになるとのことです。(2021年度GAPシンポジウム資料)

GH農場評価制度の成果とGAPによる地域農業振興計画

2022/6


≪GAPシンポジウム特集Ⅱ≫持続可能な農業の国際戦略の方向

【講演1】
農業の競争力強化と持続的な発展につなげるGAP
国際水準GAPの具体的な取組み 農林水産省農業環境対策課

*「みどりの食料システム戦略とGAP政策」,2021年度GAPシンポジウム, 農林水産省農業環境対策課の講演を参考・引用しました。

我が国におけるGAP普及の背景

・2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における食材の調達基準としてGAP認証等が採用され、GAPの認知度が向上し、全国でGAPの取組が広がった
・今後は、国際的な農産物の取引が増加していることも踏まえ、食品安全、環境保全、労働安全(現行の共通基盤ガイドライン)の取組に、人権保護及び農場経営管理の分野も加えた「国際水準GAP」として全国の産地に普及する。輸出では、労働者の権利保護等に配慮した原料調達が取引先から求められる。

「みどりの食料システム戦略」で、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現することを目指す

・農林水産業の持続的な発展のためには、化学農薬・化学肥料や化石燃料の使用抑制等による環境負荷低減が必要である。

GAPは、農業において持続可能性を確保するための取組であり、SDGs の理念との親和性が高い。

・国際水準GAP は、人権保護及び農場経営管理の2分野を追加することで、SDGs が目指す経済・社会・環境が調和した持続可能な世界の実現に幅広く貢献できる。社会全体でSDGs への対応が求められる中で、農業者が国際水準GAP に取り組むことにより、自らがSDGs へ貢献していることを理解するとともに、その取組が実需者、消費者などに広く知られるように発信していくことが重要である。

農林水産省の「国際水準GAPガイドライン」では、国際的に求められるGAPの取組事項を、食品安全、環境保全、労働安全、人権保護、農場経営管理の5分野に分け、根拠及び参考となる法令・通知等とともに提示する

・国際水準GAPガイドラインは、国内外の法令などに準拠するとともに、実需者等からGLOBALG.A.P.、ASIAGAP、JGAP などの第三者認証を求められた際に円滑に認証取得できるよう必要な取組項目を網羅する。

国際水準GAPの具体的な取組み

(1)国際水準GAP に取り組む農業者のメリットの明確化

取り組み内容の標準化
・主要品目に対応した分類ごとの国際水準GAP ガイドラインの策定
・国際水準GAP ガイドラインに基づく取組のわかりやすい解説書の策定

メリットの明確化
・国際水準GAP ガイドラインに基づく取組のデータ化の促進
・国際水準GAP ガイドラインに基づく取組のSDGs や環境負荷低減などへの貢献の見える化

(2)国際水準GAP の取組拡大に向けた指導体制の構築

指導員の育成強化
・GAP 指導員を対象としたコーチング技術の向上を図るための研修の実施
・GAP 指導員を対象としたデータの記録、活用の能力向上を図るための研修の実施
・GAP 指導員を育成するための研修受講等に対する支援

JA 等と連携した面的にまとまった取組の推進
・GAP 指導員を対象とした団体の組織化に向けた指導力向上のための研修の実施
・GAP 指導員を育成するための研修受講等に対する支援
・環境負荷低減に取り組むことを要件とした団体認証取得の支援

(3)実需者及び消費者の認知度向上に向けた取組

・国際水準GAP とSDGs の各ゴールとの対応の見える化
・農業者がSDGs への貢献を実需者、消費者等に発信できる仕組みの構築
・関係省庁と連携した消費者に対する情報発信の実施

2022/6


≪GAPシンポジウム特集Ⅱ≫ 持続可能な農業の国際戦略の方向

【講演2】
人と環境にやさしい信頼される農場になる取組み
2020年11月に岐阜県が創設 ぎふ清流GAP評価制度

*「ぎふ清流GAP評価制度について」,2021年度GAPシンポジウム, 岐阜県農政部農産園芸課の講演を参考・引用しました。

ぎふ清流GAP評価制度の主な特徴

①生産者が取り組みやすい農場評価制度

・評価項目ごとに取組状況の評価基準を設け、農場評価を点数化することで、生産者の管理レベルを的確に把握できる
「GH農場評価制度」の導入
 ・GH農場評価は、生産者農場の健康診断です
 ・ぎふ清流GAP評価制度では、第三者機関の専門評価員が公正に農場を審査する
 ・健康診断(農場評価)に基づいて、必要な改善を指導する

②上級グレードを目指せる評価制度

・国際水準のGAPに準拠しており、客観的な評価に基づいて上級レベルを目指せる
「GH評価報告書」は持続可能な農場経営と産地育成のためのGAP教育システムです
 ・評価項目はリスクレベルに応じて5段階評価
 ・生産者の持ち点1,000点からの減点方式
 ・農場管理の全体像と個々の項目ごとにコメントする

③生産者の経済負担が少ない評価制度

・評価登録料は、農場評価1件につき3,300円。評価は3年間有効

④ロゴマークによるPR

・農場評価が一定水準を満たす場合に、ロゴマークを使用して買手に表示することができる

2022年に行政がGAP推進に取り組む背景

・オリンピック・パラリンピックの開催で、県GAP確認制度が終了した
・農林水産省のガイドラインが国際水準GAPになる
・農家には経済負担が多すぎて民間認証に取り組み難い

「ぎふ清流GAP推進センター」創設の理由

・取組が多岐にわたるためワンストップ窓口の設置が必要
・岐阜県農業の基盤づくりが重要
・農業者と行政が一体となった取組が大切
・現場の疑問に対応できる指導(教育)体制の整備が必要

「グリーンハーベスター農場評価制度(GH評価)」選択の理由

・段階的にステップアップができること
・客観的な評価がなされること
・経済的負担が少ないこと
・生産者に対する継続したGAP啓蒙活動ができること
・GAPの認知度(消費者、流通業者等へのPR)ができること

2022/6


≪GAPシンポジウム特集Ⅱ≫ 持続可能な農業の国際戦略の方向

【講演3】
JAの営農事業を改革する
GH農場評価制度でスムーズなGAP認証への移行

「JAグループのGAP推進戦略について」,2021年度GAPシンポジウム, 全国農業協同組合連合会 耕種総合対策部GAP推進課の講演を参考・引用しました。

JAグループGAP支援チームは、生産者の状況に応じた段階的なGAP取組みの支援を行っています

①農業で守るべきことを体系的に管理する行為がGAPです

・「国際水準のGAPをする」に向けた取り組み・支援を重点課題に位置付けて積極的に展開
・実需者のニーズをふまえながら、販売力強化の視点で「国際水準のGAP認証取得」を支援
・グリーンハーベスター(GH)農場評価制度の生産者・部会等への普及拡大とそのための評価員養成の支援

②ほぼすべての国内産地で国際水準の「GAPをする」ことを支援します

・生産者がGAPを理解する
・5分野(食品安全、環境保全、労働安全、人権保護、農場経営管理)の取組みを開始する
・継続して改善している状態が確保されていること(結果と同時に過程も)が重要

