-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載21回)
~従業員のスキルアップに苦慮~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 2015年12月末で正社員1名、アルバイト5名が弊社を退社した。収穫アルバイトは収穫未経験者を訓練して一人前になったところで、収穫作業が終われば退社する。これは毎年同じことの繰り返しであり、正社員は4年間みかんの生産技術を覚えて貰って、これからと言う時の退社である。

  今期は、従業員のメンタル面の問題もなく、社員と収穫アルバイトメンバーらは雨にもめげず、すばらしいチークワークで今年度の収穫作業を終了しただけに、残念な思いである。正社員は実家に戻り、家業である備長炭の生産に取り組むというので、農林水産業の後継者として独り立ちすることから、弊社の目的の一つである「人材の育成」には成功したという達成感はあるものの、複雑な心境である。もう一人の正社員は、今年新たに迎える新規採用者の教育を済ませれば、いずれは自立の意向を示している。当初、会社設立から5年目には、全ての管理ができる社員としての育成を考えていたが、ここに来て方針の修正が必要になってきた。予定している新規採用の内定者は非農家であり、将来の生活設計までを考慮した人材育成の必要性が高く、より充実した経営形態の確立の年と覚悟している。


収穫作業の訓練を受けているアルバイト従業員(10月末)

  なお退職した正社員は、1年前から退社の意向を示し、自立を計画しており、内心応援はしていたものの、現実になると、従業員のスキルアップには失敗したことになる。

  昨年は、アルバイト応募者が、例年の3分の1の5名と少なく、同様に有田みかん産地は一応に労働力不足が大きな課題となっていたようである。その証拠に、普及員時代にお付合いのあった大規模農家2名から申し合せたように、みかん収穫の労力や、一般管理作業の労力不足が深刻化してきた現状を伝えられた。このままではみかん産地が成り立たなくなるとみていて、なんとかならないものかと相談を受けている。 また、同様な課題が、県内のみかん産地にかかわらず発生していることを知ったのは、2月はじめに「6次産業化サポートセンター」主催の6次産業化懇談会の事例発表に出席したときのことである。桃の農業生産法人の(株)八旗農園の代表から、ももの栽培管理や集荷作業をアルバイトに頼っていては「作業のスキルがいつまでたっても向上しない」という発表があった。この会社は、サラリーマンの退職者で構成されていて、メンバーは会社運営のノウハウを知っている。農業は、農繁期をアルバイトに委ねる経営であるから、「いつまでたっても生産技術のスキルアップ出来ていない」と指摘していた。著者も、この課題の解決が今後の果樹園経営の改善につながることを強く感じており、この懇談会で意気投合した。

  先日、農林水産省の平成28年度のTPP関連事業のキャラバンに出席したところ、その中に「農業労働力最適活用支援総合対策事業」があることを知り、生産局園芸作物課の課長補佐に、みかん農家の実態を説明して質問したところ、産地において労働力確保の仕組みの構築に対して支援をするとの回答であった。それでは「誰が事業主体になるのかが難しい」と再質問をしたところ、「具体なことは産地で考えなさい」とあっさり振られてしまった。この労働力問題については、誰が解決していくかは、みかん産地では検討すらされていないのが現状であり、行政やJAは取り組まないであろうから、民意で労働派遣会社や作業請負会社のようなものを設立していく必要があるのではないかと考えている。。

  今回の従業員の退社を機に、農作業のスキルアップをはかっていくためには、安定した仕事と収入を保証した労働環境整備が重要であることを感じた。同時に、有田のみかん産地全体の課題であると感じた次第である。

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