-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載30回)
~外国人技能実習生受け入れ現状~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

2018年12月の国会で「外国人労働者受入拡大」法案が成立したが、成立した時点では詳細は明らかになっていないという。しかし、外国人労働者の受入れ拡大に関する法整備には期待している。筆者の経営する農業生産法人株式会社Citrusでは、現行の制度の下で、3年間の契約で外国人技能実習生を迎え入れ、既に1年が経過した。そこで、現状の問題点と今後の課題について整理してみる。

  弊社が外国人技能実習生の受入れに至った背景と受入れの実務についてまとめてみると、毎年収穫のための労働力確保に苦労していて、10月から12月にかけて人材が集まらない現状が数年間続いたことにある。そこで外国人技能実習生制度を知り、受入れを試みたということである。

  この制度を調べてみると、①収穫期のみの受入れは出来ない、②みかん等の果樹栽培での技能実習制度はそもそもない、③受入れ期間は最短6ヵ月で、最長では3年間になっていて、現状の経営形態では受入れは出来ないことが判った。そこで、これらの課題を解決するために、弊社は野菜の栽培部門を導入することにしたが、現状の会社構成員に野菜農家がいないため、地域の野菜農家で野菜管理の労力確保に困っている仲間を取締役に迎え、会社の登記事項を変更した。これにより、野菜部門での外国人技能実習生の受入れを可能にした。技能実習のための年間の農作業が「野菜栽培管理」を主体とし、果樹の作業は収穫時のみの3ヵ月とし、野菜栽培を勉強して貰うという調整ができた。

  しかし、この制度をしっかり理解しておかないと、昨年5月17日の日本農業新聞の12頁の「外国人実習生失踪急増で農家苦悩」の記事にあったような事象が発生した時に、受入れ農家を救ってくれる公的な組織はなく、泣き寝入りで戸惑うことになる。今国会でもこのことが取り上げられて議論されたのを見た。失踪する原因の1つに「最低賃金で過酷な労働を課せられる」ことが理由に挙げられていたが、受入れ農家からの言い分として、現在のシステムにおける必要経費に問題があることに触れてみたい。


弊社がかかわるカンボジア人の技能実習生受入れ組織の連携図

  他県や他の受入れ組合の状況は判らないが、弊社の取組みを1つの事例として紹介してみる。弊社の場合は、弊社の取締役が経営する別会社で、農業技能ではないが外国人の実習生を受け入れていることから、システムは複雑ではあるが、既に大凡の話は聞いていた。現行制度における仕組みは、実習生を受け入れようとする場合、受入れを希望する農家や農業生産法人は、受入機関として認められている非営利団体の組合の組合員になる必要がある。

  例えば、地域の農協が受入機関とすれば、その農協の組合員とならなければならないシステムになっている。有田地方にはそのような組合組織がないため、弊社は日本トータル情報事業協同組合(所在地三重県内)の組合員となり、組合にカンボジアからの実習生の受入れを希望した。弊社は何故カンボジアの実習生を希望したかというと、カンボジアで研修生を送り出している機関を運営するHIRAYAMA Co. Ltd.所属の日本人から、「カンボジアの実習生は意欲が高い」との情報を得ていたことからであり、日本トータル情報事業協同組合にこの送り出し機関と連携するよう依頼した。送り出し機関の選定については、組合の理事会で決定されたようで、希望通りカンボジアの実習生を受け入れることが出来た。

  経費面については、当初、組合賦課金、組合出資金などで9万円余りと、受入手数料(渡航費や講習期間中の宿泊費など)として29万円を支払った。これとは別に、実習生の管理費等として月に4万2千円を組合に納めている。この管理費については、実習生の私生活を管理してくれているのかどうか良く判らない経費と、送り出し機関の経費が含まれ、毎月請求書が届くので、これらの経費は全て組合に送金している。月々の実習生の給与は、正社員と同様の経費を受入農家が直接実習生名義の銀行口座に振り込むルールになっている。衣・食・住は実習生が負担しているが、アパートの契約や電気の契約は、地域住民になっているのに、不動産会社は契約に応じてくれないので、受入機関の名義で契約し、家賃等は給与から差し引いている。 この他、実習生に対して技能取得を確認するためのテストが義務づけられていて、そのテストに不合格となると帰国しなければならないシステムである。その受験費用は受入農家の負担となっている。今年の7月にテストが全国農業会議所によって実施され、無事合格したので一安心した。不合格になった場合には特別講習を受けさせることが出来るが、1人当たり25,000円の経費が掛かるという。実習生には和歌山県の最低賃金を少し上回る給与を支払っているが、組合に納める月々の経費を合わせると受入農家の負担はかなり大きいといえる。

