-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載2回)

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 会社設立の半年前、農業生産法人の形態をどのようにするかについて、和歌山県農業会議を訪ね、法人設立の手順を相談しました。農業法人には農事組合法人と会社法人の2種類があり、複数のメンバーで構成する場合、一番簡単に設立できる株式会社方式による会社法人を選択しました。


東大マルシェの出展物を自ら学生が調査
(citrus果樹園にて)

  昨年10月に知人のT氏が会社発起人となるメンバーを招集し、そこで農業生産法人の設立手順を説明し、参加者に了承を得て、その場を第1回の発起人会と位置づけ、早速、借り入れる果樹園を年内に探しておくこととになりました。私は人材育成事業の導入を提案しました。人材育成事業の導入についてはGAPニュース第26号(2012.5)巻頭言で紹介させていただいた通りです。

  年が明け今年2月、「平成24年4月2日」の会社設立を目標とし、行政書士を交えて具体的な定款の作成に入りました。事業内容の検討に入った時点で株式会社の構成員になる決断にいささか迷いが出ました。課題は、株式会社が耕作放棄に近い果樹園を構成員の協同によって管理した場合、体調に自信がなく、協同作業が負担となるのではないかといった心配があったからです。構成員になる以上、利益が出た時には配当が得られるが、損害が出たら皆で負担する覚悟も必要です。このことは、当初多額の投資をする計画はなかったので、大きな問題にはなりませんでした。最終的には発起人全員がグループで行動する強みを感じ、構成員になることに同意しました。会社設立後も体力の不安を訴える者もいましたが、本編の後半に述べているポリシーを理解していただいたことで、より強く結束できたように思います。今では農業形態の改革に取り組む会社としてのポリシーが先行し、他の農業者や関係者へインパクトを与えることで、当初の不安が意気込みに転じつつあります。

  さて、設立の事務手続き手順としては、3月末に株式会社の定款が公証役場で認証され、4月2日に法務局に出向き登記しました。この時点で株式会社の設立に至りましたが、農業生産法人格を得るためには農地法2条の規定をクリヤーしなければなりませんでした。弊社の場合は、現在の代表である私の個人所有の農地全部を株式会社と15年間の賃貸契約を結ぶ申請を農業委員会長に提出し、審査により5月12日に農業生産法人株式会社Citrusの誕生となりました。その後、借受けを予定していた果樹園の利用権の設定に入り、これにより会社が管理する果樹園は4ヘクタールとなりました。

  事務処理はスムースに進みましたが、農業法人が少ない有田地方では課題が幾つかありました。その一つに、農業法人設立と同時に農産物販売方法に問題点が生じてきました。昨年までは会社と賃貸契約を結んだ代表個人の所有だった果樹園の生産物は、JAの共同販売に参加していました。しかし、株式会社の販売方法がJAの共同販売のルール(出荷規約)に適合しないということで、JAの共同販売に参加できなくなりました。JAの古い体質を大変無念に思いましたが、現時点ではルール改正の働きかけは避け、独自の販売方法を研究することにしました。


東大マルシェの出展物を自ら学生が販売
(東大マルシェ会場にて)

  一方、農業生産法人の場合、一般の株式会社と違って会社構成員の条件があり、誰でも構成員になることはできません。この条件をクリヤーした構成員を定款作成時に決定しておく必要があり、弊社の場合は、以下の「農業に従事する者」、「法人事業の円滑化に寄与する者」の要件に6名全員が該当したことで構成員となり、全員が取締役に収まりました。農業者4名は、個々にこれまで同様に個人の農業経営は続けていくこととなりました。将来は、農業の後継者が家庭内いなくても社員による果樹園管理ができるシステムとして、会社に農地を委ねる形もありかなとの意見もでてきています。しかし、当面は会社が農作業者派遣事業を導入して、構成員個々の経営体を安心して継続できるための労働力確保を視野に入れた会社を目指しています。

  これらのポリシーが地域産業と高校の連携で地域活性化に力を入れている地元農業高校校長の耳に入り、農業体験学習や高校の農産物品評会や文化祭などへの支援依頼が来ています。これをチャンスとし、農業高校のあり方にも意見を言う場ができたので、積極的にこれらの活動にも参画して行こうと考えています。

  また、販売面の課題として、独自の販売方法の研究や、各種の販売ルートを模索しています。まず手始めに、弊社の取締役のT氏のルートで、10月6日~8日に開催された「東大マルシェ」での温州ミカン販売によるPRに参加したり、また、野菜工場を運営する地元民間企業とのコラボで販売に着手したり、その縁で10月13日、14日にタマガワグリーンマーケット参加しました。 会社経営についてはまだまだ実績はあがっていませんが、求職者支援事業による訓練生らの頑張りもあって、生産物の仕上がりは順調です。

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