-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 71号

《巻頭言》
日本農業のトランスフォーメーションを考える

中島 洋  沖縄トランスフォーメーション理事長

 持続可能な社会を求める消費者意識の変化やSDGsを枠組みにした農業政策の変化、さらには戦争や気象変動がもたらした食糧貿易に対する不安に基づく食糧安全保障の要求、と、「農業をめぐる環境」はここ数年、大きく変容しつつあり、今年になってさらに変化し続けている。長期的な展望を基に計画する農業にとって、「農業をめぐる環境」の激変は極めて深刻な事態である。さりとて、激変は避けては通れない。激変する環境が圧力になって、次の「農業革命」、現在頻繁に使用されている概念でいうと、大胆なトランスフォーメーション(遷移)(注1)を試みなければならない。

 農業は誰のためにあるのか。そのステークホルダー(利害関係者)たちは、これまでの日本農業の維持継続ではなく、農業をめぐる新しい環境に適応したトランスフォーメーションを要求している。2021年5月に農林水産省が発表した「みどりの食料システム戦略」でも「トランスフォーメーション」という用語こそ使っていないが、「持続性」という言葉を前面に出し、農業政策もSDGsを枠組みとした新しい方向に舵を切った。

 これまでの連続性のままの未来はない。激しい変化があるときには根源から考え直すことも未来の方向を見極めるために大きな価値があるだろう。

1.生産者のための農業

農業従事者の収入の向上

 直接的には生産者にとっては生活の糧を得るためだろう。これは農業の始まりの時から変わりはない。自給自足の時代には「業」としての「農」はない。交換経済で農作物を求める買い手ができ、産業の分化が進展して農業の形が形成されて来たが、生産者が適切な収入を得るための農業という役割は変わらない。生活を支える全部の収入を得られなくても、一部の収入を得られれば生産者は農業を継続してきた。

 これからの農業も生活の全部、または、一部を支える収入がなければ持続しないだろう。それはデジタル技術の利用によって可能であるという見通しがついてきた。生産者の過重な労働を軽減させる安全で能率の良い生産方式の確立も要求される。

 農産物の品質を向上させ、単位当たりの収量を無理なく増やし、単位当たりのコストを下げる、生産性の高い産業への成長が求められる。その結果として農業従事者の収入増加が得られるはずである。農業は高収入をもたらす産業にトランスフォームしなければならない。

 20世紀末、欧州で生まれたGAPの考え方の中には農業生産の従事者の作業環境の最適化が盛り込まれることになった。21世紀に登場したSDGsでは、人権という観点から従事者の利益を尊重するとともに、消費者の行動姿勢まで幅広く指針を提示している。

従事者の作業環境の健全化

 産業としての農業の分業体制が確立するとともに、生産者と消費者の間に介在する数段階の取引・流通事業者が成長してきた。企業組織として力をつけた介在事業者は有利な取引条件を農業者に要求するようになる。介在事業者の利益を生み出すために、農業現場は過酷な長時間労働や農薬散布などの健康を害する作業環境が生まれてきた。また、農業分野でも経営者と労働者が分離する経営システムが生まれ、利潤追求の経営システムでは農業現場の作業環境は劣化の道をたどることになる。

 こうした生産者の劣悪な作業環境を改め、生産者にとって適切な作業環境を作り出さなければ、農業の持続は不可能であるという発想が20世紀末、欧州で育ち始めた。これを持続的農業の必須条件とするGAPが生まれる源流になった。 GAPと同じ源流をもつSDGsも「人権」というアングルから労働者の作業環境を重視している。

成長の限界

 さらに前身をたどれば1972年にローマクラブが警鐘を鳴らした「成長の限界」がある。このままの経済発展が続けば、人口増に食糧生産が追い付かず、また大気汚染や廃棄物による海洋汚染などで地球環境が破壊され、地球や人類の存続に赤信号が灯るという警告だった。食糧生産では化学肥料の進化によって人口問題は克服されたとされたが、現在ではその化学肥料も環境破壊の一因とされるに至っている。また、当時、窒素や硫黄酸化物による大気汚染が問題だったが、その後、温室効果ガスである二酸化炭素が地球環境破壊の主因とされ、ローマクラブの警鐘が今日まで生きている。

 ただ、SDGsは「成長の限界」で提示された課題を取り込みながら、開発の目標を持続可能性なものへとすり合わせることによって、限界も乗り越えられるはずだという楽観論も含んでいる。「環境」も「経済」もと2兎を追うのがSDGs(注2)である。農業分野も地球や人類の持続可能性に適合するようなビジョンと目標を創造し、生産者にとって希望が持てる新しい産業にトランスフォーメーションすることが求められる。

 目標は生産性の向上による収入アップだが、従来との違いはデジタル技術の登場である。作業環境の健全化もデジタル技術により可能になる。危険な作業のロボットへの置き換え、重労働のロボットへの置き換え、これまで可能でなかった農作業の自動化による実現など、農業生産現場は大きく変容する可能性を秘めている。

2.消費者のための農業

生産者と消費者の直結

 生産者は消費者の需要なくしては存在しえない。

 しかし、生産地と消費地が遠く離れた農業分野では消費者の支持があるのかないのか、直接に知ることは長い間、難しかった。途中に卸売り市場を挟み、あるいはスーパーなど大型流通の注文に従って作付けを行う。もちろん、作物の種類、生産量、収穫時期などは注文の状況を見ながら生産者自身が判断するにしても、消費者の直接の需要を知るわけではなかった。また、消費者の需要を知る手段もなかった。

 インターネットの発達によって状況は少しだけ変わりつつある。

 生産者と消費者が直接に売買する機会が増えた。

 消費者の需要を知る手掛かりは得られるはずだが、それはほんの一部に過ぎない。しかも、実は、消費者自身も自分の需要の中身を本当に知っているわけではない。消費者が商品を買う動機が何なのか。おいしさなのか、栄養バランスなのか、ダイエットなのか、価格なのか、あるいは直近のテレビ番組で紹介された料理食材なのか。一部の消費者の注文だけでは需要の大きな動向をつかむわけには行かない。相手にする消費者の数がよほど多くないと局所的、一時的な需要しかつかめない。生産物の大半は従来通りの市場や大型小売チェーンのルートに流れている。

SDGsとエシカル消費

 短期的なビジネスで言えば、特定の顧客をつかみ、定期的な注文を得られればそれでも産地直送の農業を実現することはできるだろう。しかし、あくまでも消費者の一部の需要をつかんでいるに過ぎない。それでは消費者の大きなトレンドをつかむことは難しい。

 日本の消費者の動きを予測するのに海外市場の動きを参考にするのは必ずしも適切とは言えない、という批判を被るのを覚悟してあえて消費の大きな傾向を指摘すれば、やはりSDGsに影響を受ける消費の変化を挙げなければならない。

 かなり以前から普及し始めたキーワードの一つは「エシカル消費」である。農産物に限ったことではなく、衣類や家電製品などでも消費者の購買行動に影響する変化として注目されている。「エシカル」は「エシック(倫理的)な」という意味である。ここでいうエシックはSDGsが現れる前から普及してきた考え方だが、本質的にはSDGsに通じる考えである。「地球環境にやさしい」というほどの感覚だ。衣類についていえば化学繊維は避ける。食器や雑貨品ではプラスチック製を避ける。レジ袋の使用を避ける、輸送に伴うエネルギー多消費を避ける、など、細かいところで商品選好の基準に変化が起きつつある。加工食品の選好でも、原料となる農産物にまでさかのぼって「エシカル」かどうかの情報を要求する。消費傾向を先取りする消費者は、商品について生産から流通に至るまでチェックし始めている。

 この傾向は欧州では顕著である。欧州の消費者は電気についてすら、それが原子力発電由来か、化石燃料由来か、あるいは再生エネルギー由来か、その情報開示を電気事業者に求め、多少価格が高くても、再生エネルギー由来を選ぶようになっている。

 SDGsが登場すると、さらに変化の兆候は範囲を広げている。農業分野にも変化を及ぼすいくつかの兆候が出始めている。

 すでに20世紀終盤から、消費者の関心の一つとして、農産物の栽培過程で人間に健康被害の可能性がある化学肥料や農薬を使用していないか、があった。当初の関心は人間の健康についての影響だった。しかし、SDGsの登場で、化学肥料や農薬が地球環境に負荷を与えるものとして排除すべきものという位置づけになった。

カーボン・フット・プリント

 最近、注目されているのは、さらに詳細に、カーボン・フット・プリントである。商品の生産過程でどれだけ二酸化炭素を排出しているか。生産地から消費地に輸送されるまでにどれだけ二酸化炭素を排出しているか。商品にその表示を求める消費者の要求が強まっている。厳格になれば、農産物の場合は生産工程で使用する肥料や薬品のカーボン・フット・プリントの数値が加算される。生産地から消費地までの距離が短ければ短いほどカーボン・フット・プリントの数値が小さくなり、高評価になる。地産地消の有利な状況が生まれる。輸入より国産。それもできるだけ近隣の地域で生産されたものを購入する。

 従来は利用するエネルギーはコストに反映されるので、消費者の選好は価格競争で吸収されると考えられてきたが、エシカル消費に目覚めた消費者は直接、自分の購入する商品の地球環境の負荷の大きさを知りたがっている。流通の一部では、健康のためのカロリー表示よりも環境負荷の数値であるカーボン・フット・プリントの表示が求められている、との指摘もある。実際に商品にカーボン・フット・プリントの数値を表示する例も報道されている。消費者の求める農産物の条件が今後、どのように変わるか。

「ビーガン消費」

 「ビーガン」も欧州の若者から急速に広がっている。菜食主義が肉類や魚類を食べず、植物性の野菜、穀物だけの食生活だったのに対し、「ビーガン」はさらに鶏卵や牛乳、乳製品まで排除するという徹底したものである。菜食主義同様、元々は動物の生命を尊ぶという宗教的・哲学的な要因で、それが発展して通常食に比べて健康維持にも効果があるとされた。20世紀後半から個人の健康維持の理由で「ビーガン」の実践者が広がって来た。

 21世紀に入ってさらに実践者が増加している。21年の東京五輪では「ビーガン主義者」の選手が多くなり、主催者側では選手村に「ビーガン食」も多量に準備し、提供した。体力を競う五輪で「ビーガン食」の方が能力を向上させると信じる選手やコーチがそれだけ多くなっているということだ。

 「ビーガン」の広がりを加速させたのがSDGsの価値観である。

 健康を増進するという個人的な理由ではなく、SDGsに基づくエシカル消費(社会に負荷をかけない消費)の観点から「ビーガン」が推進されるようになった。欧州の若者の中には、牛肉を使うハンバーガーを食べない動きが広がっており、この動きは農業や畜産業の在り方に大きな変化を引き起こさざるを得ない。消費者たちはすでに知られているような以下のようなストーリーで新しい消費行動に移りつつある。

 肉食や牛乳、鶏卵などの畜産業では飼育に使う穀物の生産を考慮すると、世界全体の農耕地の83%が家畜のために使われてと言われる。家畜の飼料は年間7億トンで、人間が消費する食糧を家畜が奪っている。畜産動物を経由する栄養やエネルギーを人間が摂取する間接消費より、穀類を人間が食べる直接消費の方が圧倒的に効率は良い。飢餓をゼロにするSDGsの目標から、畜産業は何らかの改変が要請される。

 次に、家畜のげっぷや糞尿から排出されるメタンガスの問題である。メタンガスは空中に拡散すれば温室効果は二酸化炭素の20倍以上に及ぶとされる。地球環境保全のためにも食肉消費を避けるというのがSDGsに触発された消費者の選好である。

 同様にSDGsの観点から、家畜動物の飼育の過程で使用される水の量も問題視される。たとえば牛肉1キログラム生産するために約13,000リットルの水を使用するが、トウモロコシ1キログラムの栽培に利用する水は500リットル。つまり、牛肉生産にはざっと26倍の水が使われる。世界的には飲用水は十分に確保されているとは言えない。トウモロコシを食べる方が水問題の解決に寄与する。

 廃水も問題だ。処理施設を完備した先進国はともかく、途上国の畜産では未処理の糞尿や疾病予防の抗生物質や薬品が川や海に流れ込み、水質汚染を引き起こす。飲料水は劣悪な状況になり、水不足を加速させる。

 SDGsの知識の普及から、若い消費者を中心に食肉は社会的に害悪であるという意識が広がり、「ビーガン消費」へと向かっている。若いうちに醸成された価値観を人は何歳まで維持するのだろうか。体質まで「ビーガン体質」に変わってしまえば、畜産業界が消費者を取り戻すには相当の努力と生産システムの改変が必要になるだろう。