「GAPをする」手法として、GH農場評価制度を活用しています

①GAPを通じて、部会やJAの課題を見つけ、改善できるツールがGH農場評価制度です

 1) 農水の現行ガイドラインに準拠し、多くの道府県でGAP指導員の要件となっている
 (今後導入される、国際水準GAPガイドラインが求める5分野も網羅)
 2) 農家の実情に応じた目標設定、取り組みが可能です
 3) 結果だけではなく、過程の管理が可能(点数化によるモチベーション維持)です
 4) 営農指導やTAC活動として活用することが可能です
 5) コストが掛からない
 6) 営農指導を点ではなく、面的に展開することができます

②GH農場評価制度に取り組み、必要に応じてGAP認証へのスムーズな移行が可能です

1) GH農場評価制度は国際標準のGAP認証と内容面で互換性があります
2) GH農場評価員補はGLOBALG.A.P認証の内部検査員として活動できます

GAP支援のプロセス「GH農場評価」で営農事業の改革をすすめる

手順1
・JA内部でGH評価員を育成する(講習会参加+実地+試験)
・GH評価をどの生産部会で実施するかを策定する(センター単位・グループ単位でもアリ)
手順2
・「JAグループGAP支援チーム」が生産部会向けにGAPやGH評価の内容等を説明する
・支援チームとJAのGH評価員で部会員などの農場を評価する
手順3
・評価内容を分析する(GHで見えてきた課題の抽出)
・分析内容を受けて支援チームと対応策を検討する
・JA営農指導員の業務の整理・営農指導の課題を抽出し役員と話し合う
手順4
・部会役員・JA部次課長との後半に向けての話し合い・スケジュール等を打ち合わせする
・生産部会全体でのリスク評価の講習会
・生産履歴や記録帳票、手順書の作成(最善)を支援する
手順5
・生産部会員向けの内容、記録類等の周知
・部会の農場評価、課題の解決・次の展開への話し合い
手順6
・生産部会としての課題解決にむけて次年度、及び他生産部会JA全体での取り組みに変換
・総括(JA、経営体を含めて)
・期間は1年~2年間をかけて醸成していく

2022/6


≪GAPシンポジウム特集Ⅲ≫ 世界のGAPステージ3(実践のポイント)

2021年度GAPシンポジウム(2022年2月8日)総合討論まとめ

 世界のGAPステージが第3段階に移行する中、オリパラ後の日本のGAP推進はどうあるべきか議論を深めました。また、農林水産省の新たな政策「みどりの食料システム戦略」を意識した「日本GAP規範第2版」と、その実現に向けた岐阜県のGAP政策、及びJAグループによる新たなGAP普及の取組みについて議論を発展させました。
 当日の総合討議の内容を要約して掲載します。

【討論2-1】 農林水産省にたずねる 持続可能な農業の国際戦略

GAP取組の負担はどうすれば軽減できますか?

【参加者】  国際水準GAPの取り組みを指導する際に、JA 事務局の負担があまりにも大きく営農指導の足枷になっているように思います。職員4名程度で、延べ日数50日以上拘束されているような感触です。何か取り組み主体者の負担軽減につながるような方法はないものでしょうか?

【司会者】  質問は、組合員農家がGAP認証に取り組む際におけるJAの負担ということです。「岐阜清流GAPによる地域農業振興戦略」と「JAグループによる農場管理の指導システム」の説明がありましたが、GAPの普及教育について農林水産省の方にお答えをお願いします。

国はGAP指導者の育成とGAP研修体制を推進する
【農林水産省講師】  取り組みしたい人たちの負担軽減に繋がるかどうかは難しいところですが、JAの取組みにおいては、都道府県との連携は非常に大事だと思うんです。農水省では、GAP 指導員の育成ということで、都道府県を通じて普及員やJA の営農指導員をGAP指導者として育成する事業やその体制整備を支援しているところです。都道府県とJAとが一体感を持って進めていただくということが課題解決の一つの答えかと思います。
 その上で、JAの事務局の負担をどのように軽減していくかということですが、農水省としては、国際水準GAPの推進において、JAなどの組織的なGAPの取組を面的に広めていくことを目指しております。中でも、GAP研修について今後どのように進めていくかということを検討していきたいと思っています。いずれにしてもJAの取り組は強化していきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

「みどり戦略」は農業の技術革新を伴ったGAP対策でもある

【参加者】  「みどりの食料システム戦略」では 「GAP」 という言葉(文言)はなかったと思いますが、GAPを位置づけがなかった理由があるのでしょうか。GAPは環境保全と労働安全や食品安全などの取り組みも含むので、環境をメインとした政策には入らなかったのでしょうか。

【農林水産省講師】  GAPの文言がまったくない訳ではく、資料の2ページの「みどり戦略」抜粋を見ていただくと、具体的な取組の一つとして「持続的な生産に資するGAPの導入推進が必要である」と記載しています。
 ただご指摘の通り「GAP」という文言をあちこちに記載している訳ではございません。「みどり戦略」は、新しい技術や生産体系を開発してイノベーションを創出し、2050年までに目標の達成を目指す戦略になっています。すでに生産現場で取り組まれているものをどう推進していくかという戦略ではありませんので、「GAP」という文言はあまり出てこないということになります。
 しかし、イノベーションの結果として開発された技術の社会実装、らたな農業技術や生産体系をどうやって現場に普及させていくかという点で、やはり「GAP」による普及が必要だと認識しています。

国際水準GAPを推進する方法としてGH農場評価制度を推奨しますか?

【参加者】  今後、都道府県GAPを国際水準GAPに合わせていく際には、具体的には GH農場評価の活用をお考えでしょうか?または他に良いい方法はあるでしょうか?

【司会者】  他の参加者から、国が進める国際水準 GAP とは資料に示された5つの分野を含むGAPを実戦することと理解してよいでしょうか?また、それらを進めるにあたってGH農場評価制度を活用したいと考えているがご意見を聞かせてくださいという質問がありましたので合わせてお願いします。

「GH農場評価制度」も都道府県の考え方で進めていただければ良い
【農林水産省講師】  今後の国際水準GAPの推進に当たっては、都道府県GAPの規準を、5分野を満たした国際水準に引き上げていくことをお願いしていこうと考えています。その際、ステップアップでの農業者の取組水準の引上げなど、各都道府県の方針や考え方が様々あることは承知しています。国として、ほぼ全ての産地で国際水準GAPに取り組んでもらうという目標は、都道府県の皆さんと一体感を持ってしっかり進めたいと考えていますので、都道府県の皆さんの声を聴きながら進めていきたいと思います。
 「GH農場評価制度」ですが、この制度は私もよく承知しておりまして、GAPの実践内容をレベル化するという、他にはない画期的な取組だと認識しております。
 今後、我々はGAP認証を取ることではなく、GAPの実施、つまり「GAPする」をしっかり普及していきたいと考えています。「GAPする」を普及・指導するための仕組みとして、「GH農場評価制度」は非常に優れているという認識です。
 今後、国際水準GAPの普及に向けてどういう手法で進めるかは各都道府県の判断によりますが、「GH農場評価制度」の活用も当然良いと思いますので、それぞれの考え方で進めていただければと思います。

GAP指導者はJA営農指導員、普及指導員およびそのOBなどが考えられます

【参加者】  国はGAP指導員の人数を増やす計画のようですが、指導者の外部委託は可能でしょうか?県の普及指導員やJA営農指導員だけでは業務が増えすぎてしまうのではないかと心配しています。一方で農業者としては、日頃から信頼できる普及指導員またはJAの指導員による相談活動としてGAPの指導を受けたいという気持ちがあります。

【農林水産省講師】  基本的に、都道府県はそれぞれが策定する計画に沿ってGAPの指導者を育成することになりますので、その方法を国が指定することはありません。外部委託という意味では、例えば指導者育成の研修講師を委託することは多いと思いますが、農業現場で実際に指導に当たる者は、都道府県の普及指導員とJAの営農指導員がその大半を占めています。
 今後、GAP指導員を増やしていくに当たって、基本的には、普及指導員やJAの営農指導員を想定していますが、各都道府県の考え方によっては、例えば、普及OBの方にご活躍いただくということもあるかと思います。

国の補助は、農場の改善やGAP認証の継続監査にもありますか?

