-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載18回)
~会社運営の苦悩の中、何にでも前向き支援~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

1.資金繰り

  弊社の6次産業化に向けて、食品乾燥機を設置した前号の続きとして、6次産業化の「ものづくり事業」の資金繰りについて少し説明します。弊社の6次産業化に向けた事業の食品乾燥装置の設置が無事終了し、現場でのテスト稼働を行うにあたって、各種農産物を対象にコントローラを使った乾燥プログラムの作成方法の説明を受け、稼働準備がようやくお盆明けに整いました。工事の請負契約では、「工事完了後1ヵ月以内に業者へ乾燥装置の代金を支払わなければならない」となっています。


様々な野菜・果実を乾燥する

  全額の3分の2を自己資金で準備しなければなりませんが、この補助事業の背景には、中小企業が銀行のお金を使って設備投資を促すという狙いがあるようで、事業の申請時に銀行から融資を受けて実施すると明記してあり、その事業が妥当かどうか、指定された金融機関もしくは会計事務所の「認定支援機関確認書」を添付しなければなりません。弊社のメインバンクである紀陽銀行に確認して貰っていたので、そこから200万円の融資を受けるための手続きに入りました。

  当初は、「保証協会を通した融資」となっていましたが、紀陽銀行が新しい商品として、この事業に限り「ものづくり融資」を設けたため、急遽こちらに乗り換えて手続きを進めました。利点は保証協会を通さない分、利子が少なくなります。この事業では、申請時に金融機関から融資を受ける計画を記載しましたが、その機関を利用することは義務づけられていません。しかし、人間関係から、「自力でやります」ともいえず、また、企業として経営者個人が立て替えるのも本来ではないと考え、融資を受けることにしました。一応資金準備が整ったので、支払いについてはひと安心です。利益が十分あれば苦労はないのですが資金繰りは綱渡りの状態です。

2.労力確保

  農繁期の労働力確保が不安定なため、確実な労働力を確保する手段がないものかと模索していると、あるところで外国人労働者の話を聞きつけました。そこで、NTICという三重県にある仲介業者の話を聞いてみました。この仲介業者の話によると、タイやフィリピンからの労働者を、レタス栽培で有名な長野県の川上村に実技研修者として数百人お世話をしたことがあるとの説明があり、見に行くよう進められました。

  この制度は、6ヵ月以上3年以内の継続雇用が義務であり、実技研修者の渡航費や語学研修費は雇用主が負担し、また、月額4万円程度を仲介業者に支払うようになっていて、短期雇用ではこれらの経費を時間給に上乗せすると最低賃金で雇用しても割高になってしまいます。温州ミカンの農繁期は長くても3ヵ月であり、この期間の対象にならないこと、また、現地の川上村での情報収集により、今回は見送ることにしました。

3.今年度の収穫量予測

  毎年「異常気象」と言われ、7月の多雨、夏の猛暑と干ばつ、昨年の7月8月とは降雨量が逆転し、5月の開花時点では昨年同様の収穫量が見込まれるとの予測でしたが、5月末から6月上旬が少雨で、生理落果が助長され、着果の少ない樹ではL・2Lの大玉傾向となり、品質が揃わず、出荷できる果実は減少する見込みです。


  和歌山県産のみかんは、全国の生産予測の表裏の逆をいくようです。これは弊社の園地での予測ではありますが、多くの生産者からの情報も同様の予測結果を示しています。

  当社は、本格的にみかん生産を始めて4年目になりますが、毎年初心者です。30年以上続けているプロの農家でも「品質と収量を安定化させるのは難しい」といっていることからも、「弊社の管理方法は間違ってはいない」と思っていますが、最近の異常気象への対応はよくわかりません。「8月の干ばつは味がよくなる」といわれていますが、気温35度以上の高温では、植物体の光合成が鈍るので、糖度の上昇は果たして望めるのか。これまで、これだけ高温が続いた経験がないので、どのような結果になるのか心配です。

4.近畿農政局より調査

  有田振興局より「農政局の人が農業法人を調査したいと言っているので、対応して欲しい」との要請があり、断れないのが著者の性格なので、OKしました。しかし、日程は7月27日の午後2時との連絡を受けたのみで、調査内容については県庁もわからないという。私は、日頃農政批判をしているから、なにも準備することができず、ちょっと不安がよぎった。

  しかし、会ってみると、農業法人の参入事例を農林水産省のHPに記載するための事前調査でした。来社したのは農林水産省近畿農政局経営事業支援部農地企画係長のD氏とその部下2名で、弊社の概要は弊社のHPと、これまでの具体的な取組みの内容は本誌「GAP普及ニュース」に連載しているので、そちらを参考してもらうこととし、現状の課題として「農地中間管理機構のあり方」や6次産業化の課題などについての座談会となり、2時間余りを有意義に過ごすことができました。どのようなHPになるのか楽しみです。

5.TPPについての取材

  朝日新聞の大阪本社地域報道部のA氏から突然の電話取材があり、内容は「オレンジとオレンジ果汁の自由化があっても有田みかん産地は強い」という前提での取材でしたが、現状の有田みかん産地の経営状況を弊社の例をあげて実態を説明し、また、私が普及員時代に自由化対応として取り組んだ事業についても説明をし、また、私がまとめた有田みかんに関する博士論文の内容をネットで検索するよう付け加えました。電話の向こうで検索してみて、その論文を見つけたようで、「じっくり読んで参考にする」と、電話終了後のメールに返信がありました。みかんについて「取材するならこの人」と数名紹介して電話を終えました。90分にも及ぶ電話取材でしたが、TPPが農業へ及ぼす影響について、記者に私の考えていることを少しでも理解していただければ幸いです。そして、どのような記事になるのかを楽しみにしています。

6.農水省キャリアが弊社で研修

  8月6日付けで農林水産省大臣官房長佐藤一雄氏より、9月24~30日の1週間、農村研修を依頼されました。ご本人からは、研修目的に「今後の施策の企画に研修経験を活かしていきた」とありましたので、しっかり情報収集していただけるよう環境を整えたいと思っています。

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