再生エネルギー

 消費者からの農業分野への要求で強まってゆくと思われるのは再生エネルギーの利用である。化石燃料を避けて、再生エネルギーが使われているかどうかも、消費者が商品を選ぶ基準になってくると思われるが、農産物についても同様だろう。農作業の過程で機械を動かす際に、化石燃料由来ではなく、再生エネルギー由来の電力あるいは動力を利用しているという消費者へのアピールが必要になるはずである。消費者の意識の変化によって、農業分野の仕組みのトランスフォーメーションが求められる。

 もちろん、農業側でも対応に動き出している。SDGsの影響を最も受けやすい畜産業界をはじめとして、消費者のこうした意識変革に対応した取り組みである。

国産化

 基本的な対応は国産化である。国産の畜産物の方が輸入品よりもSDGsの方向にかなっている。休耕田などを利用して飼料穀物を生産し、国産穀物生産を拡大することによって国際的に激しくなる家畜動物と人間との食糧の奪い合いを回避する。さらに水問題である。畜産物輸入は結果として海外の水を日本の消費者が奪うことになる。国内畜産の拡大は国際的水問題の緩和につながる。糞尿などは肥料に加工して飼料作物の栽培に使い、メタンガスもエネルギー源に利用するなどの循環型の事業システムを構築することで消費者のエシカル消費の要求を満たすことができる。

 農水省の「みどりの食料システム戦略」でも、未来の日本農業の基本スタンスを「国産化の拡大」に置いている。SDGsを契機にして新しい日本の農業、畜産業へのトランスフォーメーションを推進するー-その機会が訪れた。

3.食の安全保障のための農業

コロナとウクライナ侵攻

 2020年の新型コロナウイルス感染症の発生と世界各国への拡散で世界の工業生産の供給網が機能マヒに陥ったが、それに輪をかけて、2022年には、日本社会が従来の経済システムの継続に危機感を抱く重大な事態が発生した。ロシアのウクライナ侵攻で露呈した国際貿易の破綻である。歴史に深く刻まれる、ここ数年の一連の事件も「国産化」の重要性を強く認識させるものだった。

 東西冷戦の終結を背景にして20世紀終盤に始まった世界の自由貿易の加速化は、善意の国家同士が国際的な分業体制を確立し、必要な食糧、資源、工業製品は、その生産国からいつでも必要なだけ調達できるという確信を前提にしたものだった。グローバリゼーションである。米国の利己的な面も濃かった米国主導のグローバリゼーションだったが、どうやらこれは幻想に終わった。

グローバリゼーションの終焉

 グローバリゼーションの前提だった「善意ある国家」は虚構だった。

 いくつかの国家から善意をもぎとってしまった原因の一つは地球温暖化の影響である。かつて経験のない酷暑が訪れ、山火事や干ばつが脅威を増している。台風やハリケーンなどの低気圧も規模が大きくなり、都市や農地を破壊するような大洪水が頻繁に起こるようになって来た。適度な気温と降水で成り立ってきた農業がうまく回らなくなりつつある。干ばつと洪水による不作が続くと、穀物生産国が輸出を抑制するようになる。インドなどでその傾向が見られ始めた。

 そうした傾向が数年続いた後に、ロシアのウクライナ侵攻である。国家が領土拡張の野望を達成するために、国際的な食糧流通を妨害する、という、これまで想像もしていなかった圧力を加え始めた。そうした野望をもった国家に善意を期待する方が無理である。世界の食糧の供給体制は危機に瀕しつつある。ということで、複数の穀物生産国から欲しいときに欲しいだけ輸入すればよい、という日本の食糧戦略は破綻寸前になっている。

 目を転じると、太陽光発電や電気自動車、ハイテク機器に必要な希少金属も地球上で局在しており、この資源国が輸出を絞れば日本の産業がダメージを受ける。部品も同様だ。中国やアジア諸国に部品生産を移転してきた日本の製造業はコロナの感染拡大で部品調達が止まり打撃を受けている。これまでのような労賃の安いところに部品生産を託す、というようなコスト重視のグローバル化は経済安全保障の面から見直しが必要である。気が付けば日本の方が労賃が安い産業分野も増えている。

食糧の安全保障

 その経済安全保障の連想から食糧の安全保障もクローズアップされて来た。

 「善意ある国家」を前提にしたグローバリゼーションの夢から覚めてみれば、食を海外に依存してきた日本農業の見直しは急務である。これはSDGsにも沿うものだ。SDGsの目標の2番目は「地球上から飢餓をなくそう」だが、まず、海外の食糧を奪わないようにするために、日本が食糧自給比率を引き上げることは目標に沿っている。日本の食糧の安全保障を考え、自給率を引き上げる日本農業のトランスフォーメーションは世界から飢餓を減らすためのSDGsの目標とも一致する。さらにデジタル技術を利用したデジタルトランスフォーメーション(DX)によって日本の農業の生産性が上がれば、SDGs農業の状況も評価されて海外市場も日本の農産物や加工食品を受け入れる新しい時代が訪れるかもしれない。

4.投資家や融資機関が求める農業

トランスフォーメーションの主要プレーヤー

 日本の農業のトランスフォーメーションにはデジタル装備への投資も不可欠になる。農業機械の刷新や再生エネルギー投資への資金調達も重要だ。こうした資金集めにもSDGsの実践が必要になった。

 一般的に投資や融資の判断基準が基本的に変わった。特に投資の主役となる年金投資機関は、目先の数年の利益ではなく、数十年先の年金者への支払いを視野に入れなければならない。20年、30年先の事業の存続可能性が投資先を決める判断基準になる。現在の視点で、長期間、存続可能な条件を満たすのがESG投資と名付けられる投資である。 たとえば、二酸化炭素を出しまくる火力発電所は、存続可能な事業ではない。新設の資金も集まらないし、メンテナンスのための短期融資を得るのも簡単ではなくなっている。廃棄コストが未知数で事業収益に疑問符が付いた原子力発電所も資金調達はしだいに難しくなるだろう。

ESG投資

 ESGは環境(E: Environment)、社会(S: Social)、ガバナンス(G: Governance)の英語の頭文字を採ったもので、EとSはSDGsの内容と重なるので、長期存続可能な事業とはSDGsを実践する事業ということになる。

 金融機関の融資もESG投資にならって、ESG融資が活発になっている。

 総括すると、投資家や金融機関は資金調達の面から、事業の方向性を誘導する力を発揮するが、その方向性とはSDGsが示す目標に一致する方向である。

 一般産業と同様に、農業分野でもSDGsを実践しているか否かが投資家や金融機関の判断の審査基準になってゆく。また、投資家や融資機関も出資元から長期存続可能な事業に資金活用することを求められている。

 資金調達の面からも農業はSDGsの実践を求められることになる。投資家や融資機関の方針の変化も農業の方向を決める重要なファクターだ。

5.農業をトランスフォーメーションさせる技術

地球全般の危機と農業内部の指針

 SDGsは企業や個人、行政などすべてにわたる目標を示したもので、農業にも未来の指針を提供している。内容や考え方に重なる部分も多いが、GAPは農業生産者の活動指針という特質があって、SDGsのカバーしない範囲も取り扱っている。その一方で、消費者がSDGsで意識する「エシカル消費」にアピールする力は弱い。

 たとえばGAP指針の中の農薬や化学肥料の使用を減らす目標はSDGsの「生物多様性の維持」に相応する。ただ、SDGsは消費者に無農薬、有機肥料栽培が人間の健康面だけでなく、生物多様性を維持する「エシカル消費」につながることを理解させる。一方のGAPは生産者内部の運動にとどまっていて、消費者に訴える力が弱いように見える。GAPは実は、農業の「エシカル生産」実践の指針である、と表現することができるが、消費者に当事者意識を感じさせるのは難しいだろう。農業生産者以外の心には響きにくいGAPの意義を、SDGsのシナリオを参照しながら、農業のトランスフォーメーションと平仄を合わせながら次世代GAPを再構築することが必要かとも思う。

 SDGsは地球全般の危機に応じた新しい指針なので、GAPを含めた農業内部の価値観や指針とは異なる部分が多々ある。現状の農業をSDGsが指し示す目標に合わせるには相当の努力が必要になる。しかし、SDGsを物差しにGAPや現状の農業を見直し、再構築することで上記のようにトランスフォーメーションへの第一歩が踏み出せると思う。

強力なデジタル技術

 幸い、課題を解決するための道具がたくさん登場してきている。その代表的なものがデジタル技術である。また二酸化炭素排出を低減させるための電気動力の機械や再生エネルギー利用のための技術、再生エネルギー推進のための政策も様々に打ち出されている。

 この中で特に影響の大きいデジタル技術を取り上げると、その代表的な事例は「スマート農業」と呼ばれる挑戦だろう。

 多量のセンサーを圃場に配置してデータを収集し、日照、気温、二酸化炭素濃度などの生産に関連した諸条件と収量、品質などの結果のデータを解析して、最適な条件を洗い出して生産性を著しく向上させる(IOT農場)。日照をLED照明に変えてさらに生産性を上げる。利用する電力は太陽光や風力、水力などの再生エネルギーに切り換える。

 データの解析にはAIを中心にしたビッグデータ解析技術が利用される。各スマート農場で蓄積される知見はクラウドに集められ、さらにビッグデータとして高度な知見に磨き上げられてゆく。データが豊富になり、気象条件や収量、品質などの結果の組み合わせが多くなれば、時間と共に解析精度は向上し、データ駆動型の新しい農業に進化してゆくことが期待される。

 ドローンも生産性が向上する新しい農業では幅広く利用される。現在は圃場の環境情報の収集、生育状況の収集、種まきなどに利用され、作業効率を飛躍的に向上させることを期待させている。生育情報では、果実や野菜が収穫最適になった個体を識別して選択的に収穫する自動走行スマート農機の収穫作業につなげるなど農作業の根本からの改革が進展するかもしれない。「みどりの食料システム戦略」でも必要な技術開発の工程表を策定している。具体的に技術開発予算などが準備されれば民間企業や大学などの研究機関で技術開発作業が加速されるだろう。

 脱二酸化炭素、脱穀物輸入、畜産業でのげっぷ・糞尿処理問題など、「みどりの食料システム戦略」では、日本農業のこれからについて対応する技術開発のメニューを幅広く列挙している。ただ、「戦略」では課題の確認とその解決を期待できる技術について列挙しているにとどまり、次代の農業の具体的なイメージは提示していない。

イノベーションのジレンマ

 現在、各産業分野で起きているトランスフォーメーションでは、ビジョンが明確になっているものがいくつかある。自動車産業ではガソリンエンジン車から電気自動車への移行が進展している。日本は従来のガソリン自動車産業で圧倒的な勝者になったため、その実績を軽視する電気自動車へのトランスフォーメーションに後れをとったが、抵抗もむなしく、電気自動車では負け組に陥る懸念がある。電力分野では火力発電から再生エネルギー由来の電力へのトランスフォーメーションである。圧倒的に成功した企業は次の時代を切り開くイノベーションに後れを取って衰退する「イノベーションのジレンマ」(クレイトン・クリステンセン)の道をたどっている。  自動車や電力のイノベーションは既存の産業の中からイノベーターが出てきたわけではない。業界の外側にベンチャー企業などのイノベーターが登場し、トランスフォーメーションを推し進めてきた。

農業のイノベーターはデジタル分野から

 日本農業は圧倒的な成功を収めたというわけではないので、「イノベーションのジレンマ」の図式は当てはまらないが、既存業界の外からイノベーターが登場する、という点には留意したほうが良い。スマート農業やデジタル活用の農業の主役は農業界の知識と協業するデジタル分野のイノベーターたちである。

 他の産業界、企業では自動車や電力で起きている状況とは異なり、トランスフォーメーションした先のビジョンは明確ではない。しかし、今のままの連続性の先に未来はない、という危機意識から、いま、身近にある破壊的なパワーを持つデジタル技術を活用して、非連続的な未来を創造しようとしている。目的の姿は未知(X)なので、デジタルトランスフォーメーションはデジタル技術を活用して未知の未来を切り開くとして「DX」と略称する。

 次世代の農業は「エシカル消費」に代表される消費者の意識の変容、SDGsを基本枠組みにした事業目標の再構築、デジタル技術の活用で生産性を高め、国産比率を飛躍的に引き上げた食糧の安全保障によって導かれることは確かだが、トランスメーションの先はまだ、当分、Xのままかもしれない。