【参加者】  このところGAP認証の農場数が右肩上がりに伸びているようですが、新規ではなく、認証の維持・更新はどのようになっていますか?

【司会者】  国のGAP政策の中に農場のリスク低減の事業があるようですが、その予算は少ないように思いました。新規にGAP認証に取り組むに当たっての農場改善の補助があれば取り組み易いように思います。

GAP認証は主体的な取組みですが、環境問題への地域的取り組みなどを推奨します
【農林水産省講師】  GAP認証を取得してもすべてが継続しているわけではないようです。相当数の農場が継続審査を行わない実態のようですが、今はそれを上回る新規の取得農場があるということです。
 農場のリスク低減事業についてですが、現在、予算化しているのは農場のリスク低減の実証事業です。3年程度の実証事業を行って、それらをGAP指導に生かすなど、多くの農場で利用してもらうことを狙いとしております。
 一方、令和4年度予算においては、環境負荷低減にかかる取組を行うという要件はありますが、都道府県向け交付金でGAPの団体認証取得の支援を受けられるように措置していますので、都道府県と相談の上で是非手を上げていただければと思います。

担い手問題、労働衛生、人権問題もGAPの重要な課題です

【参加者】  人権問題を含む農業の労働環境改善はGAPと一体的に対応すべき課題だと考えています。農業の働き方改革をGAP 実践の観点から進めないと、多様な人材働き手を継続的に確保することは困難になっています。農林水産省においては部門縦割りではなく、部門間の連携により対処する考え方はありますでしょうか?

国際水準 GAPを柱に農政をワンストップで展開する
【農林水産省講師】  ご指摘の縦割りの部分は農水省として耳の痛い話です。農業政策の中では、喫緊の課題を様々に抱えていて、それぞれに進めているわけですが、国際水準 GAPを政策全体の中にしっかりと据えて、それをワンストップ的に生産現場に下ろしていくという連携・統合を目指したいと考えています。ご指摘のように、農作業中の死亡事故が他業種に比べて非常に高い状況ですが、農作業安全だけでなく、農薬や肥料など、農林水産省内の様々な部局に所管が分かれています。この問題に対して、現在、策定作業を進めている「国際水準GAPガイドライン」では、生産現場で取り組むべき内容を一元化して示していくことで、都道府県やJAでしっかり国際水準GAPに取り組んでいただけるようにしたいと思っております。

GAP推進と農産物販売促進は一体的に進める必要がある

【参加者】  ポストオリパラ対策で、GAP普及と農産物食品販売促進の部門連携が必要だと考えています。この連携が不十分なため、生産者、産地、JA への動機付けが弱く、オリパラ後 GAP 普及は低調です。これらについても、農林水産省内の部門間連携により対処する方策はおありでしょうか?

「GAPとは、農業分野のSDGsである」という認識を
【農林水産省講師】  GAP普及と販売促進の部門の連携ということですが、非常に難しい課題だと認識しています。なかなか解決策を見出しにくいのですが、一つはSDGsの観点が考えられます。実需企業に対して、GAPによるSDGsの見える化の取組を進め、「GAP=農業のSDGs」であると示すことで理解を深めてもらうことを進めたいと考えています。意識の高い食品企業では、企業の社会的責任の観点(デューデリジェンス)で関心を持ってもらえると考えています。
 実践の現場では、都道府県、JAグループが連携して都道府県全体として推進していただく体制が整えば非常に理想的だと考えています。国としても、そういった取組を後押しできるような仕組みを考えていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

GAPパートナー企業と農業者のマッチング事業の成果は

【参加者】  国が進めているGAPパートナー企業と農業者のマッチング事業の成果は?

【農林水産省講師】  農業者から数百の情報提供がありますが、1割強ぐらいは「パートナーからの働きかけがあった」との回答があり、そのうちの一定数は取引に結びついていると聞いています。

GAPは農業分野のSDGsである

【参加者】 GAPに取り組む農業者のメリットを見える化することが必要です。
【参加者】 消費者や流通事業者に認知される仕組み作ることが必要です。

【農林水産省講師】  「GAPとは、農業分野のSDGsである」と前面に押し出して、農業者がSDGsへの貢献を見える化すると同時に、GAPに取り組めば実需者・消費者に対して農業者がSDGsに貢献していることをアピールできる仕組みを構築していきたいと考えています。
 例えば、「みどりの食料システム戦略」では補助事業等へのクロスコンプライアンスの導入等を謳っています。GAPをしっかりやっていれば、この課題をクリアできるはずだと我々は認識しておりますので、このクロスコンプライアンスの導入とGAPの取組を絡めて推進できればということも考えています。

2022/6



≪GAPシンポジウム特集Ⅲ≫ 世界のGAPステージ3(実践のポイント)

2021年度GAPシンポジウム(2022年2月8日)総合討論まとめ

 世界のGAPステージが第3段階に移行する中、オリパラ後の日本のGAP推進はどうあるべきか議論を深めました。また、農林水産省の新たな政策「みどりの食料システム戦略」を意識した「日本GAP規範第2版」と、その実現に向けた岐阜県のGAP政策、及びJAグループによる新たなGAP普及の取組みについて議論を発展させました。
 当日の総合討議の内容を要約して掲載します。

【討論2-2】 東京オリパラ後の日本のGAP推進はどうあるべきか
岐阜県の取組み事例に学ぶ

「GH農場評価制度」に基づく「ぎふ清流GAP」は、国際水準GAP

【参加者】  「ご講演、ありがとうございました。とても分かりやすかったです。スライド5枚目の国際水準準拠の意味を教えてください。

【岐阜県講師】  「ぎふ清流GAP農場評価制度」は、「グリーンハーベスター農場評価制度(GH農場評価制度)」に基づいています。GH農場評価は「日本GAP規範」、「グローバルGAP規準」、「GAPの共通基盤に関するガイドライン」に準拠しています。ただし、グローバルGAPは農産物取引のための第三者認証制度ですから、その認証制度の運営に係る特有の規則などは除きます。

【日本生産者GAP協会】  補足させて頂きます。新年度には農林水産省が農産物の輸出拡大等に向けて「国際水準 GAP ガイドライン」の定義をまとめると思います。現在の「農業生産工程管理(GAP) の共通基盤に関するガイドライン」の改訂版になると思います。
 これまでは、グローバルGAP、ASIAGAPのような農場認証制度の農場検査基準を「国際水準GAP」という言い方をしていた時期があったと思います。「ぎふ清流GAP評価制度」の構築段階では、それらを考慮したGH農場評価制度を採用することで、国際水準になっているということです。また、農林水産省の共通基盤に関するガイドラインに関しましては、GH農場評価制度がその基準を満たしているという農林水産省の評価をいただいています。