  幸い、カンボジアの実習生は働きが良いので、受入農家としては仕事上の問題はないが、メンタルの面での対応には言葉の壁があり、結構面倒である。11月11日の読売新聞には、外国人労働者への日本語教育制度の講師資格が記されていたが、現場ではその制度が生かせるのか疑問である。現状では近隣にカンボジアの母国語であるクメール語が話せる通訳がいないので苦慮している。1年が経過した今では、実習生は日本語で直接話しかければ仕事には差し支えない程度になっている。また、平仮名の読み書きは出来てきている。しかし、GGAPの取得に向けて外国人労働者向けの農作業マニュアルをクメール語に翻訳しなければならない課題もある。また、実習生はスマホを持っているが、日本では携帯電話料金が高額なため、電話番号は取得していない。日々の連絡には、Wi-Fi接続でSNSによる情報交換のみとなっている。

  これらの課題は、組合に管理費を支払っているものの、日々の問題への対応にはあまり期待はできない。これまで受入れ農家として組合に支払ってきた経費についてまとめると、先にも述べたように、昨年11月に受け入れた時点から1年間で88万円を支払った。公立大学の経費に例えると、入学金を当初に納め、年間の学費を納めるのに匹敵する金額を組合に支払いながら、実習生には給与を支払っている。弊社としては、この経費負担が問題となっており、残された2年間の維持費が他の役員から問題として指摘されている。組合負担が低ければ、実習生に最低賃金を適用する必要性はないと考えている。

  農作業に従事する態度には問題はないが、実習生の農業への学習意欲については少し物足りなく感じている。カンボジアへの帰国後の目標を聞いてみると、お金儲けがまず目標にあることが納得できた。日本語での会話が出来るようになって判ったことであるが、実習生は日本で仕事をするために、カンボジアの出国機関に日本円で60万円を支払ったようであり、その資金は銀行から30万円、出国機関から30万円、それぞれ借金して支払っていると聞いた。現状の制度では、実習生の受入れ農家の斡旋料に関わる経費が過大であることが問題であると考える。以上がこれまでの経過である。

  現在、国会において外国人技能実習の期間が5年間に延長され、実習生受入をJAが行い、組合員からの受託やJAの施設で従事するような話も聞いている。また、特区として行政が応援する受入機関を設立して進めている県もあると聞いている。この制度が拡大され、法整備が整えば、労働力不足の農家が外国人実習生を容易に受け入れられるシステムになり、実習生にも受入れ農家にも経費負担が少なくなると期待している。 この制度では、日本で学んだ農業技術を母国に帰って活かすために日本に来ているのであろうが、余り積極的に技術を学ぶ姿勢は見えてこない。ただ、与えられた職務はきちっとこなしてくれているから、体験しながら技術を取得しているのだろうと推測しながら指導をしている。しかし、趣旨を考えると、受入機関としてちょっと後ろめたさも感じることがある。

  現状は、非営利団体の民間受入機関の組合員ならなければ受入れが実施できないシステムになっていて、有田地方では外国人労働者の受入についてはJAや行政はノータッチであったが、これを打破し、国会でこれだけ議論されたことであるから、農業者が安心して外国人実習生を受け入れられる体制を公的に整備し、支えて欲しいと考えている。

 一方で、今後の会社運営への不安が高まった。これまで自立就農した社員は県農業大学校を卒業した農業や林業などの第一次産業を営む家庭の子弟であり、将来自営することを想定した採用であった。しかし、来春に就農予定の社員は非農家出身であり、将来は弊社の担い手として活躍してくれる社員と期待していた。勤続5年目を迎えた今春に自立就農したい意向を示したので、弊社の運営を担って欲しいと慰留に努めたが、令和2年9月1日付けで令和3年2月28日退職とすると届けが出された。会社の運営を考慮しての早めの届けは有難かったが、本音を言うとちょっとショックを受けた。本人は着々と自立就農を模索していたようで、新規採用当時はここ有田地方でみかん農家になることが夢だと語っていたが、本当にこんなに早く自立就農まで進むとは全く予測していなかった。 現在の生産現場は、就農予定をしているその社員と、今年3月に新規採用した和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程を修了した女子社員1名と、コロナ禍で研修開始が5月末にずれ込んだが、有田川町事業として有田川町に着任した地域おこし協力隊の青年男性33才(3年間)の3名で運営している。この10月末からは、和歌山県農林大学校就農支援センター社会人課程の男性34才の研修生が1ヶ月間の予定で弊社にてインターンシップに入る。研修の事前打合せにおいてインターンシップ研修生は来春の就農を予定していると聞いている。

 今のところ現場の運営はなんとかクリアー出来そうであるが、収穫の繁忙期のアルバイト確保は進んでいない。今年度は、県外からのアルバイト募集は控えている。昨年までは、古民家やアパートでの集団生活をベースにしてアルバイト勤務に就いて貰っていたが、コロナ禍での感染リスクを避けるために、地元での雇用を中心に計画している。幸い1名の地元要員の雇用が決まっている。「コロナ禍で失業したので・・」と東京から問合せがあったが、例年のようなCitrus寮としてのアパートの確保を取りやめたため、残念ながらお断りする結果となった。

 人材育成については有田川町の地域おこし協力隊員1名と、就農支援センター研修生のインターンシップ1名、それに、今年3月に新規採用した女子社員の令和2年度第2期の「農の雇用事業」が8月から2ヵ年間採択され、この事業による研修4回目に入ることが出来た。それぞれの研修はこれまで順調に進めることが出来ている。

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