(注1)
トランスフォーメーション=トランスは「別の状態へ」という意味の接頭辞。フォーム(形)を別の状態に遷移させる。人気番組「仮面ライダー」は米国では「トランスフォーマー」と訳されていた。一瞬のうちに別の形に移ること。その道具にデジタル技術を使うのをデジタルトランスフォーメーションと呼ぶが、トランスフォーメーションではデジタルに直接関係ないものもある。
(注2)
「環境も経済も」のSDGs=社会的責任という考えでは、かつて企業の社会的責任としてCSRが推進されていた。CSRは企業の利益の一部を削って社会に還元する、という考えだが、SDGsは事業目標を地球環境維持にすり合わせて利益を出す、ということで利益を削る必要はない。SDGsは利益を生み出す新しい仕組みである。

2022/8


『みどりの食料システム戦略』を理解するために
EUの『Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略)』を読む

田上 隆一  社団法人日本生産者GAP協会理事長

はじめに

世界が激変

 新型コロナ(COVID-19)の世界的大流行の収束が見えない中でロシアによるウクライナ侵攻が始まり、国際的な分業体制によって、必要な食料、資源、工業製品を、いつでも必要なだけ調達できるというグローバリゼーションは終わりを迎えました。

 地球上で繰り返される疫病、内乱、戦争、経済危機、飢饉・飢餓などは、地球人口が80億人になろうとしている現在、これまでに経験しなかった状況を作り出しています。すでにプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の領域が多くなり、持続可能な社会への対応を喫緊の課題とするSDGsの行動指針が私達に一層の変革を要求しています。農業はその中核的な存在です。

欧・米・日の新たな農業戦略(GAP規範の大改訂)

 このタイミングでEU委員会は、「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」を発表(2020年5月)し、フードシステム全体を公正で健康的で環境に配慮したものへと変革しグローバル・スタンダードとすることを目指しています。これは、EUの新たな成長戦略として持続可能な社会への移行を目指す「欧州グリーンディール」(2019年12月)の中核的政策として位置付けられています。 また、米国農務省は、米国の農業生産を40%増加させ、2050年までに米国農業の環境フットプリントを半減させるという目標を掲げ(2020年2月)、農業イノベーションを刺激する政策「農業イノベーションアジェンダ AIA:Agriculture Innovation Agenda」を発表しています。 このような欧米の農業政策を受けてわが国農林水産省は、2021年5月に「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」を策定しました。その実現のために「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律,令和4年法律第37号(みどりの食料システム法)」を公布し、2022年7月1日に施行されました。

 みどりの食料システム戦略

 農林水産省は「みどりの食料システム戦略」策定の主旨と概要について次のように記述しています。

  1. 趣旨(みどり戦略策定の理由)
    1. 我が国の食料・農林水産業は、気候変動やこれに伴う大規模自然災害、生産者の高齢化や減少等の生産基盤の脆弱化、新型コロナを契機とした生産・消費の変化への対応など大変厳しい課題に直面しています。
    2. 一方、様々な産業で、SDGsや環境への対応が重視されるようになり、我が国の食料・農林水産業においても的確に対応していく必要があること、また、国際的な議論の中で、我が国としてもアジアモンスーン地域の立場から、新しい食料システムを提案していく必要があることから、農林水産業や地域の将来も見据えた持続可能な食料システムの構築が急務の課題となっています。
    3. このため、農林水産省は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するため、「みどりの食料システム戦略~食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現~」を策定しました。
  2. 概要(みどり戦略が2050年までに目指す姿)
    1. 農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
    2. 化学農薬の使用量をリスク換算で50%低減
    3. 化学肥料の使用量を30%低減
    4. 耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%、100万haに拡大
    5. 2030年までに持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現

 これらの目標の実現に向けて、調達から生産、加工・流通、消費における関係者の意欲的な取組を引き出すとともに、革新的な技術・生産体系の開発と社会実装に取り組んでいく(農林水産省ホームページ)

欧米の政策に追随

 「みどり戦略」の主要な達成目標(2050年まで)は、EUの「Farm to Fork戦略」の達成目標(ただしEUは2030年まで)の「化学農薬50%削減、肥料の20%削減、有機農業面積25%以上」と同じです。また、目標達成の方法は、「資源・プログラム・研究を調整(イノベーション)して農家に必要なツールを提供する」という米国の「農業イノベーションアジェンダ」と同じです。

日本の農業行動規範は周回遅れ

 欧米追随であることは明らかですが、「みどり戦略」実践のために重要な哲学としての「GAP概念」は、持続可能な農業の実現(環境保全)として1980年代に欧州で誕生して2000年代には世界各国に普及しました。しかし、日本で農林水産省の政策として具体的に開始されたのは2010年(日本再興戦略改定2014)からで、持続可能な環境と調和のとれた農業としてのGAPの取組は2015年(農業環境対策課の新設)からです。さらに、サプライチェーンの信頼(社会的責任)に取組む生産者のGAP認証制度に力を入れ始めたのは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会での持続可能な調達の要件としてでした。このように、GAPの追随では欧米に追いつけず、周回遅れのままGAP規範の大改訂を迎えることになったと言えます。

みどり戦略をどう考えるか

 農業協同組合新聞の対談「みどり戦略を考える」で秋田県立大学の谷口吉光教授は、次のように話しています。『これはEUの基準をただ引き写しただけだと思います。EUの「Farm to Fork戦略」が出て、バスに乗り遅れまいと慌てて出したということでしょうが、今までの政策との整合性がまったくありません。これだけ大きな政策転換をするのですから、関係者や有権者に十分な説明をして議論すべきです。(省略)-この戦略については「数値目標を掲げたことだけ」評価します。この数字にはほとんど意味がありません。実際にデータを積み上げた形跡はなく、9月の国連食料システムサミット向けのアピールです。』(JAcom https://www.jacom.or.jp/nousei/rensai/2021/06/210618-52087.php)

欧州では生産者の不満の声も

 欧州においては1980年代からの40年間で"GAPは生産者のマナー"と言われるまでに定着していますが、EUの「Farm to Fork戦略」のGAP規範の大改訂には多くの不満の声が上がっています。EU最大の農業生産者団体など29団体は戦略の発表から1年を迎えた2021年5月に不満の共同声明を発表しました。さらなる持続可能性への取組みに「基本的には賛成だが、目標には多くの矛盾点があり、手遅れとなる前に環境や経済に関する矛盾点についての議論を避けてはならない」と欧州委員会に話し合いを要求しました。ベルギー、フランス、オランダ、ドイツなど各地で生産者によるデモが行われたということです。(農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002956.html)

理念のないところに真のGAP(適正な農業の管理)はない

 GAPについて、日本では、生産者として「する(当然に行う)」行為であり、結局は販売者として「とる(認証を取得する)」行為であると言われています。それはその通りですが、生産者にとっては、「する・とる」がそれぞれ別々の概念のように見えます。そのために、「輸出はしないので」、とか「卸売市場から要求されていないので」、「だから私はGAPはしません」、という誤った考え方になりがちです。

 そもそもGAPは、「持続可能な農業の実現(環境保全)とサプライチェーンの信頼(社会的責任)を目標とする農業現場の実践とそのための適正な管理体制」として発展してきました。それから見ると、日本のGAPは世界から2周回遅れになっていると言わざるを得ません。

 「みどり戦略」は、未来のあるべき農業の姿を描いてその達成のためのイノベーション計画する考え方なので、これまでの政策路線や農業の取組現場での矛盾点が多く、日本農業の問題を深く掘り下げた様子は窺えません。現実とあまりにかけ離れた目標を示されても、農業の現場(農家の実感)からは遠い"絵空事"のようにしか見えないし、さらに目標が30年後となれば"自分事"としてとらえる人も少なくなります。「みどり戦略」には農業の取組み現場で理解できる「理念」が見えないのです。農業の実践者にとっては、行動の目標だけが示され、GAPの理念や農業の本質を置き去りにしてきたこれまでのGAP推進と同じことになりかねません。

EU「Farm to Fork戦略」の「理念」に学ぶ

 「Farm to Fork戦略」でさらに厳しい規制を伴うGAP規範の大改訂が行われることについて、欧州の生産者は、これまでの自らのGAP経験に基づいて環境と経済と社会の現状を鑑みれば、持続可能な農業の実現ためにEUの新戦略は理解できるとしながらも、戦略の目標達成に向けた生産者の取組みについては実現性のある納得できる具体化についての協議が必要であると、行政府との話し合いを要求したとのことです。

 それでは日本はどうでしょうか?

 その「目標は現場から離れた絵空事」、「今までの政策との整合性がまったくない」、と無関心でいられる訳はありません。 EUの戦略が出て、「バスに乗り遅れまいと慌てて出した」と言われる「みどり戦略」が、「Farm to Fork戦略」を「ただ引き写しただけ」かもしれないということであっても、「欧州の生産者が基本的には賛成している」というものであるなら、日本の生産者・農業関係者は、EU戦略が何を意味しているのか、調べてみる必要があります。農業の政策やそれに基づく戦略は、国や地域よって異なるものですが、背景や戦略の内容がほぼ同じであり、達成目標も同じもの、ということであればなおさら、私たちは「写し」ではなく「原本」に当たってみる必要があると思います。

 以下に欧州連合公式ウェブサイト【https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52020DC0381】のFarm to Fork 戦略(日本語訳)を掲載します。日本語訳にはDeepL翻訳ソフトを使用しました。

なお、日本語訳の項目見出しは訳者が付けたものです。

公正で健康的、かつ環境に優しい食品システムのためのFarm to Fork 戦略
欧州委員会から欧州議会、欧州理事会、欧州経済社会委員会、欧州地域委員会へ

欧州委員会 ブリュッセル、2020.5.20 COM(2020) 381 final

目 次

前半

 1. 行動の必要性
 2. 消費者、生産者、気候、環境のために機能するフードチェーンの構築
  2.1. 持続可能な食料生産の確保
  2.2. 食料安全保障の確保
  2.3. 持続可能な食品加工、卸売、小売、接客及び食品サービスの実践の促進
  2.4. 持続可能な食料消費を促進し、健康的で持続可能な食生活への移行を促進する
  2.5. 食品ロス及び廃棄物の削減
  2.6. フードサプライチェーンにおける食品偽装の防止
後半 以下は次号(GAP普及ニュース72号)で紹介します。
3. 移行を可能にする
 3.1. 研究、イノベーション、技術、投資
 3.2. アドバイザリーサービス、データと知識の共有および技能
4. 世界的な移行を促進する
5. 結論

1. 行動の必要性

欧州グリーンディールは持続可能な成長戦略

 欧州グリーンディールは、2050 年までに欧州を気候変動に左右されない最初の大陸にするための方法を示している。また、経済を活性化し、人々の健康と生活の質を向上させ、自然を大切にし、誰一人取り残さないための、持続可能で包括的な新たな成長戦略を示している。

Farm to Fork 戦略はグリーンディールの中核・SDGsの中心

 Farm to Fork 戦略は、グリーンディールの中核をなしている。この戦略は、持続可能な食料システムの課題に包括的に取り組み、健康な人々と、健康な社会と、健康な地球との間の、切っても切れない関係を認識している。また、この戦略は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための欧州委員会のアジェンダの中心をなすものである。特にCOVID-19の大流行と経済不況の余波を受けて、EUやその他の地域のバリューチェーンに関わるすべての市民と事業者が、公正な移行から利益を得るべきである。 持続可能な食料システムへの移行は、環境、健康、社会的利益をもたらし、経済的利益を提供し、危機からの回復が私たちを持続可能な道に導くことを確実にする(注1)。

 回復と移行を成功させるためには、所得面でまだ遅れをとっている一次生産者(2)が持続可能な生計を確保することが不可欠である。

持続可能でレジリエンス(回復力のある)な食料システムが必要

 COVID-19 の大流行によって、どのような状況下でも手頃な価格で十分な食料の供給を受けられる安定的で回復力のある食料システムの重要性が浮き彫りになった。また、私たちの健康、生態系、サプライチェーン、消費パターン、そしてプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)との相互関係を強く意識させられた。私たち自身と地球の健康を維持するために、私たちがもっと多くのことをする必要があることは明白である。現在のパンデミックはその一例に過ぎません。干ばつ、洪水、森林火災、新たな害虫の発生は、私たちの食料システムが脅威にさらされており、より持続可能で回復力のあるものにならなければならないことを常に思い起こさせるものである。

Farm to Fork戦略は食の持続可能性への包括的アプローチ

 Farm to Fork戦略は、ヨーロッパ人が食の持続可能性をどのように評価するかについての新しい包括的なアプローチである。これは、ライフスタイル、健康、環境を改善する機会である。健康的で持続可能な食生活を選択しやすくする好ましい食環境の構築は、消費者の健康と生活の質の向上につながり、社会の健康関連コストを削減する。