「ぎふ清流GAP農場評価制度」は農産物を販売する組織を重点に指導する

【参加者】  ぎふ清流GAP農場評価制度の運用内容についての質問です。
 生産者団体の評価について、農場の抽出による評価結果に関して、団体の組織内で情報共有や結果検討などの機会を設けられているのでしょうか。普及指導員などの GAP 指導員による支援になると思いますが、個人ではないので組織としてどのように受け止め、改善を図るかが大切になると思いますが、実際はどうでしょうか?
 また農場評価の結果から、県等による組織全体のGAP取組の機運や管理のレベルアップを目指すために、評価農場の抽出方法で工夫している点があれば教えてください。

【岐阜県講師】  評価の結果についてですが、特に組織の農場評価では、組織構成員から抽出した農場の評価結果の平均値やばらつきを把握しますので、組織としては全体や個々の評価項目ごとの検討が可能です。
 個々の評価表の公開は、個人情報もありますので産地によって異なると思いますが、基本はいずれも当該農場の問題点の改善に役立てます。
 その改善方法の対策も組織によって異なると思います。産地の戦略として、例えば、できるだけ満点に近づけていくべきだというものもあれば、まずは最低限の法令遵守から厳しくして行こう、または、岐阜県の成績アップ規定による「アドバンス」とか「ベーシック」を確保していこうと、産地の組織が全農場の目標達成を目指して改善を図っていくということはされていると思います。
 農場評価の抽出方法についてですが、第三者機関が行う農場検査の抽出方法は基本的には無作為と聞いていますが、岐阜県では、産地内の農場のバランスを考え、例えば、栽培面積だとか、農業慣習に差がある場合、新規就農者など農業経験の偏り、など考慮して抽出することも実施しています。

「ぎふ清流GAP」は、GH農場評価制度を運用(標準)し、岐阜県が運営(機能)するGAP制度

【参加者】  ぎふ清流GAP評価制度で、GH農業評価制度を活用するにあたり、日本生産者 GAP 協会の使用料などは発生しているのでしょうか。両制度は別物という制度なのでしょうか。
 「ぎふ清流GAP推進センター」の運営費と補助、施設設備、備品、こういったものの補助事業に何かしらの国庫事業を活用しているのでしょうか。

【岐阜県講師】  GH 評価制度を活用する際に農場評価1件につき3,300円の評価登録料が発生します。
 ぎふ清流GAP評価とGH農場評価は同一の制度です。GH農場評価制度の中で、ぎふ清流GAP評価制度が独自に運営しているというものです。独自運営として岐阜県農業振興上のオリジナル性も持たせたいというところもあります。岐阜県産農産物PRなどもその一つです。
 ぎふ清流GAP推進センターの運営費はすべて県費です。GAP 指導員の育成研修等には、ごく一部で国費を使っているというとこありますけれども、補助金等含めて基本は県費で賄っております。

ぎふ清流GAP農場の販売促進活動を県が積極支援(エシカル消費)

【参加者】  ぎふ清流GAP評価制度で経営改善に取り組む生産者の農産物の流通販売において、生産者の実感や流通業者の声として、有利販売、優先販売、取引価格の向上等についての効果はいかがでしょうか。販売促進の方法等も教えていただけないでしょうか。

【岐阜県講師】  ぎふ清流GAP評価農場の販売促進は、パートナー制度とパートナーによる農産物販売フェアなどです。販売促進は小売りの店頭で行っていますが、パートナーには、卸・仲卸、道の駅、農産物直売所、ホテル・旅館なども参加していますので、様々なイベントが考えられます。
 「農産物PR活動」に参加する流通・販売事業者の反応を見ますと、「GAPの取り組みはやっぱりいいことだ」と認識されております。ただ、GAPに取り組んでいる農場の商品単価を高くすることを表明するところはありません。違いがあるとすれば、流通―消費者段階において、ぎふ清流GAP評価制度の農産物を、消費者に選択していただくことの意味ですね、エシカル消費(環境・社会貢献などへの配慮)として選択する中の一つということで、GAP評価を受けた農場が判断基準になるという風に解釈をいただいております。
 「ぎふ清流GAPパートナー」に登録していただく際に、キャラバン活動をさせていただきましたが、生産者からは「GAP農場の農産物の価格が上がることを希望する」声がありました。
 現段階は、ぎふ清流GAP評価農場の信頼性を取引要件にして欲しいとPRしている段階です。オリンピックと関連付けて広くPRしました。今後はまずは県内を中心にし、量販店には県外にも積極的にPRしていきたいと考えています。

ぎふ清流GAPは、生産者自身が強力に推進

【参加者】  評価方式の中で、採点の結果を、アドバンス・ベーシック・チャレンジと評価して、生産者に伝え、維持管理されるのは大変な労力が必要と考えます。苦労話しやメリットなどがあれば教えて下さい。

【岐阜県講師】  農場評価の得点結果をアドバンス、ベーシック、チャレンジ、にレベル分けし、それぞれの段階的に応じたGAP指導方法を取り入れましたが、実際に農場評価をしてみると、生産者は、現地の指導員も含めてできるだけ高いレベル(高得点)にしたいという思いが多く、判定レベルは全農場がアドバンスでした。
 推進する側の事業企画で想定していたのは、「GAPは段階的に取り組むほうが良い」ということでしたが、GAPの意味を理解した生産者は積極的に取り組みます。最初に苦労しておいた方が後々楽になるという生産者の考え方を感じました。

ぎふ清流GAPでは、現場のIT化、農業ビジネスのDXを実現したい

【参加者】  今後の取り組みの中で、自己点検の農場評価の効率化という話がありましたが、具体的に何かシステム構築やアプリの開発など意識されているのでしょうか。

【岐阜県講師】  現在は紙ベースで、項目ごとに聞き取りながら手書きしている事務的部分の効率化を図りたいと考えています。まだ具体的化はしていませんが、農場評価の現場で導入されているタブレット端末を使うなどでIT化することで農業ビジネスのDXを実現したいと考えております。

2022/6



≪GAPシンポジウム特集Ⅲ≫ 世界のGAPステージ3(実践のポイント)

2021年度GAPシンポジウム(2022年2月8日)総合討論まとめ

 世界のGAPステージが第3段階に移行する中、オリパラ後の日本のGAP推進はどうあるべきか議論を深めました。また、農林水産省の新たな政策「みどりの食料システム戦略」を意識した「日本GAP規範第2版」と、その実現に向けた岐阜県のGAP政策、及びJAグループによる新たなGAP普及の取組みについて議論を発展させました。
 当日の総合討議の内容を要約して掲載します。

【討論2-3】 東京オリパラ後の日本のGAP推進をどう進めるか
JAグループ全農の取組み事例に学ぶ

GH評価員の教育と内部検査員としての活用を推進する

【参加者】  GAP指導員の育成についてです。私の県では、JAと県関係者を含めてGH農場評価員を180人以上育成してきましたが、組織内の人事異動で、実働可能な人は半分程度だと捉えています。資格保有者の再教育、新規指導者の育成を行う場合には、農水省の推進方策を考慮した内容にすべきだと考えています。具体的には、農場管理に必要な ICT ツール活用、データマイニング、コーチング技術などです。この点について全農のGAP推進課としては、どのように考えていますか。

