-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載3回)

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 生産物の販売は、当初の会社運営の計画に従い、法人株主である株式会社サンライズみかんの会を通じて地元スーパーのオークワPBブランドへの対応や大手通販会社の進物販売への対応をすることになり、メインの流通面での体制が整いました。 一方、開発部門は、野菜工場を運営する地元の民間企業NKアグリは、試行錯誤しながら関東方面の流通ルートの開拓を進めていますが、現状の商品の仕上がりでは、誰もが本格的な取引を望んでくれませんでした。温州ミカンは特殊な品目ではないので、流通業界はこれまでの産地との信頼関係で取引が成り立っている中に、新たなに(株)Citrus が提案する一般的な内容では、取扱商品を置き換えるに値しないとの結果でありました。単純に「糖度が高く味が良い」だけでは、デパートなどは取引先を切り替えてくれないというのが現状です。

  次年度対応として、生産工程を通常の管理方法から、可能な限り緻密な管理と生産履歴管理により、いかなる問題が生じても商品提案者である弊社のセールスマンが流通を納得させうる説明ができるバックデータを収集するよう管理体制を整えたいと考えています。この課題については、農業情報学会において各種の研究発表がなされているようなので、できる限りこのような研究成果を応用し、単なる「味が良い悪い」のみで取引の有利性を訴えるのではなく、しっかりとした生産履歴管理により、しっかりした商品説明や産地説明のできる体制作りが重要な課題であることを痛感しました。

  さらなる苦難として、今年、自然相手の農業の難しさも身をもって体験しました。昨年の大震災の津波による被害と比べると小さな被害ですが、11月上旬に有田地方に雹が降りました。1円玉大の雹が降ったところは、その直後に新聞記事になったほどで、「被害額は1億円」との報道があり、大騒ぎとなりました。

  (株)Citrusの樹園地(以下、Citrus園)はその範囲外と思っていたのですが、その数日後、数回にわたり有田地方全域に降った雹混じりの雨により被害が現れ、樹上での果実の腐敗が始まり、樹体の表面にある果実が全滅する被害がでました。大手パッキングハウスでは、持ち込んだ果実の選別を強化して、商品に腐敗果が混入しないようにしており、毎日、10トン車一台分に相当する量の被害果を廃棄していると聞きました。Citrus園では、収穫時期を遅らせ、腐敗果を樹園内で判定し、分けながら収穫しましたが大変な労力でした。

  苦労話ばかり述べてきましたが、Citrus 園での明るい作業風景も同時に紹介します。温州ミカンの産地はどこでも、収穫時には大変な労働力不足に陥ります。ハローワークに求人広告を出しても人手は集まりません。

  弊社は、和歌山県が主催するHPに設置しているグリーンサポートを利用し、インターネット上で収穫作業者を募集したところ、インターネットを見て応募してきた人と、これまで来たことのあるアルバイトメンバーが友人や仲間を呼び寄せてくれて、合計11名の男女が働いています。福岡、大阪、石川、岐阜、神奈川、栃木、遠くはワーキングホリデーのビザで来たドイツ人女性です。年齢は22才から35才までの若者です。弊社が近所の旧家を借家して、Citrus園の寮として使い、そこで生活をして貰いながら、毎日収穫作業を手伝ってもらっています。

  雨で収穫作業ができない日は、株式会社サンライズみかんの会でのパッキング作業を手伝ってもらいます。また、Citrus園での必要な収穫量をみて、労働力に余剰があるときには、近隣農家の収穫作業の手伝いに出ています。このようなフレキシブルな仕組みは、地域貢献を目指していた弊社のポリシーに合致しており、行政では取り組めない一面を弊社が担っていると自負しています。


ドイツからワーキングホリデーを使って来た女性と大阪からの女性

  アルバイターの人間模様は色々ですが、弊社の社員とも仲良くなっており、お互いのコミュニケーションも順調にいっています。また、「みかん農家に嫁いでも良い」という人の話や、「定住地を探している」といったメンバーもおり、収穫作業中に話される話題に更なる発展の「夢」を感じています。

  このような若者の定住に向けた取組みも、弊社が本気で支援していきたいと考えています。それに、こんな忙しい中、東大生が「温州ミカンの流通」を卒論のテーマにして弊社にやってきたりして、Citrus園はこの季節、若者で賑わっています。



東大生N君(手前左)が温州ミカンの流通をテーマにした卒業論文の取材に訪ねてきたので、収穫作業を手伝ってもらいながら対応しました。

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