 人々は、環境、健康、社会、倫理的な問題にますます注意を払うようになり(3)、これまで以上に食品に価値を求めるようになった。社会がより都市化しても、人々は食べ物をより身近に感じたいと願っている。新鮮で、加工度の低い、持続可能な方法で調達された食品を望んでいる。そして、サプライチェーンの短縮を求める声は、今回の大災害でさらに強まっています。消費者は持続可能な食品を選択する力を与えられなければならないし、フードチェーンのすべての関係者はこれを自分たちの責任と機会としてとらえるべきである。

GAPを徹底してEU食品を持続可能性の世界標準にする

 欧州の食品はすでに、安全で、豊富で、栄養価が高く、高品質な食品の世界標準となっている。これは、人、動物、植物の健康を守るための長年のEUの政策決定と、農家、漁師、養殖業者の努力の結果である。今、欧州の食品は、持続可能性の世界標準となるべきである。この戦略は、すでに持続可能な慣行への移行を果たした農家や漁師、フードチェーンの他の事業者に報い、他の事業者の移行を可能にし、彼らのビジネスにさらなる機会を創出することを目的としている。

 EU の農業は、世界の主要なシステムの中で唯一、温室効果ガス(GHG)排出量を削減した(1990 年以降 20%減(4))。しかし、EU内でも、この道のりは直線的でもなければ、加盟国間で均質でもない。また、食品の製造、加工、小売、包装、輸送は、大気・土壌・水質汚染やGHG排出に大きく寄与し、生物多様性にも大きな影響を与えている。このように、EUでは多くの分野で持続可能な食料システムへの移行が始まっていますが、食料システムは依然として気候変動と環境悪化の主要な要因の一つとなっている。農薬や抗菌剤への依存を減らし、過剰な施肥を減らし、有機農業を増やし、動物福祉を向上させ、生物多様性の損失を逆転させることが急務となっている。

Farm to Fork戦略は温室効果ガス排出量削減の行動規範

 気候法5条(5)は、2050年に気候変動に左右されない連邦を目指すという目標を掲げている。欧州委員会は、2030年の気候目標計画を2020年9月までに策定し、温室効果ガス排出量の削減目標を1990年比で50%または55%に引き上げる予定である。Farm to Fork戦略は、農業、漁業、養殖業、食品のバリューチェーンがこのプロセスに適切に貢献するための新たなアプローチを定めている。

持続可能性への移行はEUの関係者に「先手必勝」の機会

 持続可能なフードシステムへの移行は、大きな経済的機会でもある。市民の期待は進化し、食品市場に大きな変化をもたらしている。これは、農家、漁師、養殖業者、そして食品加工業者やフードサービス業者にとってもチャンスである。この移行により、彼らは持続可能性をトレードマークとし、EU圏外の競合他社がそうする前に、EUのフードチェーンの将来を保証することができるようになる。持続可能性への移行は、EUのフードチェーンに関わるすべての関係者に「先手必勝」の機会を提供するものである。

欧州の勧告に沿っていれば食品システムの環境フットプリントは大幅に削減される

 人々の食生活の変化なしに移行が実現しないことは明らかである。しかし、EUでは、3,300万人の人々(6)が2日おきに質の高い食事をとることができず、多くの加盟国で人口の一部に対して食料支援が不可欠となっている。経済が低迷している間は、食料不安と経済的な余裕という課題が拡大する危険性があるため、消費パターンを変え、食料廃棄を抑制するための対策が不可欠である。

 生産される食品の約 20%が廃棄されている(7)一方で肥満も増加している。現在、成人人口の半数以上が太り過ぎ(8)であり、食事に関連する病気(さまざまな種類の癌を含む)の高い有病率と関連する医療費の原因となっている。

 全体として、欧州の食生活は国の食事に関する推奨事項に沿っておらず、「食環境」(9) は、健康的な選択肢が常に最も簡単なものであることを保証していない。もし欧州の食生活が食事に関する勧告に沿ったものであれば、食品システムの環境フットプリントは大幅に削減されるはずである。

持続不可能な慣行の外部化と輸出を避けるため、EUの規制は世界基準の引上げ政策と一緒に行うべき

 また、私たちが世界の他の国々を巻き込まない限り、変化をもたらすことができないことも明らかである。EUは農産物の最大の輸出入者であり、世界最大の水産物市場である。商品の生産は、生産国において環境や社会に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、EUの食品システムにおける持続可能性の要件を厳しくする努力は、持続不可能な慣行の外部化と輸出を避けるために、世界的な基準の引き上げを支援する政策と一緒に行われるべきである。

 持続可能な食品システムは、一次生産者の所得を向上させ、EUの競争力を強化する一方で、グリーンディールの気候および環境に関する目標を達成するために不可欠となる。この戦略は、市民と食品事業者の双方にとっての新たな機会に重点を置くことで、その移行を支援するものである。

2. 消費者、生産者、気候、環境のために機能するフードチェーンの構築

フットプリントを減らし、食料安全保障を確保し、持続可能性のグローバルな移行を主導

 EUの目標は、EUの食料システムの環境と気候のフットプリントを減らし、その回復力を強化し、気候変動と生物多様性の喪失に直面して食料安全保障を確保し、農場からフォーク(食卓)まで競争力のある持続可能性に向けたグローバルな移行を主導し、新しい機会を利用することである。これは、以下を意味する。

フードチェーンが持続可能性を確保する

 食品生産、輸送、流通、マーケティング、消費を含むフードチェーンが、環境にニュートラルもしくはプラスの影響を与え、フードシステムが依存する土地、淡水、海の資源を保全・回復し、気候変動の緩和とその影響に適応し、土地、土壌、水、大気、植物・動物の健康と福祉を保護し、生物多様性の損失を逆転させることを確保すること。

誰もが持続可能な食料にアクセスできる

 食料安全保障、栄養、公衆衛生の確保 - すべての人が、安全性と品質、植物の健康、動物の健康と福祉に関する高い基準を満たし、食事のニーズや食の嗜好を満たす、十分かつ栄養のある持続可能な食料にアクセスできるようにする。

供給部門の競争力、公正な取引、新しいビジネス機会、単一市場の整合性と労働安全衛生の確保

 食品の値ごろ感を維持しつつ、サプライチェーンにおいてより公正な経済的利益を生み出し、最終的に最も持続可能な食品が最も値ごろなものとなり、EUの供給部門の競争力を育成し、公正な取引を促進し、新しいビジネス機会を創出し、単一市場の整合性と労働安全衛生を確保すること。

2023年末までに持続可能な食品システムの枠組みに関する立法提案

 食料システムの持続可能性は世界的な問題であり、食料システムは多様な課題に直面して適応していかなければならない。EUはこの戦略によって、世界標準を設定する上で重要な役割を果たすことができる。

 EU全体としての優先分野の主要な目標を設定している。

 新しい政策イニシアティブに加え、既存の法律、特に動物福祉、農薬使用、環境保護に関する法律の施行が、公正な移行を確保するために不可欠である。このアプローチでは、加盟国によって異なる出発点と改善の可能性の違いを考慮する。また、食料システムの持続可能性への移行が、EUの多くの地域の経済構造や相互作用のパターンを変化させることも認識する。結束基金や欧州農村開発基金(EAFRD)など、既存のEUの制度からの技術・資金援助は、移行を支援することになる。新たな立法措置は、欧州委員会のより良い規制のためのツールに支えられることになる。

 影響評価は、公開協議、環境、社会、経済に与える影響の特定、および中小企業がどのような影響を受け、イノベーションが促進または阻害されるかの分析に基づき、グリーンディールの目的に沿って、最小限のコストで効率的な政策選択を行うために貢献する。移行を加速、促進し、EU市場に出されるすべての食品がますます持続可能なものとなるよう、欧州委員会は、2023年末までに持続可能な食品システムの枠組みに関する立法提案を行う予定である。これは、EUおよび国レベルでの政策の一貫性を促進し、すべての食品関連政策において持続可能性を主流とし、食品システムの強靭性を強化するものである。幅広い協議と影響評価を経て、欧州委員会は、持続可能な食品システムと食品に関する共通の定義、一般原則、要件について検討する。また、この枠組みは、食品システムのすべての関係者の責任についても言及する。

 この枠組みは、食品の持続可能性の性能に関する認証や表示、的を射たインセンティブと組み合わせることにより、事業者が持続可能な実践から利益を得ることを可能にし、EU市場に出されるすべての食品にとって標準となるよう、持続可能性の基準を漸進的に高めていくものである。

2.1. 持続可能な食料生産の確保

投入物(農薬、肥料など)の使用を削減・最適化してより高いリターンを得る

 フードチェーンの持続可能性を実現するためには、フードチェーンのすべての関係者がそれぞれの役割を果たす必要がある。農家、漁業者、養殖業者は、生産方法をより迅速に変革し、自然ベース、技術ベース、デジタルベース、スペースベースのソリューションを最大限に活用して、より良い気候・環境結果を出し、気候の回復力を高め、投入物(農薬、肥料など)の使用を削減・最適化する必要がある。これらのソリューションは、人的・金銭的な投資を必要とするが、付加価値の創出やコスト削減により、より高いリターンを期待することが可能である。

農家に新しい収入源を提供 炭素会計に基づく炭素除去認証の規制

 新しいグリーンビジネスモデルの一例として、農家や林業者による二酸化炭素の吸収が挙げられる。大気中の二酸化炭素を除去する農法は、気候ニュートラルという目標に貢献し、共通農業政策(CAP)または他の公的・私的イニシアティブ(炭素市場(10))を通じて、報酬を得ることができるはずである。気候協定の下でのEUの新しい炭素農業イニシアティブは、この新しいビジネスモデルを推進し、農家に新しい収入源を提供するとともに、他のセクターのフードチェーンの脱炭素化を支援する。循環型経済行動計画(CEAP)(11) で発表されたように、欧州委員会は、炭素除去の真正性を監視・検証するために、堅実で透明な炭素会計に基づく炭素除去の認証のための規制枠組みを開発する予定である。

バイオリファイナリー技術への投資

 循環型バイオベース経済は、農家とその協同組合にとって、まだほとんど未開発の可能性を秘めた分野である。例えば、バイオ肥料、タンパク質飼料、バイオエネルギー、バイオ化学製品を生産する高度なバイオリファイナリーは、気候ニュートラルな欧州経済への移行と一次生産における新しい雇用の創出の機会を提供する。

 農家は、再生可能エネルギーの生産を発展させ、糞尿などの農業廃棄物や残滓からバイオガスを生産する嫌気性消化器に投資することによって、家畜からのメタン排出を削減する機会を把握すべきである。農場は、食品や飲料産業、下水、廃水、自治体の廃棄物など、他の廃棄物や残渣からもバイオガスを生産できる可能性を持っている。農場の家屋や納屋は、ソーラーパネルを設置するのにうってつけの場所であることが多く、将来のCAP戦略計画(12)では、こうした投資を優先させるべきである。

 欧州委員会は、これらの投資が持続可能な方法で、食料安全保障や生物多様性を損なうことなく行われる限り、クリーンエネルギーに関する取り組みやプログラムのもとで、農業および食品分野におけるこうしたエネルギー効率化ソリューションやその他のソリューションの市場導入を加速するための行動をとる。

IPMの規定強化、2030年までに化学農薬の使用量とリスクを50%削減

 農業における化学農薬の使用は、土壌、水、大気汚染、生物多様性の喪失につながり、非標的植物、昆虫、鳥類、哺乳類、両生類に害を及ぼす可能性がある。欧州委員会はすでに、農薬に関連するリスクの削減の進捗状況を定量化するための「調和のとれたリスク指標(Harmonised Risk Indicator)」を定めている。これは、過去5年間に農薬使用によるリスクが20%減少したことを示すものである。欧州委員会は、2030年までに化学農薬の使用量とリスクを50%削減し、より危険な農薬の使用量(13)を50%削減するために、さらなる行動を起こす予定である。

 代替農薬への道を開き、農家の収入を維持するために、欧州委員会はいくつかの措置を講じる予定である。持続可能な農薬使用に関する指令を改正し、総合的病害虫管理(IPM)に関する規定を強化し、病害虫から収穫物を守るための安全な代替手段の利用拡大を推進する。IPMは輪作や機械的除草などの代替防除技術の使用を奨励し、一般に化学農薬の使用と依存、特に危険性の高い農薬の使用を減らすための主要な手段のひとつとなるであろう。