【全農講師】  すでにGH農場評価員の資格を持たれている方のフォローアップですけれども、本日のお話の中で「GH評価員資格をお持ちの方が、グローバルGAP 内部検査員セミナーを受けたと同等と見なす」という整理が着いたと報告をしました。
 それにあたって、既に資格をお持ちの方に対してフォローアップの研修をしなければと思っております。さらに、資格は持っているが何年も時間が経っている方についても、もう一度内容を復習していただく機会を設けたいと思っております。
 ただし、全農が主催したの講習会の修了生に対して考えていますので、独自企画で行った研修の場合はAGICさんが実施しているフォローアップ研修会でお願いしたいという風に思っております。
 それから「みどりの食料システム戦略」に関連してということですけれども、私共全農の中でも部門横断的に様々な部署で具体的な内容が考えていくことになるかと思っています。そういった内容を取りまとめて、メニューのような形にして皆さんにお示しして、実際にGAPに取り組む産地の実態に応じたメニューを使っていくのかというような形を想定しております。

JA 営農指導のGAP教育ツールとしてのGH農場評価の活用は、販売事業購買事業の活動にも繋がる

【参加者】  営農指導の現場では、農薬の適正使用が充分ではなかったり、生産履歴記帳が行き届いていなかったりと様々な問題が指摘されていますが、そもそもJA の指導員が全ての出荷者の栽培管理や出荷の状況を把握し記録を確認する時間が圧倒的に不足している実態があります。講演の中にも指導のプロがいないというお話がありましたが、全国の事例などで解決している事例やヒントなど教えて頂けませんか?

【全農講師】  GAPですべきことが多すぎて手が回らないということについてですが、基本的には生産者のガイドラインの実践や、指導員がGH農場評価を行う際には、最終的に求められることの全てを、いきなり実践する必要はありません。生産者の農薬の取り扱いや食品衛生管理等のGAP(適正管理)レベルの進捗に応じて、生産部会などの組織としては、何を何処まで行うかということを選ぶことができるかと思います。
 つまり、個々の生産者や組織の傾向として、日頃の農業生産の実態として、何がどのようにできてないのか、その内容を確認・精査して、優先度をつけて、実行可能な課題についてどこまでやるか、という対応をしていくという形が良いのだろうと考えています。
 今回の事例でご紹介させていただきましたJA松任さんにつきましても、最初は全てできるかなと心配でしたが、生産者の日頃のGAP(適正管理)レベルを確認した結果、個別農家の「リスク評価」以外はできそうだと考えてスタートしました。実践においては、生産者、指導者いずれも手が回らないと判断した場合は、それら以外に絞り込んでも、GAP(適正管理)でやることはあり、またそれらのGAP指導はできるものです。
 生産履歴の管理につきましては、システムなどをうまく活用することで、肥料や農薬使用の自動チェックなども可能ですから、その他の管理システムとの組み合わせでは、生産者の管理作業の大きなフォローにもなります。

JAグループはGH農場評価を入口にして恒常的な経営管理の改善を目指す

【参加者】  GAPの到達点は必要最低限の取り組みであり、グローバルGAPは農業高校でも取り組んでいます。共通ガイドラインでも最低限であるし、グローバルGAPも難しいものではありません。「高度なGAP」という表現はいかがなものかと思います。

【全農講師】  GAPの入り口は一つではありません。評価・改善の後の目指すところが、それぞれ適切な農場管理の状態になれば良いのであって、行政やJAのローカルGAP規準であっても民間のGAP認証であっても構わないのかなと思っております。
 JAグループとしては、親しみ易い「GH農場評価制度」をGAP実践の教育手法として、いわばGAPの入り口として取り組み、農場管理の向上につなげていきたいと考えております。GAPに頂点はなく、農業経営の恒常的な改善活動でもあります。

GAPはそもそも農業分野の持続可能性への取組み、農業の信頼性確保のための取組み

【参加者】  講演の中で触れられていたかもしれませんが、今問われている「持続可能性」に関して、具体的な課題や可能性を認識されていましたら教えてください。

【全農講師】  ご質問の主旨と若干ずれるかもしれませんが、GAPの取り組みを進めていく中で、経済的に持続可能でないと取り組みがなかなか回っていかないのかないということを、日々業務に当たっていて感じてるところです。
 今回、 GH農場評価制度の事例をご紹介させていただきましたけれども、JA松任さんですね、いわゆるGAPの取り組み(狭義のGAP)をするということだけではなく、それを実際の事業(農業、農協の業務)につなげていこうという課題を抽出して、具体的に自分たちの仕事として、今やっていることに反映しようと努めています。
 経済を伴う組織の事業ですから、そのための評価に直結しない事柄は、なかなか力が入らないもので、また、継続も難しいと思っています。しかし、GAPが目指すものは、そもそも地球環境の課題や農産物事業の信頼性などの本質的・長期的な課題ですから、これから環境面でのグッド・プラクティスとして色々他の取り組みも深まっていくと思いますので、それらを継続して行くことを、我々農業経済団体として、本来の事業にうまくその仕組みを取り入れて、回していくというようなことを意識しながらやってく必要があるのかなと考えております。

2022/6



≪GAPシンポジウム特集Ⅲ≫ 世界のGAPステージ3(実践のポイント)

2021年度GAPシンポジウム(2022年2月8日)総合討論まとめ

 世界のGAPステージが第3段階に移行する中、オリパラ後の日本のGAP推進はどうあるべきか議論を深めました。また、農林水産省の新たな政策「みどりの食料システム戦略」を意識した「日本GAP規範第2版」と、その実現に向けた岐阜県のGAP政策、及びJAグループによる新たなGAP普及の取組みについて議論を発展させました。
 当日の総合討議の内容を要約して掲載します。

【討論3-1】 SDGs、みどりの食料システム戦略とGAP
農業の持続可能性について思うこと(まとめ)

【司会者】  GAPと持続可能性について、全農の取組みとして「農業経営の持続可能性が大切」という話があり、そのためにも「GAPはそもそも農業分野の持続可能性への取組みであり、農業の信頼性確保のための社会的な取組みである」という話をいただきました。
講演者で他の皆様にも「持続可能性」に関してお尋ねしたいと思います。

現在のGAPの課題解決を重ねることが大切

【岐阜県講師】  持続性に関する課題というところでも色々あるかもしれませんが、私としては、まずはゴールとか正解が見えないと言ったところがあると思います。とは言え、やはりできることからやっていくという中で、まずは様々な項目が盛り込まれているGAPに関して、そこに取り組みながらもそれを土台として正解を見つけていく、そういった取り組みになるのではないかなということを感じております。以上です。

GAPの持続的取組みこそが、GAP目的の成果を作り出す

【日本生産者GAP協会講師】  私は今福井県でGH 農場評価を10年くらいやっていまして、様々な農家のGH農場評価をしています。多くは水稲農家ですが、最初のGH農場評価では大方400点ぐらい、それが2回目に評価しますとプラス150点ぐらいになります。それで3回目もプラス150ぐらいになって、4回目ぐらいになると、もう農家自身が積極的に、ここは駄目だ、ここを変えなければと、自身が積極的に改善する傾向が見られるということです。
 最初の一回二回をしっかりと、その農家にGH農場評価をして、こういう点が問題だ、こういう点がリスクですよとやって、1年2年経ち管理状況が改善されていくと、経営全体として、GAPレベルは点数で出ますからね、その後の継続が非常に良くなるということです。もう5~6年経ちますと大体900点(千点満点)ぐらいの管理レベルということが経験的に言えます。GAPの持続的取組みこそが、GAP目的の成果を作り出していくということです。

