-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載20回)
~地球温暖化ストップ「パリ協定」に期待~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 収穫間近に果皮障害が発生した有田みかん産地は大打撃を受け、「おもしゃない年やのー」と有田弁が飛び交うみかん園での農家の挨拶です。平成27年産のみかんも、夏場の多雨により果実品質(味)が心配されましたが、10月の晴天でようやく回復し、出荷月にあった糖度(9月:9度、10月:10度、11月:11度)を維持できる迄になったと喜んだのもつかの間、本格的にみかんの収穫が始まった11月中旬から温かい雨が降り、果皮障害が発生し、樹上での果実の腐敗が始まってしまいました。加えて、高温と多湿で果皮のみが育つ浮き皮現象も発生しました。このため、生産意欲を失った農家も現れ、収穫をあきらめた人もいます。こんな年は早期に収穫をしてしまうことが対策の一つです。


社員とアルバイトの5人(岐阜・大阪・京都から来た助っ人達)

  しかし、平成27年度のみかん収穫の助けになる人手が例年になく足りません。著者の運営する会社では、例年、収穫時期には全国からアルバイトの若者が十数名集まってきていました。そのメンバーは労働力不足の農家の収穫の方に回ってしまいました。今期は5名のみで、希望者がいません。

  雨が上がれば、一挙に収穫したいところだったのですが、この5名で回すしかありませんでした。幸い著者の早生みかん園は、樹上での果実が腐敗する前に収穫をカバー出来ましたが、この時期の雨は中生・晩生みかんにも降り注ぎ、風船のような空気ふくれの果実になりました。落下したみかんを踏みつけると「パン」と音がして破裂するほど「浮き皮」現象が進みました。平年ですと一般農家は家族労力で極早生、早生、中生・晩生みかんと順次収穫していけますが、今年度産はそうはいかず、挨拶の言葉通りでした。

  和歌山県の果樹試験場と地元の農業振興課の技術者は、高温・多雨がこの不作の原因と分析し、一旦障害が発生してしまえば、その対策はないとのことです。一方、浮き皮などの果皮障害を回避した農家もいます。マルチ栽培の樹園地は大きな障害を受けていないこともわかっています。和歌山県は高品質の果実生産にマルチ栽培を推進していますが、過度の水分ストレスで隔年結果を起こした樹園地もあり、近年マルチ栽培は減少傾向にあります。それを理由に手間を省いてきたことが裏目に出たということもあります。

  前号で紹介しました6次産業としてスタートしました作業も、収穫の労働力が十分に確保出来なかったため、開店休業をせざるを得なくなり、今はこれも裏目に出ているということです。今年は、とりあえず収穫作業を終えることに専念した年となりました。果実の味はまずまずの仕上がりでしたので、極早生と早生みかんは例年よりは高く販売できました。しかし、12月販売のみかんは、果皮障害が60%とひどい結果に終わりました。収穫後、これから弊社の作業工程を見直していくことにしています。


田舎で働き隊(大阪・京都方面から大学生や会社員の面々が参加)

  そのような「おもしゃない年」でも、農林水産省の事業の「田舎で働き隊」で過去に集まった都会の若者が、半日ではありますが、弊社の収穫作業を手伝ってくれましたので、みかんの美味しさを体験して帰って貰うことが出来たのが幸いでした。小さな出来事ですが、消費者が産地に出向いてくれることほどPRに役立つことはありません。みんなが来年も事業の順調さに関係なく、「こういう機会を企画していこう」と帰りに申し合わせていました。

  農家になって4年目、1年間精魂込めて管理してきたみかんが、収穫直前の気象変動によって「こうも被害を受けるものか」と悔しさを初めて実感しました。

  平成27年は気象災害がたくさんあり、各地で洪水や台風被害のニュースを聞くと気の毒に思ったのですが、温暖化による農産物被害の方はニュースにはならず、被害を受けた農産物は淘汰される厳しさは消費者には伝わりません。救われたのは、収穫作業の面々にはこのことが理解され、みんな明るく振る舞ってくれたことです。

  昨年末のCOP21で合意に至った「パリ協定」は、勿論大歓迎するのですが、来年の気象災害の回避には間に合いませんし、米・中と言うCO2排出大国がちゃんと守ってくれるかどうかも判りません。ですから、次年度からは、今期のような障害がまた発生することも視野に入れて、その対策と管理を徹底していかなければならいと感じた今期の収穫時期でした。

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