 CAPを通じて農薬の使用を減らす農業実践が最も重要であり、戦略計画はこの移行を反映し、アドバイスへのアクセスを促進する必要がある。また、欧州委員会は、生物活性物質を含む農薬の上市を促進し、農薬の環境リスク評価を強化する。また、加盟国による農薬の認可にかかる期間を短縮するための活動を行う。さらに、欧州委員会は、データギャップを克服し、証拠に基づく政策立案を促進するために、農薬の統計(14)に関する2009年規則の改正を提案する予定である。

栄養損失を少なくとも50%削減、2030年までに20%の肥料の使用を削減

 過剰な使用と、農業で使用されるすべての栄養素が植物に効果的に吸収されるわけではないことに起因する環境中の栄養素(特に窒素とリン)の過剰は、大気・土壌・水質汚染や気候への影響(15)のもう一つの大きな原因である。また、河川、湖沼、湿地、海における生物多様性(16)を減少させている。

 欧州委員会は、土壌の肥沃度を悪化させないようにしながら、栄養損失を少なくとも50%削減するために行動する。これは、2030年までに少なくとも20%の肥料の使用を削減する。これは、関連する環境および気候に関する法律を完全に実施・施行し、加盟国とともに、これらの目標を達成するために必要な栄養負荷削減量を特定し、バランスのとれた施肥と持続可能な栄養管理を行い、窒素とリンをそのライフサイクルを通じてよりよく管理することにより達成される。

 欧州委員会は、加盟国とともに、栄養源の汚染に対処し、畜産部門の持続可能性を高めるための統合栄養管理行動計画を策定する。また、欧州委員会は、加盟国と協力して、特に集約的な畜産と有機廃棄物の再生可能な肥料への転換のホットスポット地域において、正確な施肥技術と持続可能な農法の適用を拡大する。これは、加盟国がCAP戦略計画に盛り込む養分管理のためのFarm Sustainability Tool、投資、助言サービス、EUの宇宙技術(Copernicus、Galileo)といった手段(17)によって行われる。

GHG 排出量の規制・持続可能な生産と消費への貢献を強化

 農業は EU の GHG 排出量の 10.3%を占め、そのうちの 70%近くが畜産部門からのものである(18) 。これらは非CO2のGHG(メタンと亜酸化窒素)で構成されている。さらに、全農地の 68%が畜産に利用されている(19) 。畜産が環境や気候に与える影響を軽減し、輸入による炭素リーケージを回避し、より持続可能な畜産への移行を支援するために、欧州委員会は、持続可能で革新的な飼料添加物の上市を促進する。また、EU産の植物性タンパク質や、昆虫、海洋飼料(藻類など)、バイオ経済からの副産物(魚の廃棄物など)といった代替飼料原料を育成することにより、重要な飼料原料(森林破壊された土地で育った大豆など)への依存度を減らすためのEU規則を検討している(20)。

 さらに、欧州委員会は、持続可能な生産と消費への貢献を強化し、進化する食生活に対応するために、EUの農産物振興プログラムの見直しに着手している。食肉に関しては、EUがその振興策を利用して、最も持続可能で炭素効率のよい畜産方法を支援する方法に焦点を当てる必要がある。また、全体的な持続可能性の必要性という観点から、戦略計画における結合支援のあらゆる提案を厳しく評価することになる。

2030年までに養殖抗菌剤の販売量を50%削減

 動物および人間のヘルスケアにおける抗菌剤の過剰かつ不適切な使用に関連する抗菌剤耐性(AMR)は、EU/EEAにおいて毎年推定33,000人の人間の死亡につながり(21)、莫大な医療費につながっている。そのため、欧州委員会は、養殖動物および養殖業における抗菌剤のEU全体での販売量を2030年までに50%削減するための行動を起こす。動物用医薬品および薬用飼料に関する新規則は、この目標を達成し、人々の健康を促進するための幅広い方策を規定している。

高度なアニマルウェルフェア

 より良い動物福祉は、動物の健康と食品の品質を向上させ、投薬の必要性を減らし、生物多様性の保全に貢献することができる。また、市民がこれを望んでいることも明らかである。欧州委員会は、動物の輸送や屠殺に関するものを含め、動物福祉に関する法律を改正し、最新の科学的証拠と整合させ、その範囲を広げ、施行しやすくし、最終的にはより高いレベルの動物福祉を確保することを目的としている。戦略計画および水産養殖に関する新たなEU戦略ガイドラインは、このプロセスを支援する。また、欧州委員会は、フードチェーンを通じてよりよく価値を伝達するための動物福祉ラベルのオプションについても検討する。

種子品種の登録促進、伝統的な品種や地元に適応した品種の市場アクセスを容易にする

 気候変動は、植物の健康に新たな脅威をもたらす。持続可能性への挑戦は、新興の病害虫から植物をよりよく保護するための対策と、技術革新を求めるものである。欧州委員会は、植物の輸入に対する警戒と連邦政府の領域における監視を強化するための規則を採択する予定である。

 バイオテクノロジーやバイオベース製品の開発などの新しい革新的技術は、消費者や環境にとって安全であり、社会全体に利益をもたらすものであれば、持続可能性を高める役割を果たすことができる。また、農薬への依存度を下げるプロセスを加速させることもできる。加盟国の要請に応えて、欧州委員会は、新しいゲノム技術が食料供給連鎖における持続可能性を向上させる可能性を検討するための研究を実施している。

 持続可能な食料システムは、種子の安全性と多様性にも依存する。農家は、気候変動の圧力に適応した植物品種のさまざまな品質の種子を入手する必要がある。欧州委員会は、有機農業用を含む種子品種の登録を促進し、伝統的な品種や地元に適応した品種の市場アクセスを容易にするための措置を講じる予定である。

2030年までにEUの農地の少なくとも25%を有機農業に

 有機食品の市場は今後も拡大すると考えられ、有機農業をさらに促進する必要がある。有機農業は、生物多様性に良い影響を与え、雇用を創出し、若い農家を惹きつけます。消費者もその価値を認めている。法的枠組みはこの種の農業への移行を支援しているが、さらに多くのことを行う必要があり、海洋や内陸水域でも同様の移行を行う必要がある。

 エコスキーム、投資、助言サービスなどのCAP措置や共通漁業政策(CFP)措置に加え、欧州委員会は有機農業に関する行動計画を打ち出す予定である。これは、加盟国が有機製品の供給と需要の両方を刺激するのに役立つ。また、プロモーションキャンペーンやグリーンな公共調達を通じて、消費者の信頼を確保し、需要を押し上げる。このアプローチは、2030年までにEUの農地の少なくとも25%を有機農業で賄い、有機水産養殖を大幅に増加させるという目標の達成に貢献するものである。

農家のパフォーマンス改善と適正な収入の保証

 この移行は、グリーンディールに焦点を当てたCAPによって支援されなければならないことは明らかである。欧州委員会が2018年6月に提案した新CAP (22)は、より結果重視のモデル、データと分析のより良い活用、強制的な環境基準の改善、新しい自主的措置、グリーンおよびデジタル技術と実践への投資の重点化を通じて、農家の環境および気候パフォーマンスの改善を支援することを目的としている。また、家族を養い、あらゆる危機に耐えられるような適正な収入を保証することも目的としている(23) 。

 農地を所有するだけの企業や団体ではなく、所得支援を必要とし、緑の野心を実現する農家に対して、上限を設定し、より的を絞ることによって、直接支払いの効率と効果を改善するという要件は、将来の CAP に不可欠な要素であり続ける(24) 。これを確保するための加盟国の能力は、戦略計画の中で慎重に評価され、実施を通じて監視されなければならない。欧州委員会の最新の分析(25)では、この改革は確かにグリーンディールを推進する可能性を持っているが、交渉プロセスでは提案の主要条項を維持しなければならず、一定の改善と実用的な取り組みを展開する必要がある、と結論づけている。

エコスキームで持続可能な実践を後押しする資金提供

 新しい「エコスキーム」は、精密農業、アグロエコロジー(有機農業を含む)、炭素農法、農林業などの持続可能な実践を後押しするための大きな資金の流れを提供するものである。加盟国と欧州委員会は、これらの制度が戦略計画の中で適切に活用され、実施されるよう確保しなければならない。欧州委員会は、エコスキームに対する最低限の輪番制予算の導入を支持する。

グリーンディール、Farm to Fork戦略、生物多様性戦略に由来する目標についての勧告

 また、欧州委員会は、各加盟国が戦略計画案を正式に提出する前に、CAPの9つの具体的な目標について各加盟国に勧告を行う予定である。欧州委員会は、グリーンディール目標、この戦略および2030年の生物多様性戦略に由来する目標に取り組むことに特に注意を払う。欧州委員会は、加盟国に対し、自国の状況と上記の勧告を考慮した上で、これらの目標に対する明確な国家目標を設定するよう要請する。これらの値に基づいて、加盟国はその戦略計画の中で必要な措置を特定する。

デジタル漁獲証明書で違法な魚介類のEU市場への流入防止

 農業の変化と並行して、持続可能な魚介類生産へのシフトも加速させなければならない。経済データは、漁業が持続可能になったところでは、並行して所得が伸びていることを示している(26) 。欧州委員会は、実施にギャップがある場合(例えば、無駄な投棄を減らすなど)、CFPを通じて魚類資源を持続可能な水準に引き上げる努力をし、すべての沿岸国と協力して地中海の漁業管理を強化し、2022年までに、気候変動によって引き起こされるリスクにCFPがどう対応しているかを再評価する。

 EUの漁業管理システム(27)の改訂案は、トレーサビリティシステムの強化を通じて、不正行為との戦いに貢献することになる。デジタル化された漁獲証明書の使用が義務付けられることにより、違法な魚介類のEU市場への流入を防ぐための対策が強化される。

持続可能な養殖開発計画ガイドラインの採択と基金の適切な支出

 養殖魚介類は、陸上での畜産よりも低い二酸化炭素排出量しか生み出さない。持続可能な水産物の養殖に対する次期欧州海洋漁業基金による大幅な支援に加え、欧州委員会は、加盟国の持続可能な養殖開発計画に対するEUガイドラインを採択し、同基金のもとでの適切な支出を促進することを想定している。また、持続可能な食料システムと世界の食料安全保障のために、藻類が重要な代替タンパク源になるはずであることから、藻類産業に対する的を射た支援も打ち出す予定である。

持続可能性促進の集団的イニシアティブのための競争ルール・協同組合、生産者組織を強化する農業規則の改善

 最後に、移行期における一次生産者を支援するために、欧州委員会は、サプライチェーンにおける持続可能性を促進する集団的イニシアティブのための競争ルールを明確化することを想定している。また、農産物(28)と漁業・養殖業製品(29)の共通市場組織内での協力の可能性を奨励することにより、農民と漁業者がサプライチェーンにおける自らの立場を強化し、持続可能な生産の付加価値の公正な配分を獲得できるよう支援する。欧州委員会は、加盟国による不公正取引行為指令(30) の実施を監視する。また、共同立法者とともに、フードサプライチェーンにおける農家(地理的表示のある製品の生産者など)、その協同組合、生産者組織の立場を強化する農業規則の改善にも取り組む。

2.2. 食料安全保障の確保

気候変動と生物多様性の損失は食料安全保障と生活に対する差し迫った持続的な脅威

 持続可能な食料システムは、少なくとも危機の際には、安全で栄養価の高い、手頃で持続可能な食料を、常に人々に十分かつ多様に供給することを保証しなければならない。食料システムの持続可能性に影響を及ぼす事象は、必ずしも食料サプライチェーンそのものに起因するものではなく、政治、経済、環境、健康上の危機が引き金となることがある。現在のCOVID-19の大流行は、EUの食品安全とは関係がないが、このような危機は、食料安全保障と生活の両方を危険にさらす可能性がある。気候変動と生物多様性の損失は、食料安全保障と生活に対する差し迫った、そして持続的な脅威となる。この戦略の一環として、欧州委員会は、食料安全保障と、農家および食品事業者の競争力を引き続き注意深く監視していく。

食料生産者の持続可能性を高めることが、結果的に生産者のレジリエンスを高める

 食品のバリューチェーンは複雑で多くの関係者が関与しているため、危機の影響はさまざまに異なる。一般に十分な食料供給が行われている一方で、今回のパンデミックは、サプライチェーンの物流の途絶、労働力不足、特定の市場の喪失、消費者パターンの変化など多くの課題をもたらし、食料システムの機能に影響を与えている。

 このような状況は前例がなく、フードチェーンは、繰り返される干ばつ、洪水、森林火災、生物多様性の損失、新たな害虫など、年々増加する脅威に直面しています。食料生産者の持続可能性を高めることが、結果的に生産者のレジリエンスを高めることになります。この戦略は、そのための新たな枠組みを提供することを目的としており、生物多様性戦略で定められた対策によって補完される。