農業の持続可能性の達成はGAP推進がキーポイント

【農林水産省講師】  我が国農業の持続可能は至上命題だと思っております。わが国の統計を、ここ10年ほどを見てみますと、5年で30万戸ずつ販売農家が減っていく状況にあって、現在は約100万戸くらいの販売農家が我が国にあるという状況です。次のセンサスでは100万を切っていくんじゃないかなという状況になっています。
 急速に日本の農業者が減って、高齢化も急速に進展している中では、国全体で農業を持続可能なものにしてくことが喫緊の課題だと私は捉えています。その課題を解決するための一つのやり方が、GAPの推進だと考えております。
 今回、2030年での我が国のほぼすべての産地でGAPの実施を目指すということを目標に掲げております。この目標の達成に向けて本気で進める方策を今検討しております。年度内の3月ぐらいには、推進方策を決定して皆さんにお示しできると思います。この推進方策をしっかり進めて2030年に目標達成したいと思いますので、是非とも一緒に進めていただきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いします。

GAPの思想はSDGsの本家本元なのです

【日本生産者GAP協会理事長】  農林水産省の「本気で取り組む」という心強い話を喜んでいます。
 私は20年前の2002年に、意欲的な農家の取組み現場でGAPの課題に出くわし、その解決策を求めて欧州の各地を歩いて学んできましたが、残念ながら日本では「GAP普及第二段階の農場保証制度」(GAP認証)ばかりが関心の対象となり、GAP本来の環境保全を重視した持続可能性や農業の社会的責任の問題が主流にはなってきませんでした。
 欧州では、約40年前、1990年ごろから、農業由来の環境汚染や公衆衛生リスクへの対策として適切な農業管理(GAP)が、農業政策の柱として様々な法制化で農業者に義務づけられました。
 その結果として、欧州で農業者のマナーとなったGAPは、農産物のサプライチェーン信頼のための監査制度(GAP認証)としてビジネス社会で活用されたのですが、この段階では必然的に食品安全が最大関心事でした。日本では、マスメディアも含めて「GAP認証=GAP」という認識なので、GAP本来の持続可能性確保のためのGAPが理解されていませんでした。
 近年、2015年の国連サミットで採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)が、日本でも国家目標と言われるようになり、持続可能な社会づくりが政治や経済社会でも合意事項になったようです。そのために、「SDGsを農業でも・・・」と言われるようになりましたが、1990年代に欧米で一世風靡して、2000年代には、世界の常識となったGAP(及びGAP認証)は、サステナビリティ&デベロップメントのゴール(SDGs)を目指すことを理念とする政策・実践の本家本元なのです。
 農業・農産物の世界だけではなく、SDGsをとなえる今だからこそ、「GAP思想」を本気で良く考えて実践し、結果として消費者に選ばれる農業者になれば、持続可能性の実現に近づくことが可能になります。農業の現場で実践するGAP(適正管理)は、取組事項を比較すればそれぞれ似たような課題ですが、GAPの行動や動作の骨格になる部分の理念をしっかり据えて、その理念に基づいて農業の実践を行うことこそが、今、必要だという事を皆さんに再度お願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします

日本農業で重要な「小規模農家のGAPコントロール」

【司会者】  討論をまとめとして改めるまでもなく、議論の中で、GAPについて色々とご検討、ご努力されている人たちがいることがわかりました。当社では、グローバルGAPが作った固有名称としての「ローカルGAP」がありますが、それを作る前にグローバルGAPの事務局から相談を受けて、スモールホルダー(小規模農家)のGAP規準というものに関わったことがあります。信頼できる農産物流通を考えれば、小規模農家もすべてGAPであるべきだという考え方です。小規模農家のGAPコントロールを向上させるということが、それはまさに国際水準という考え方になるのでしょう。
 グローバル企業との実際の取引では、小規模農家の農産物を取りまとめるサプライヤーは、各農家のGAPコントロールの全体を統一して管理しなければなりません。そのためには小規模農家全体を一つの組織のようにGAPを調整し、同一組織として統制しなければなりません。労働安全などの社会的責任に関しても、事故は自己責任という訳にはいかないのです。食品安全も統一的な衛生管理システムを計画・実行しなければサプライヤーが信頼できる生産組織にはなりません。その意味では、小規模農家は経済的には独立はしています(お金は別々)が、農業経営体として自立しているとは言い難く(共同で販売している)、構成員(小規模農家)全体の標準化が必要なのです。
 家族経営を中心にした日本の農業産地は、今後も小規模農家が大きな担い手であるでしょう。しかし、これまでの「GAPは農家が取り組むもの」という管理スタイルでは、今求められている農業の社会的責任を果たすことは相当に困難です。それでは農業そのものの持続性が存在しなくなります。
そういう意味で、日本農業は「GAP認証」だけにこだわっている場合ではありません。「農業実践の中身」にこだわって、その「認識」というか「気づき」と言うか、そういう動機付けを勧めていく、GAPができる形を周辺りから支えていく、ちょっと引っ張りあげるようなことをやってく必要あると思います。

2022/6



家族農業のためのGAP(適正農業管理)
FAOのGAPガイドライン紹介(3)

    p19~p29

2022/6



家庭菜園だってGAP(人と環境にやさしい農業)でなければ

山藤万里子 株式会社AGIC

家庭菜園の盲点 危ない農薬管理

 高橋広樹(みずほアグリサポート代表)さんの「美味しい野菜・果樹の育て方」という講演を聞いて、私は、家庭菜園を始めることにしました。高橋さんの、「農作物に本当にこだわるのであれば、自分で作るしかない。それには、土づくりが重要である。土づくりが適切であれば、病害虫も防げる」という話に共感したのです。
 自分で作ろうと、早速農地を探したところ、市内ですぐに約50坪の農地が見つかりました。半年前まで別の方が耕作していたそうですが、その後は放置され、畑に置かれたプラスチックの道具箱の中には、スコップや鎌などの道具やビニル袋などと一緒に、使いかけの肥料や農薬などが無造作に置いてありました。
 私は、即座に「使わないから処分しよう、燃えるゴミで出せばいいや」と思い、まずは肥料の空袋にポイとほうり込みました。その際に、雨が降っても流出しないようにと工夫はしましたが、私の行為は、耕作者として、生活者のリスク管理として、また、法律的にはどういうことなのか、これからどうすれば良いのだろうか?
 ちょっと心配になって、放置されていた農薬「園芸用殺虫剤アドマイヤ―」について、世界の安全規格と言われている「コーデックス規格」と農薬名「アドマイヤ―」をキーワードにインターネットで検索してみましたが、その規格の中にはその農薬は出てきませんでした。そうなると私には探しようがなく困って、一般社団法人日本生産者GAP協会の田上理事長に尋ねてみることにしました。すると、「正確な農薬情報は商品名ではなく成分名で検索する」のだと教わりました。理事長は幾つかの資料を示して、農薬の取扱いに関する解説をしてくれました。

買った農薬が使えなくなる

資料①安全データシート(SDS)「アドマイヤー1粒剤」
 SDSには農家にとって極めて重要な情報がありました。農薬のラベルに書いてある対象作物のうち、いくつかは使用できなくなったというのです。また、総使用回数が減っているのです。

 最新登録情報 2021年09月
・作物名「豆類(種実、ただし、だいずを除く)」、「だいず」、「ズッキーニ」、「非結球あぶらな科葉菜類」、「なばな類」が削除されました。
・作物名「ばれいしょ」、「さといも」および「さといも(葉柄)」のイミダクロプリドを含む農薬の総使用回数が「3回以内(植付時の土壌混和は1回以内、植付後の処理は2回以内)」に変更されました。
・「使用上の注意事項」のうち9項目目が以下のとおり変更されました。
 えだまめの育苗培土に混和処理する場合には、処理後速やかに使用して下さい。また本剤を処理した育苗培土を放置しないで下さい。

