-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載46回)
~新規就農支援プロジェクトとカーボンニュートラル~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 新年度に入り、弊社は新たに2名の青年の新規就農支援をすることとなった。その仕組みは、2015年に有田川役場と弊社で新規就農プロジェクトを計画した。しかし、この年は町予算が獲得できず事業を断念した。2019年になって、当初この計画に携わった町職員が管理職に昇格して再び町産業経済部率いることとなり就農支援プロジェクトを復活した。2020年度は「地域おこし協力隊」として1名を役場臨時職員として採用し、弊社に送り込んできた。募集要項は弊社の人材育成プログラムを応用して町役場が作成したものであり、その要領でいいからと任されたのである。しかし、弊社のプログラムは社員教育を目的としていて、自立就農までは考えていなかったことから、1期目の地域おこし協力隊員の指導は試行錯誤の毎日だった。その隊員も4月末で卒隊となり5月に自立就農のめどが立っている。


 2022年度に入り、町役場が2期目の地域おこし協力隊員の募集をはじめた。有田川町は募集にあたり先ずは農業体験を目的として農業インターンシップを開催し、その受入を弊社が担った。このことは本誌前号で紹介させていただいた。このインターンシップ体験により応募に迷っていた3名が応募してきた。この他にも2名の応募があった。今年1月に町役場が面接による選考会を開催するので応援して欲しいと依頼を受け筆者は面接に立ち会った。後日、町役場から2名を選考したとの報告を受け、3月末に町役場より1期目同様、弊社への就農支援依頼があり、引き受けることとなった。 2023年度の地域おこし協力隊員の2名は我が社でのインターンシップ経験者で本人と社員らは面識があったので受入に問題はなかった。隊員2名は大阪府出身で前職を退社しての決意だから受入側としても責任を感じている。受入にあたっては弊社の就農計画ですすめることとなっているが、今回引き受けた以上、弊社は2つのテーマを掲げ「3年間にいかに新規参入で自立就農するかのプログラム化」、もう一つは「地域が新規参入者にどう対応するか」等をあきらかにするとし、有田川町農業後継者受入協議会(本誌で紹介済み)の団体とも連携していきたいと考えている。 一方、地域おこし協力隊員の在り方や地域の対応について、隣町の紀美野町が和歌山大学と連携して「きみの地域づくり学校」を開催するとの案内をいただいた。内容を見てみると「農山村で生きる価値を若者に伝える」こと、そして「活力ある地域の創出の育成」を目的としているので、弊社のテーマと合致することからこの学校に2名の隊員を参加させ勉強させるよう町役場に提案し、受講予算が確定しいる。 4月に入り2名の隊員を迎え弊社において町役場職員、弊社社員同席でオリエンテーションを開催した(集合写真)。著者が注目したのは一番若い町職員の「このプロジェクトは私の最大の仕事です」の言葉だった。やる気のある職員がいることでこのプログラムを成功に導いてくれると確信した。著者も公務員経験があり、なにをはじめるにしろ職員の意気込みが大事であることはよく理解している。このプログラムの進捗については本誌ニュースで紹介を継続していきたい。 次の話題として「農林水産分野のJ-クレジット制度」に関連しての弊社のカーボンニュートラルへの協力について紹介する。昨年末によくわからないまま県関係者から有田川町にバイオマス発電所ができたから副産物(チャー)を農業利用できないかと、バイオマス発電所に案内されたことが始まりである。



 有田川バイオマス発電所」は森林の未利用資材の有効利用として伐採した樹木を燃料に発電するシステムである。計画では発電所から出る副産物のチャー(残炭)を農業利用で土壌埋設する仕組みとなっている。しかし、発電所の運転がはじまったもののチャーの処理ができていない。そこで、このシステムを建設したシン・エナジー株式会社(神戸市)の依頼で弊社のみかん園で施用試験する運びとなった。弊社ではみかん園に炭を施用する習慣や技術は無く、また、果樹試験場には試験データも無く不安があったが興味半分でOkayした。施用効果についてはブドウや野菜では効果があがったとの事例があると聞き、弊社での施用は発電所からでる加工なしのパウダー状のチャーをみかん苗の植え穴に事前に3kgから5kg施用して土壌の保水性を期待した。



 温州みかんは基本的には排水性が高い土壌が美味しいみかん生産の条件だが、樹勢が弱く雨年においしく仕上がる「ゆら早生」という品種で試験した。品質の成果は出るのは先にと考えるが、幼木の生育が高まればよしとしている。しかし、実際に作業してみるとパウダー状のチャーは取り扱いが面倒で商品にはならないと考える。シン・エナジー株式会社は農業利用を促進するため、チャーの粒状加工を進めていると聞いているが、果たして農業利用に?がるかどうかは未知数である。読者のみなさんにお願いする。バイオマス発電所と農業の連携での成功事例があれば教えて欲しい。

2023/4

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