労働者の社会的保護、労働条件、住居条件、健康と安全の保護への配慮

 COVID-19の大流行は、農業・食品労働者のような重要なスタッフの重要性についても認識させた。このため、フードチェーンに影響を与える社会経済的影響を緩和し、特に不安定労働者、季節労働者、未申告労働者に関しては、欧州社会権の柱に明記された主要原則が尊重されるようにすることが特に重要になる。労働者の社会的保護、労働条件、住居条件、健康と安全の保護への配慮は、公正で強力かつ持続可能な食料システムを構築する上で大きな役割を果たす。

食料システム危機に対する欧州共通の対応策と調整を強化および農業危機準備金

 欧州委員会は、食料の安全保障と安全を確保し、公衆衛生を強化し、EUにおける社会経済的影響を軽減するために、食料システムに影響を及ぼす危機に対する欧州共通の対応策の調整を強化する。得られた教訓をもとに、欧州委員会は、食料システムの回復力を評価し、危機の際に実施すべき食料供給と食料安全保障を確保するための緊急時対応計画を策定する。

 農業危機準備金は、農産物市場の危機に際して、その潜在能力をフルに発揮できるよう、見直されることになる。危機の際に発動されるリスク評価と管理措置に加え、同計画は、欧州委員会が調整し、加盟国が関与する食料危機対応メカニズムを設置する予定である。この機構は、危機の性質に応じて、さまざまな部門(農業、漁業、食品安全、労働力、健康、輸送問題)から構成される予定である。

2.3. 持続可能な食品加工、卸売、小売、接客及び食品サービスの実践の促進

食品業界と小売部門による食品システムの持続可能性強化は、企業価値を高める

 食品加工業者、外食業者、小売業者は、生産する食品の種類と栄養組成、供給業者の選択、生産方法と包装、輸送、商品化、マーケティング手法を通じて市場を形成し、消費者の食生活の選択に影響を与える。世界最大の食品輸出入業者として、EUの食品・飲料産業は、世界貿易の環境および社会的フットプリントにも影響を及ぼしている。

 食品システムの持続可能性を強化することは、企業や製品の評判をさらに高め、株主価値を創造し、労働条件を改善し、従業員や投資家を惹きつけ、企業に競争上の優位性、生産性向上、コスト削減をもたらすことにつながる(31) 。

食品業界と小売部門は食品システム全体の環境フットプリントを削減する道を示すべき

 食品業界と小売部門は、健康的で持続可能な食品の選択肢を増やし、手頃な価格で入手できるようにすることで、食品システム全体の環境フットプリントを削減する道を示すべきである。

 これを推進するために、欧州委員会は、責任あるビジネスとマーケティングの実践のためのEU行動規範を、監視の枠組みを伴って策定する予定である。この規範は、関係するすべての利害関係者とともに作成される。

健康的で持続可能な食生活のためのガイドライン

 特に、健康的で持続可能な食生活のためのガイドラインに沿って食品を改良すること、エネルギー効率を高めて環境負荷とエネルギー消費を削減すること、最も弱い人々のニーズを考慮したマーケティングおよび広告戦略を採用すること、食品の価格キャンペーンが食品の価値に対する市民の認識を損なわないようにすること、新しいCEAP(Circular Economy Action Plan:循環型経済行動計画)に沿って包装を減らすことに重点を置いて、食品企業や団体に健康と持続可能性に関する具体的行動を取るよう求めていく。例えば、非常に安い価格で食肉を宣伝するマーケティングキャンペーンは避けなければならない。

 欧州委員会は、これらの公約を監視し、進展が不十分な場合には立法措置を検討する。また、欧州委員会は、食品産業が持続可能性を企業戦略に組み込むことを義務づけるなど、企業統治の枠組みを改善するための構想も準備している。また、欧州委員会は、より健康的な食生活への移行を促進し、脂肪、糖分、塩分を多く含む食品の(栄養または健康強調表示による)宣伝を制限する栄養プロファイルを設定するなど、製品の改良を促す機会を模索する。

食品加工と小売の持続可能で社会的責任のある生産方法(循環型ビジネスモデル)

 欧州委員会は、新CEAPの下で打ち出された目標や取り組みとの相乗効果により、特に中小企業向けを含め、食品加工と小売における持続可能で社会的責任のある生産方法と循環型ビジネスモデルの拡大・促進に向けた行動をとる。循環型かつ持続可能なEUバイオエコノミーの展開は、例えば、食品廃棄物の活用に関連したビジネスチャンスを提供する。

再利用・リサイクル可能な包装とカトラリー

 食品包装は、食品システムの持続可能性において重要な役割を担っている。欧州委員会は、食品安全と公衆衛生の向上(特に有害化学物質の使用削減)のために食品接触材料に関する法律を改正し、環境に優しく、再利用可能でリサイクル可能な材料を用いた革新的で持続可能な包装ソリューションの使用を支援し、食品廃棄物の削減に寄与する。さらに、CEAPで発表した持続可能な製品に関する取り組みのもと、使い捨ての食品包装やカトラリー(ナイフ・フォーク・スプーン)を再利用可能な製品に置き換えるため、外食産業における再利用に関する法的措置に取り組む。

持続可能な食品の生産と消費にかかるマーケティング基準

 最後に、欧州委員会は、持続可能な農水産物・養殖物の摂取と供給を可能にするために、マーケティング基準を改訂し、これらの基準が食品の損失や廃棄に与えうる影響を考慮した上で、持続可能性基準の役割を強化する。これと並行して,地理的表示(GI)に関する法的枠組みを強化し,適切な場合には,特定の持続可能性基準を含めることとする。

一次農林水産物の輸送距離を短縮する

 さらに、地域および地方の食料システムの弾力性を高める観点から、欧州委員会は、サプライチェーンの短縮化のために、長距離輸送への依存を減らすことを支援する(2017年には約13億トンの一次農林水産物が道路で輸送された(32)。

2.4. 持続可能な食料消費を促進し、健康的で持続可能な食生活への移行を促進する

現在の食品消費パターンは、健康面でも環境面でも持続不可能

 現在の食品消費パターンは、健康面でも環境面でも持続不可能である。EUでは、エネルギー、赤肉(33) 、糖分、塩分、脂肪の平均摂取量は引き続き推奨値を超えているが、全粒穀物、果物、野菜、豆類、ナッツ類の摂取量は不十分である(34) 。

2030年までにEU全域で太りすぎと肥満の割合の上昇を逆転させることが重要

 2030年までに、EU全域で太りすぎと肥満の割合の上昇を逆転させることは非常に重要です。赤肉や加工肉を減らし、果物や野菜を多く取り入れた植物性の食事に移行することは、生命を脅かす病気のリスクだけでなく、食品システムの環境への影響も軽減する(35) 。

  EUでは2017年に95万人以上(5人に1人)の死亡と1600万人以上の健康寿命を失ったのは、主に心臓病やがんなど不健康な食生活が原因と推定される(36) 。EU の「がんをやっつける」計画では、がん予防のための行動の一部として、健康的な食生活の促進が含まれている。

調和のとれた包装前栄養表示の義務化を提案・特定製品に原産地または産地表示の義務化拡大を提案

 消費者が健康的で持続可能な食生活を選択しやすくするための明確な情報を提供することは、消費者の健康と生活の質を高め、医療関連費用を削減することにつながる。消費者が十分な情報を得た上で、健康的で持続可能な食品を選択できるようにするため、欧州委員会は、調和のとれた包装前栄養表示の義務化を提案するとともに、単一市場への影響を十分に考慮しつつ、特定の製品に原産地または産地表示の義務化の拡大を提案することを検討する。

 また、欧州委員会は、自主的なグリーン・クレームを調和させ、他の関連する取り組みとの相乗効果により、食品の栄養、気候、環境、社会的側面をカバーする持続可能な表示の枠組みを構築する方法を検討する。また、欧州委員会は、特に視覚障害者にとっての食品情報のアクセシビリティを向上させるため、デジタル表示を含む他の手段で消費者に情報を提供する新たな方法を模索する。

持続可能な食品調達のための最低限の義務的基準を設定

 持続可能な食品の入手可能性と価格を改善し、施設給食における健康的で持続可能な食生活を促進するために、欧州委員会は、持続可能な食品調達のための最低限の義務的基準を設定する最善の方法を決定する。これは、都市、地域、公的機関が、学校、病院、公共施設向けに持続可能な食品を調達することによって、それぞれの役割を果たすことを助けるとともに、有機農法などの持続可能な農業システムを後押しするものである。欧州委員会は、率先して模範を示し、食堂のケータリング契約における持続可能性の基準を強化する。また、EUの学校制度を見直し、持続可能な食料消費への貢献を強化するとともに、特に、健康的な栄養摂取、持続可能な食料生産、食料廃棄物の削減の重要性に関する教育的メッセージを強化する。

持続可能な食料システムへの税制優遇

 税制上の優遇措置も、持続可能な食料システムへの移行を促進し、消費者が持続可能で健康的な食生活を選択することを奨励するものでなければならない。VAT(付加価値税)税率に関する欧州委員会の提案(現在理事会で審議中)は、加盟国が、例えば有機野菜や果物を支援するために、より的を絞った税率を利用できるようにする可能性がある。EUの税制は、さまざまな食品の価格が、有限な天然資源の使用、汚染、GHG排出、その他の環境外部性の観点から、その実質的コストを反映するようにすることも目指すべきだろう。

2.5. 食品ロスと廃棄物の削減

食品廃棄物の削減は、消費者と事業者に節約をもたらす

 食品のロスと廃棄に取り組むことは、持続可能性を達成するための鍵である(37) 。食品廃棄物の削減は、消費者と事業者に節約をもたらし、廃棄されるはずの余剰食品の回収と再分配は、重要な社会的側面を持つ。また、栄養分や副原料の回収、飼料の生産、食品安全、生物多様性、バイオエコノミー、廃棄物管理、再生可能エネルギーに関する政策とも関連している。

2030年までに小売店および消費者レベルでの一人当たりの食品廃棄物を半減

 欧州委員会は、2030年までに小売店および消費者レベルでの一人当たりの食品廃棄物を半減させることを約束している(SDGs目標12.3)。食品廃棄物の新しい測定方法(38)と、2022年に加盟国から提供される予定のデータを用いて、EU全域で食品廃棄物を削減するための基準値を設定し、法的拘束力のある目標を提案する。

食品ロスと廃棄物防止を他のEU政策に統合

 欧州委員会は、食品ロスと廃棄物防止を他のEUの政策に統合する。日付表示(「使用期限」と「賞味期限」)の誤解と誤用は、食品廃棄につながる。欧州委員会は、消費者調査を考慮して、EUの規則を改正する。欧州委員会は、食品廃棄物のレベルを定量化することに加え、生産段階での食品ロスを調査し、それを防止する方法を探る。EUレベルでの行動を調整することは、国レベルでの行動を強化することになり、「食品ロスと食品廃棄に関するEUプラットフォーム」(39)の勧告は、すべての関係者にとって進むべき道を示すのに役立つだろう。

2.6. フードサプライチェーンにおける食品偽装の防止

効果的な抑止力を備えたゼロ・トレランス政策

 食品不正は食品システムの持続可能性を危うくする。消費者を欺き、十分な情報に基づいて選択することを妨げる。食品安全、公正な商慣行、食品市場の弾力性、ひいては単一市場を損なうものである。この点では、効果的な抑止力を備えたゼロ・トレランス政策が重要である。欧州委員会は、事業者の公平な競争条件を実現し、管理・執行当局の権限を強化するために、食品偽装に対する闘いを拡大する。また、加盟国や欧州警察機構(ユーロポール)等と協力して、トレーサビリティや警告に関するEUのデータを活用し、食品不正行為に関する連携を強化する。また、より厳格な思い留まらせる措置、輸入規制の改善を提案し、欧州不正対策局(OLAF)の調整と捜査能力を強化する可能性を検討する。