 この使用方法変更について、農薬のメーカーによれば、「環境に調和した持続的な農業を目指すという全世界で一貫した方法に基づき、イミダクロプリド剤についても花粉媒介昆虫へのリスクが低い新たな使用法に変更するとの判断に至りました」とのことでした。
 ネオニコチノイド系農薬は、EUなどでは予防原則に基づいて使用制限や使用規制が行われ、日本でも何かと議論になっていたことは耳にしていましたが、2021年09月に使用方法の変更が登録されたという情報は、まったく知りませんでした。
 日本生産者GAP協会では、農家が自分で使用している(または使用する予定の)農薬のSDSを必ずインターネットからダウンロードまたは参照して、使用方法を確認するように指導することになっているということですが、正にそれは必須の作業だということが分かりました。しかし、現実にはプロ農家でも見落としそうなことですから、家庭菜園においては、農薬使用の法令遵守がいかに難しいことか、身に染みて感じました。

すわ!一大事

 次の朝の出勤前に、取り急ぎ安全を確保しようと菜園に立ち寄り、新たなビニル袋(ジップロック)を2重にして、ポイ捨てした肥料袋から出そうとしたら、農薬の袋に亀裂が入っていたのか、運悪く周辺の土壌にこぼれてしまったので、それも含めて片づけていました。
 そこにたまたま圃場を見に来た菜園の管理人さんが「それは肥料か?」と尋ねるので、これは前に菜園を使用していた人が置いたままにした農薬で、この畑においてはいけないと伝えました。そうしたらなんと管理人さんは、「大丈夫だ、ここには誰も来ないから、来るのは俺だけ、あとで山に埋めてくるから、そこに置いときな」というのです。
 それは一大事!そんなことさせられない。何とかしなければ本当に山林に埋められてしまうかもしれない。「だめですよ、それはだめです。埋めてはいいけないのです。」と言っても、彼はそこに置いて行けの一点張りなのです。仕方がないので、その場は、カギはかからないが、畑の道具箱に戻し、スコップを箱の上に置いて出勤しました。

 

がっかりした行政の対応

 私は、農薬を触る際、着ていた服を入れる袋、手袋にマスク、帽子と、それなりにリスク管理をしたつもりでした。さて、肝心の農薬をどう処分したらいいのだろうか。まずは、行政に聞くしかないな、と考え処分の方法を聞くために市役所の代表電話に電話をしました。代表電話の案内の方に「市民ですが、農薬の処分はどうしたら良いのですか」と尋ねましたら案内された部署は農業政策課でした。
 答えは「農薬の容器を見て、小売業者か製造元に確認して処分法を聞くことを最初にしてください。次に産廃業者にどうするかを聞いください」というアドバイスでした。さらに私が「市役所では農薬の処分について指導はしないのですか」と問うと、市役所としては、「法的根拠がない、指導的立場にない」ということでした。思いがけない内容に驚いた私は「農家さんはどうしているのですか?」と再々質問しました。すると「農家さんたちにも指導はしていない。農協さんあたりから指導を受けているのではないか」とのことで、農業政策課の仕事ではないという返事にショックを受けてしまいました。
 私は次に環境政策課に電話をして尋ねました。調べてみると、環境政策課には「市第三期環境基本計画」というものがあり、「有害化学物質・悪臭・土壌汚染対策」について規定しています。考え方は「現代の工業技術等の進歩により、多種多様な物質が生産されています。一方、これまで知られていなかった化学物質、環境ホルモン等の有害性等についての知見も明らかにされてきています。私たちは、これらの正しい情報を収集するとともに、正しい使用をすることで、 各種汚染を 予防する必要があります」というもので、「有害化学物質に汚染されない、健康で安心できるまちをつくろう、悪臭・土壌汚染のないまちをつくろう」と呼び掛けています。
 この環境政策課なら対応してくれそうだと思い、農業政策課の対応について話した上で、農薬による土壌汚染や、農薬使用者に必要なSDSについても調べたことを話しました。そこに書かれた危険有害性についても話をしました。そして、畑に放置された農薬には市民としてどのように対処すれば良いか教えてくれるように話をしました。
 環境政策課の担当者は、この環境基本計画は、農薬などの危害物質を特定するものではなく、おおざっぱな、おおまかな計画だと話していました。また、販売されている農薬は取り扱い説明書に基づき適切に使用しているという前提であれば問題ないという言い方で、市民に対しての指導は行っていないのが現状で、市役所として預かったり処分したりはできないという話でした。(菜園での農薬放置は違法だと思うのですが)
 対応について担当者が折り返し電話で連絡してくれましたが、その内容は、産廃業者の紹介だけでした。私は、環境対策課の方に、環境と農業は切り離せないものだから市役所での対応も「縦割り」ではなく、関連付けて指導していただきたいとお願いし、ついでに「GAPをご存じですか?」と尋ねてみました。答えは「知らない」ということなので、一般社団法人日本生産者GAP協会のHPを検索してくれるようお願いしました。

 

産廃業者の対応

 市役所から紹介された産廃業者は、「農薬はお取り扱しておりません」という返事でした。仕方なくWebで検索した産廃業者「〇〇片付け110番」では、「農薬の処分は、1㎏以内であれば人件費、処分代、出張料、その他で12,000円ぐらい」という事、「私にとっては高額なので、予算が・・・」と話しましたら、「お客様はおいくらぐらいだと思われたのですか?他でも聞いてみてください」という対応でした。
 そのことを理事長に話しましたら、「わざわざ来てくれて、健康リスクのある化学物質を運んで処理してくれるのだから高くはない」という認識でした。しかし、ことの経緯を考えると・・・と、躊躇していたら「みずほの村市場には、農薬や農薬空容器の回収システムがあるから、みずほアグリサポートの高橋さんに相談してみたら? 生産組織のGAPコントロールシステムとして取り決めているから」とう事でした。早速、連絡すると「何とかしますので、持ってきてください」と快く引き受けてくれました。夕方、プラスチック容器と、目張りする黄色のガムテープを購入してきました。

すべての関係者の責任

 農薬の処分方法について、市役所の農政課では、法的根拠がない、指導する立場にないと言っていましたが、それは、本当なのでしょうか?日本生産者GAP協会の事務局長の話では、それは行政の怠慢ですという事でした。
 そのことについて、理事長から資料①SDS(安全データシート)の他、以下の資料をいただきました。資料②「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」では、農薬使用者の責任について。資料③農林水産省「令和4年度農薬危害防止運動」の実施について、また、資料④「農薬を知る・理解する・適正に使う」事故被害防止編3つ折りのパンフレット、さらに、これらを使った行政指導については、資料⑤「農薬危害防止運動実施要領」です。
 農薬を使用するものは、農家だけではなく、一般市民も含めて(農薬を使用する者すべて)の省令が定められています。このように農薬使用に関する法的根拠があり、行政機関は指導的立場にもあることが分かりました。
 リスク管理は単純ではありません。例えば、SDS安全データシートや各種の省令などは、取りあえずは入手することが可能です。民間のGAP認証制度では、手元にあることを証拠として監査のチェックリストに?をいれますが、問題は、形式だけではなく、それらにまつわる生産者の「行動」や具体的な「動作」が適正かどうかです。ドキュメントの内容が正確なのかでは、今回のアドマイヤ―の例のように、農薬登録の要件が購入時とは異なる内容に変更になっている場合もあるのです。今回の場合は「SDS」への配慮など皆無でした。環境に関しても「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」が認識された形跡もないという状態でした。今回関わった多くの人たちがそうでしたと言わざるを得ません。
 GAPは、農業生産者が自主的に取り組むべきものだと言われてはいますが、「良い農業とは何か?問われているのは人と環境の問題です」から、その理念を共有し、農業(並びに環境)政策は必要な規制をおこない、それらの行政指導に基づき、その上での農業に関わる全ての人たちの主体的な取組みでなければなりません。
 市民農園という楽しみ(私の生活そのものでもある)の中にも、人と環境にやさしい農業(持続可能な農業=GAP)への深い理解が必要で、それは、行政機関もすべての市民も、ビジネスの世界においても、自分の問題として取り込んでいかなければならない21世紀の課題なのではないでしょうか。