  1. 世界レベルでは、SDGsに沿った食料・農業システムは、増加する世界人口に栄養価が高く手頃な価格の食料を提供し、重要な生態系の回復に役立ち、2030年までに1兆8000億ユーロ以上の新しい経済価値を創出できると推定される。出典はこちら ビジネスと持続可能な開発委員会(2017)、Better business, better world.
  2. 例えば、EUの平均的な農家の収入は、現在、経済全体の平均的な労働者の約半分である。出典はこちら。CAP Context indicator C.26 on Agricultural entrepreneurial income ( https://agridata.ec.europa.eu/Qlik_Downloads/Jobs-Growth-sources.htm ).
  3. 欧州の人々は、食品安全に関するトピックに対して高い意識を持っている。最も頻繁に報告される懸念は、食肉に含まれる抗生物質、ホルモン、ステロイド、農薬、環境汚染物質、食品添加物に関するものである。出典はこちら 特別ユーロバロメーター(2019年4月)、EUにおける食品の安全性。
  4. 1990年のCO2換算5億4325万ギガトンから、2017年の4億3899万ギガトンへ(Eurostat)
  5. 気候中立性達成のための枠組みを確立し、規則(EU) 2018/1999(欧州気候法)を改正する欧州議会と理事会の規則に関する委員会提案, COM(2020) 80 final, 2020/0036 (COD).
  6. Eurostat, EU SILC (2018), https://appsso.eurostat.ec.europa.eu/nui/show.do?dataset=ilc_mdes03⟨=en .
  7. EU FUSION (2016). 欧州の食品廃棄物量の推計。
  8. Eurostat, 肥満度指数による肥満率, https://ec.europa.eu/eurostat/databrowser/ view/sdg_02_10/default/table?lang=en.
  9. 「食品環境」とは、消費者が食品の入手、調理、消費に関する意思決定を行うために食品システムに関わる物理的、経済的、政治的、社会文化的文脈である(High-Level Panel of Experts on Food Security and Nutrition (2017), Nutrition and food systems)。
  10. 農林業における炭素除去のための堅牢な認証ルールは、農家や林家が提供する炭素隔離に対する支払いを可能にするための第一歩である。加盟国はこの規則を利用して、吸収された炭素に基づくCAP支払いを設計することができる。さらに、民間企業も気候変動対策を支援するためにこのような証明書の購入に関心を持つ可能性があり、その結果、炭素吸収のための追加インセンティブを(CAP支払いの上に)農家や林業者に提供することができる。
  11. 欧州委員会から欧州議会、理事会、欧州経済社会委員会、地域委員会へのコミュニケーション - よりクリーンで競争力のある欧州のための新しい循環型経済行動計画、COM/2020/98 final.
  12. 各EU加盟国は、自国の特定のニーズについて広範な分析を行った上で、EU全体の目標に沿って、これらのニーズを満たすために両方の「柱」からCAP資金をどのように狙うかを提案するCAP戦略計画を作成し、どのツールを使うかを定め、自国の特定の目標を設定することにしている。
  13. 規則 (EC) No 1107/2009 の付属書 II のポイント 3.6.2 から 3.6.5 および 3.8.2 に規定されるカットオフ基準に適合する活性物質を含む植物保護製品、またはその付属書のポイント 4 の基準に従って代替候補として識別される植物保護製品を指します。
  14. 農薬の統計に関する 2009 年 11 月 25 日付欧州議会および理事会規則 (EC) No 1185/2009(EEA 関連文書); OJ L 324, 10.12.2009, p.1.
  15. 農業における窒素の使用は、大気中への亜酸化窒素の排出につながる。2017年、農業からのN2O排出量は、EUにおける農業排出量の43%、人為的排出量全体の3.9%を占める(EEA (2019), Annual European Union greenhouse gas inventory 1990-2017 and Inventory report 2019)。
  16. OECD (2019), Accelerating climate action: refocussing policies through a well-being lens.
  17. 共通農業政策(CAP戦略計画)の下で加盟国が策定し、欧州農業保証基金(EAGF)および欧州農村開発農業基金(EAFRD)が資金提供する戦略計画の支援に関する規則を確立し、欧州議会および理事会の規則(EU)No 1305/2013および欧州議会および理事会の規則(EU)No 1307/2013を廃止する欧州議会および理事会の規則に関する提案に示されている通りである。COM(2018)392, 2018/0216(COD), 欧州委員会から欧州議会、理事会、欧州経済社会委員会、地域委員会へのコミュニケーション-欧州相互運用性枠組み-実施戦略, COM(2017)134 を全面的に尊重する。
  18. EEA (2019), Annual European Union greenhouse gas inventory 1990-2017 and Inventory report 2019. この数値には、土地利用および土地利用変化によるCO2排出量は含まれていない。
  19. 1億6,100万ヘクタールの農地のうち、3,910万ヘクタールの穀物と油糧種子、7,070万ヘクタールの草地(EU27、Eurostat, 2019年において)。
  20. 欧州委員会から欧州議会、理事会、欧州経済社会委員会、地域委員会へのコミュニケーション - 欧州のための持続可能なバイオエコノミー:経済、社会、環境のつながりを強化する、COM/2018/673 final.
  21. カッシーニら、(2019)「2015年のEUおよび欧州経済領域における抗生物質耐性菌による感染症による帰属死亡数および障害調整生命年:人口レベルのモデル化分析」、Lancet Infect Dis. Vol.19, issue 1, pp.55-56.
  22. https://ec.europa.eu/commission/publications/natural-resources-and-environment
  23. 2017年、投資支援を除くCAP補助金は、EUの純農業所得の57%を占めている。 https://agridata.ec.europa.eu/extensions/ DashboardFarmEconomyFocus/ DashboardFarmEconomyFocus.html
  24. 農業の回復力と持続可能性の向上に対する所得支援の貢献度を確立するために、CAPの評価を実施すること。
  25. 欧州委員会スタッフ作業文書 CAP改革とグリーンディールの関連性の分析 SWD(2020) 93.
  26. 欧州委員会から欧州議会および理事会への共通漁業政策の現状と2020年の漁業機会に関する協議に関するコミュニケーション, COM(2019) 274 final
  27. 漁業管理に関する理事会規則(EC)No 1224/2009を改正し、理事会規則(EC)No 768/2005、(EC)No 1967/2006、(EC)No 1005/2008、欧州議会と理事会の規則(EU)No 2016/1139を改正する欧州議会と理事会の規則に関する提案、COM/2018/368 final, 2018/0193(COD).
  28. 農産物市場の共通組織を確立し、理事会規則(EEC)No 922/72、(EEC)No 234/79、(EC)No 1037/2001および(EC)No 1234/2007を廃止する2013年12月17日の欧州議会および理事会の規則(EU)No 1308/2013(OJ L347, 20.12.2013, p. 671)および2017年12月13日の欧州議会および理事会規則(EU)2017/2393は、農村開発のための欧州農業基金(EAFRD)による農村開発の支援に関する規則(EU)No 1305/2013、共通農業政策の融資、管理およびモニタリングに関する規則(EU)No 1306/2013 を修正する。(EU) No 1307/2013 共通農業政策の枠組みにおける支援スキームの下での農民への直接支払いに関する規則の制定、(EU) No 1308/2013 農産物市場の共通組織の確立、(EU) No 652/2014 フードチェーン、動物の健康及び動物福祉に関する支出、植物の健康及び植物生殖材料に係る支出の管理規定を定める(OJ L 350, 29. 12.2017, p. 15).
  29. 漁業及び養殖業製品の市場の共通組織に関する2013年12月11日の欧州議会及び理事会の規則(EU)No 1379/2013、理事会規則(EC)No 1184/2006及び(EC)No 1224/2009を改正し、理事会規則(EC)No 104/2000を廃止(OJ L 354, 28.12.2013, p. 1)
  30. 農産物及び食品のサプライチェーンにおける企業間関係における不公正な取引慣行に関する2019年4月17日の欧州議会及び理事会の指令(EU)No 2019/633(OJ L 111, 25.4.2019, p. 59)。
  31. 例えば、Champion 12.3 coalitionのために実施された、食品ロスと廃棄物を減らすためのビジネスケースに関する研究では、食品ロスと廃棄物を減らすために行動を起こす企業の投資収益率は14:1であることが判明した。ハンソン、C.、P.ミッチェル。2017. The Business Case for Reducing Food Loss and Waste(食品ロスと廃棄物削減のためのビジネスケース).Washington, DC: チャンピオンズ12.3.
  32. 農林水産統計 2019 年版、統計書、Eurostat。
  33. 赤肉には、牛肉、豚肉、羊肉、山羊肉、およびすべての加工肉が含まれる。
  34. Willett W. et al (2019), 'Food in the Anthropocene: the EAT-Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems', in Lancet, Vol.393, pp.447-92.
  35. FAO and WHO (2019), Sustainable healthy diets - guiding principles.
  36. EUサイエンスハブ : https://ec.europa.eu/jrc/en/health-knowledge-gateway/societal-impacts/burden
  37. EUレベルでは、食品廃棄物(ライフサイクルの全段階)は少なくとも年間2億2700万トンCO2 eq.を占め、すなわち2012年のEU総排出量の約6%を占める(EU FUSIONS (2016). 欧州の食品廃棄物量の推計。
  38. 2019年5月3日の欧州委員会委任決定(EU)2019/1597は、食品廃棄物のレベルの均一な測定のための共通の方法論と最低限の品質要件に関して、欧州議会と理事会の指令2008/98/ECを補足する(OJ L 248, 27.9.2019, p.77).
  39. https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/safety/docs/ fs_eu-actions_action_implementation_platform_key_recommendations.pdf

(以下次号)

2022/8


米国における持続可能な土づくりの本

山田 正美  社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

はじめに

 米国における持続可能な農業がどのように行われているかを調べているときに、米国における土づくりに関する大変興味のある本に出会いましたので、その内容の一部を紹介します。

 この本は『BUILDING SOILS for BETTER CROPS(より良い作物のための土づくり)』というタイトルが付けられており、サブタイトルとして『ECOLOGICAL MANAGEMENT for HEALTHY SOILS(健全な土壌のための生態学的管理)』となっています。米国農務省(USDA)の国立食品農業研究所(NIFA)が出資した持続的農業研究教育(SARE)プログラムで発行したものです。

 著者はバーモント大学植物土壌科学名誉教授のフレッド・マグドフ(Fred Magdoff)とコーネル大学の土壌科学教授のハロルド・ヴァン・エス(Harold van Es)の2名による共著です。本文はSAREのwebサイト(https://www.sare.org/)からpdfとしてだれでも無料でダウンロードできるようになっています。

 なお、この本は1993年に初版が発行され、新しい最新の科学的知見や地球温暖化防止の視点も取り入れ、2000年に第2版、2010年に第三版、2021年に第4版が出版されています。第4版は本文が394ページと分厚い大著になっています。アメリカの生産者、教育者、普及員、学生にとっては、生態学的な土壌管理のための唯一無二の実用的なガイドブックでなっており、必読の書となっているようです。

基本的な土づくりの考え方


 農家は、作物を育てる過程で、雑草や害虫、肥沃度の低下、水不足、土壌の圧縮、表土の浸食など、さまざまな問題に直面しています。通常、雑草や害虫、線虫、植物の病気は除草剤や殺虫剤、殺菌剤で、養分不足による生育不良には市販の化学肥料で、水不足には灌漑で、土の圧縮には機械による耕起でと、それぞれ別の問題として対処されることが一般的です。しかし、本書では、これらの問題は、対処療法よりも有機物の蓄積と維持に重点を置いた適切な土壌管理によって、すべて解決されるか、少なくとも軽減することができるという、基本的考え方に貫かれています。ただし長期的な取組みが必要となります。

土壌劣化の歴史

 農地の耕作は馬からトラクターに代わり、そのトラクターの馬力アップにより、より少ない人数でもより多くの農地を耕作することができるようになりました。大型の四輪駆動トラクターは、土地が湿っているときでも畑仕事ができるようになりましたが、ひどい土壌圧縮が生じ、時には土壌が塊りの状態になり、そのため必要以上に耕す必要にせまられることがありました。プラウ耕は、19世紀から20世紀初頭の農業において、原生林を開墾し、多年生雑草を抑制する有益な道具と考えられていましたが、繰り返し使用するうちに、土壌構造を破壊し、表面に残渣を残さないという土壌劣化の原因をつくったのです。その結果、土壌はむき出しになり、1930年代のダストボールのような大規模な風食や水による浸食の影響を受け易くなりました。戦後、農場の規模が大きくなるにつれ、より重い肥料散布機を必要とし、苗床の準備、植え付け、農薬散布、収穫のために畑を通る回数が増え、その両方が土壌圧縮をより大きくすることになり、土壌劣化に繋がっていったのです。