2022/6


セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介

株式会社AGIC 事業部

①「GAP実践セミナー」

受講者 普及指導員

 GAPという言葉を聞くと、認証制度のようなものだと思っていたが、GAPそのものは適正な農業の行為・実践を表しており、その中に認証制度があることを改めて理解できた。総合的病害虫管理(IPM)についても、生物的、化学的、物理的方法などを組み合わせた総合的な防除のことだと思っていたが、予防・観察・モリタニングを含めた利用可能なすべての技術を組み合わせた病害虫管理を表していることを知ることができた。また、日本のGAP政策については、欧米と比べ遅れていることに驚きがあり、世界基準となるグローバルGAPをより推進していく必要性があると感じた。
 一日目に演習でリスク発見を実際に行ったが、リスクをただなくすだけでは解決にはならず、なぜそれがリスクになるかをしっかりと生産者目線で伝えることを意識して、普及活動をしていくことが大切だと思った。二日目のGH農場評価の演習では、様々な視点から農場管理を評価することで、生産者がどこを優先的に見直し、改善していく必要があるのかを確認する上でとても有効であり重要であると感じた。
 農場評価については、評価員の力量によって評価の質が決まってしまうということなので、単にチェックリストを埋めるための質問をするのではなく、生産者の行動や動作、言動などを注視し、農場におけるリスクを評価できるよう心掛けたいと思う。二日間にわたって、GAPの研修を受け、GAPについての基本的な知識をつけることができたと思うので、直接農場評価にかかわるときはもちろん、普段の普及活動においてもGAPの視点を持ち指導していきたい。

②「GAP実践セミナー」

受講者 普及指導員

 今回のGAPの研修を受けて感じたことは、GAPが農産物の安心安全を確保するための生産工程管理だと思っていたがそれだけではないことがわかった。地球環境を守るための持続可能な農業生産を行うための考え方がベースとなっている。もちろん生産工程管理は重要であるが今回の研修で見方が変わった。現在の世界的な環境保護の潮流の中で日本の農業におけるGAPの導入は必然であると考えられるが、消費者もGAPを行う背景を理解していただかないと生産者だけに負担が掛かり一層の普及は難しいと感じられる。
  さて、今回の研修は初日にGAPの概要説明と農場の現場写真を見て、何が問題であるか指摘する演習があった。問題がありそうだが理由を述べて指摘するのは容易ではない。場数を踏み、見落としてはならない事例を確実に指摘出来るようにする必要があると思われた。写真をみて判断する演習は参考になるので事例集があるとよいと思われた。
  2日目は評価員が農場主への聞き取りをする様子をビデオで見て各項目を判断する演習を実施した。資料のコメント欄は整理された状態になっており、このように記述が出来るようにメモなり何らかの記録を残す必要がある。ただ、メモすることばかりに夢中になると聴取者から十分な聞き取りが出来なくなるので注意が必要である。聞き取り方法もチェックリストを見ながら回答が「はい」、「いいえ」だけになる質問では評価をするための充分な情報が得られなくなるので、質問する側もそれなりの質問手法を身に着けないと適切な評価が出来ないと思われる。ビデオの評価者もチェックリストをほとんど見ずに質問と記録(記憶)をしていたように見受けられた。
 研修を受けて反省すべき点、勉強すべきことが多く、次回はより効果的な研修になるようにしていきたい。

2022/6

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載42回)
~経営改善計画実行~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役


 これからのCitrus運営をどうしていくのかと、過去10年間の問題点を整理し社員らと経営改善目標を立てた。最大の課題は、管理している柑橘園の老木化と優良品種へ更新の遅れであるということになり、今年、思い切って優良品種への更新にふみきった。先ずは現行での人気品種の「ゆら早生」への転換を進めた。近年、ハッサクの売れ行きが伸び悩み販売に苦慮していることから、このハッサク園をゆら早生園に更新した。品種更新と言葉では簡単だが、樹齢40年の大木の伐採作業は容易ではない。それに果樹類は、一年生作物とは違い更新しても5年間程度は経営が成り立つ収益があがらない。しかし、ここにきて更新以外に将来の生産量と品質をあげる手段がないと社員らが判断し更新意欲が高まったので会社として決断した。

 品種更新する計画面積と同程度の30アールのみかん園を新たに借受して管理することにした。それにより伐採による減収はある程度カバー出来るめどは立った。しかし、幼木を成園化するための管理作業がこれまでの労働時間にプラスされることになる。そこで、省力化できる作業を見出し、苗木管理に労力を回すことにした。結果はどう出るかはわからないが今年は軽めの剪定とし作業時間を短縮し、更新作業にあてた。軽めの剪定は他にも理由があり本年度の我が社のみかん樹の生理的な要因からも判断できたので決断ははやかった。

 みかんからみかんへの更新は簡単だったが、ハッサクの伐採と抜根処理には重機が必要で、グループ会社の株式会社みかんの会から作業応援してもらった。抜根に使うパワーショベルと抜根株の運搬のためのトラックを業者からレンタルした。また、伐採した樹をチップ化するためにチッパーをJAでレンタルした。

 パワーショベルの運転技能資格(小型車両系建設機械 3トン未満)は社員全員が取得しているので操作はできたが、実務経験が浅いことから作業能率はあがらなかった。応援してもらったみかん会のメンバーにパワーショベル運転技術がプロ並の腕の持ち主がいたので、なんとかレンタル期間中に作業をおわらせることができた。現在は、伐採した樹は焼却処分できないので品種更新作業のネックとなっている。

 伐採後はトラクターで整地後、一年生苗木200本を定植した。一般的には二年生の苗木を100本定植するが、citrusでは早期成園化技術として定植三年後にある程度の収穫量確保を見込んでいる。また、ゆら早生の特徴として樹勢が弱いので一年生苗木を定植することで直根を増やすことができるとされている。今年更新作業をこなしてきたことで自信が付いたので、来年は三倍の面積の更新計画を立て、苗木を注文した。

 5月に入り、改段畑の石垣の崩れの恐れがある部分の修復作業をしたいというので、やらせてみた・著者自身は石垣積みの技術も経験もないが、社員の東山は石垣積みの本を参考に見事に修復した。今、有田と隣町の下津一帯の石垣みかん園システムを世界農業遺産登録に向け進めているが、若い社員がその石垣を守るための技術継承ができたような気がした。

2022/6