対処療法的問題解決方法

 土壌に関わる問題のほとんどは、外部からの資材投入を増やすことで対処できるという新しい論理が生まれたのです。これは、土壌の問題に対処するための受け身の方法であり、現場で「問題」を見てから対応するものです。ある土壌で栄養素が不足していれば、肥料を買ってきて土壌に散布する。雨を十分に貯められない土壌であれば、灌漑をすればよい。土が締まって水が浸透しにくく、根が入りにくくなったら、大きな機械で土を耕す。作物に病気や害虫が発生したら、農薬を散布する。しかし、一時期、農業の発展や急速に拡大する世界人口を養うためには安い資材を投入して当面の生産量を確保する必要があったということも認めざるを得ません。しかし、これらは本当に個別の問題の解決方法だけで対処できるのでしょうか?もしかしたら、個々の問題が、もっと深いところにある問題の兆候として現れたと捉えたほうがいいかもしれません。何が根本的な問題で、何がその兆候とした現れたのかを見分ける能力は、最善の行動を決定するために必要不可欠なことです。卑近な例でいえば、壁に頭をぶつけて頭痛がした場合、問題は頭痛であり、アスピリンが最適な治療法なのでしょうか。明らかに、本当の問題は頭をぶつけたという行動にあり、頭痛ではありません。そして、最善の解決策は、壁に頭をぶつけないことなのです。

アグロエコロジーという考え方

 多くの人が個別の問題だと考えているものには、劣化した質の悪い土壌の兆候である可能性があり、それは一般的な耕作方法と関連していることが多いのです。これらの症状は、通常、土壌有機物の枯渇、土壌生物の量と多様性の欠如、化学汚染、重量機械による圧縮に直接関連しています。

 農家は、一般的な土壌の健康管理に注意を向けるのではなく、目の前の個々の状況に対処するよう推奨されてきました。しかし、現在では、自然界が本来持っている力を利用し、健全な土壌を作ることを目的とした農業生産方式である『アグロエコロジー』という考えが広く受け入れられてきています。この方法では、土壌が不健康になった後に対応したり、高価な投入物で克服しようとしたりするのではなく、健康な土壌を作ることで、多くの症状が発生するのを防ぐことができというものです。もし私たちが自然を支配したりするのではなく、自然と共に働こうとするならば、土壌中の有機物を良好なレベルに維持することは、物理的条件やpH、栄養レベルの管理と同じくらい重要なことなのです。興味深いことに、気候変動への懸念から、いわゆる炭素農法による土壌有機物管理への関心が再び高まっています。確かに、土壌中に多くの炭素を蓄積することは、地球温暖化を抑制することにもつながります。

パラダイムシフト

 土壌の健全性の重要な役割が見落とされ、環境への影響や長期的な影響が経済システムに組み込まれないようなやり方が、食糧生産システムを維持してきたと言えます。そうなると、こうした構造的な問題が認識され、経済的なインセンティブが変化しない限り、事態は改善されないと言えるでしょう。多くの農業地域では、長期的な土壌の健全性管理とは相容れないグローバルなシステムに経済的に依存するようになりました。また、農業機械や肥料や農薬といった資材を販売する部門は高度に統合され、力を持つようになり、これらの企業は一般に現状を維持することに関心を持っています。投入資材の価格は過去数十年の間に著しく上昇している一方で、農産物の価格は短期的な価格高騰を除いては、低いまま推移する傾向にあります。このため、農業はより効率的な方向に進むと考えられていますが、必ずしも持続可能な方法ではありません。そこで、持続可能な土壌管理は収益性が高く、そのような管理によって、資源の希少性が高まり、作物投入物の価格が上昇すれば、収益性は向上すると主張しています。農業や食品産業における企業の利益さえも、このパラダイムでは実現可能です。

土壌中有機物と大気中の二酸化炭素

 土壌は、植物生産による炭素と養分の取り込みの累積を蓄積しており、土地に存在する最も大量の炭素は、生きている植物体ではなく、土中に存在する土壌有機物に蓄積されています。しばらく時間がかかりましたが、この理解は現在、炭素循環の議論に反映されつつあります。土壌には、すべての植物、すべての動物、そして大気中の二酸化炭素を合わせたよりも多くの炭素が貯蔵されているのです。土壌有機物は、生きている植物体の4倍の炭素を含んでいると推定され、実際、世界中の土壌に蓄えられた炭素は、大気中の炭素の2?3倍にもなります。土壌有機物が枯渇していくということは、土壌中の有機物が分解し、炭酸ガスとして放出され、大気中の二酸化炭素の供給源となります。また、森林を伐採して燃やすと、大量の二酸化炭素が直接放出されます。さらに、森林の農地化によって土壌有機物が急速に減少すると、土壌から大量の二酸化炭素が放出されます。作土7インチ(約17.8センチ)の土壌中の1%の有機物には、畑の上空の大気と同じ量の炭素が存在しています。もし、有機物が3%から2%に減ると、土壌から大気に1%に相当する二酸化炭素が放出され、大気中の二酸化炭素の量は2倍になる可能性があります。(もちろん、風や拡散によって二酸化炭素は地球上の別の場所に移動し、海に吸収されたり、風下の植物が光合成で取り込んだりすることもあります)。

耕起作業の意味するところ

 耕起作業は、表土浸食の量と有機物の分解速度の両方に影響します。従来のプラウ耕とディスク耕は、滑らかな播種床を作り、有機物の分解を促進することで養分の放出を促し、雑草の抑制に役立つなど、短期的には多くの利点があります。しかし、自然に生成している土壌団粒がプラウ耕などの耕起によって破壊されることによって、土壌は風や水による浸食を受けやすい物理的状態に置かれることになります。耕起作業によって土壌が撹乱されればされるほど、土壌生物による有機物の分解が進む可能性が高くなります。これは、耕起によって団粒が破壊されると、団粒に含まれる有機物が土壌生物に利用されやすくなるためです。プラウ耕で土中に残渣を入れ、団粒を壊し、土をふわっとさせることで、微生物がより早く活動できるようになるのです。例えるなら、薪ストーブの吸気口を開けて酸素をたくさん取り込み、火をより高温にするようなものです。土壌の有機物が急速に失われる(大気中に二酸化炭素が放出される)のは、初期に微生物が利用できる活性有機物(死骸)の量が多いためです。

保全耕起

 耕起が繰り返され、生物学的に活性な部分の多くが失われた後、有機物の損失速度は遅くなり、残るのは主にすでに十分に分解された「活性が少ない」有機物質です。現在、削減(保全)耕起が注目されており、この耕起方法を使うことで、連作作物を栽培しても、土壌有機物にそれほど有害な影響を与えることはなくなっています。保全耕起は、従来のプラウ耕やディスク耕に比べて、より多くの残渣を表面に残し、土壌の撹乱を少なくすることができます。実際、不耕起栽培では、植え付け列の間の土壌を乱すことなく、土壌の狭い範囲に種子を配置すると、土壌有機物レベルが通常増加します。保全耕起は耕しても土壌が反転しないため、残渣は表面に蓄積されます。ミミズは、土壌表面に残された植物性残渣を食べることに自然に適応しているため、ミミズの個体数が増加します。ミミズは残渣を土中深くまで取り込み、水路を作って水が土壌に浸透するのを助けます。

  以上、米国のSAREから発行された"BUILDING SOILS for BETTER CROPS"の内容についてそのポイントとなる項目をいくつか紹介しました。持続可能な農業を考える上で大変参考になる書籍だと思います。米国と日本では農業環境が異なり、一概には適用できるものではありませんが、土壌中有機物が持続的農業には欠かせないという考え方はとても参考になります。また、この本には土壌有機物を増やすための作物とカバークロップの組み合わせなど、実務的な話題も豊富です。翻訳して全文を紹介できればと思っています。

2022/8


家族農業のためのGAP(適正農業管理)
国際連合食糧農業機関(FAO)のGAPガイドライン紹介(4)
 P30~P38 6.農薬使用のポイント 7.肥料使用のポイント

2022/8


GAP Q&A
農林水産省の肥料価格高騰対策事業とGAP管理について
~「GH評価規準」で適切な対応をしましょう~

株式会社AGIC 事業部


肥料価格高騰対策事業とは

 世界的な穀物需要の増加やエネルギー価格の上昇に加え、ロシアによるウクライナ侵略等の影響により、化学肥料原料の国際価格が大幅に上昇し、肥料価格が急騰しています。
 海外原料に依存している化学肥料の低減や堆肥等の国内資源の活用等の取組を行う農業者に対し、肥料コスト上昇分の一部を支援することを通じて、農業経営への影響を緩和するとともに、化学肥料の使用量の低減を進めます。(農林水産省ホームページから)

Q:
質問者 GH農場評価を活用してGAP指導に取り組む都道府県の普及指導員
 7月29日に「肥料価格高騰対策事業」が閣議決定され、その後要綱、要領等が公表され、申請に参加する農業者が実施すべき15項目の「取組みメニュー」が提示されました。GAPの取組みとこういった事業メニューとの関連が明確になれば、普及行政担当者らも、もっとGAPへの理解も深まると思います。
 今回の申請には、(1)15項目のうち2つ以上の取組みを含む「化学肥料低減計画書」と、(2)肥料の注文票や請求書などが必要であり、当たり前といえば当たり前のことなのですが、普及現場では、GH農場評価規準と結び付けて説明していくことで、農業者の方々がGAPを理解していただく近道になるのではないかと感じています。
 若手生産者グループには、「肥料などの資材の適正な在庫管理と注文書、請求書などの記録を保管することはGAP項目でもあり、GAPをすることで、活用できる事業の判断ができるようになる。これも経営者としては大事なこと。」とお話ししています。関連付けができそうな項目があれば現場で説明していきたいの、教えてください。


A:
 ご質問ありがとうございます。「肥料価格高騰対策事業」で指定されている取組みメニューにそのまま対応している「GH評価規準項目」と、取組みメニューを採用した場合に必要となる「GH評価規準項目」があります。GH評価規準チェックシートの「コメント欄」に対応を整理する形で回答いたします。

 ①管理基準の文章で取組みメニューに関連するキーワードは「青色」の文字で記載しています。
 ②取組みメニューにそのまま対応している項目は「黒色」の文字で表現しました。
 ③関連する項目や補足については「赤色」の文字で記載しています。

2.2 土壌管理 コメント
2.2.1 ○土壌保全を確実に行うための土壌管理計画がある。計画には以下の内容が含まれている。
① 土壌の種類
② 前作の状況(土壌病害、連作障害、土壌消毒履歴、土壌流亡等の発生状況など)
③ 土壌図や土壌分析の結果(作土の厚さ、土壌鉱物、有機物含量、保水力等の物理性など)
④ 土壌改良・土作り計画(土壌消毒、石灰によるpH 調整、有機物施用による土作りなど)
⑤ 必要な場合は、放射性汚染物質やカドミウム等の重金属への技術対策
3 ア 土壌診断による施肥設計
2.2.2 有機質資材の施用、作物残渣の土壌還元などで、土壌有機物量の維持・増加に取り組んでいる。
○実施可能な場合、一年生作物の輪作を行なっている。
3 エ たい肥の利用
キ 有機質肥料(指定混合等を含む)の利用
ク 緑肥作物の利用(緑肥等を栽培した後に土壌還元している場合)
2.2.3 ○石灰や土壌改良材の活用、深耕、クリーニングクロップの栽培などにより、土壌のpHやECを適正に保つようにしている。 3 ク 緑肥作物の利用(クリーニングクロップを兼ねて緑肥等を栽培している場合)
2.2.4 ○冬から春にかけて畑の表面が裸になり、強い風により土壌粒子が舞い上がるような圃場では、越冬する麦を秋に作付けたり、網マルチで土壌を覆ったりして、風食を防止している。
○土壌の河川・湖沼等への流出や、肥料成分の流失がないよう、農地の耕作技術を生かして、土壌浸食が起こる可能性を減らしている。
3 ク 緑肥作物の利用(風食防止を兼ねて緑肥等を栽培している場合)
2.3 作物養分管理
2.3.1 ○都道府県の施肥基準等で示している施肥量・方法とともに土壌診断の結果や圃場への全ての養分供給を考慮した養分管理計画書に基づいて適正な施肥を実施している。
養分管理計画書および施肥実績から、窒素、リン酸等の投与が過剰になっていないことが確認できる。
4 ア 土壌診断による施肥設計
イ 生育診断による施肥設計(←GH評価規準では直接、生育診断とは言っていませんが、土壌への施肥実績の評価という位置付になります。)(参考:https:// mizuho agrisupport .co.jp/ method-1/)
ウ 地域の低投入型の施肥設計の導入
ケ 肥料施用量の少ない品種の利用(←GH評価規準では直接、品種については言っていませんが、作2.3.1は作物養分要求量に必要最低限の養分供給を行うことが基本です。)
コ 低成分肥料(単肥配合を含む)の利用
セ 化学肥料の使用量及びコスト節減の観点からの施肥量・肥料銘柄の見直し
2.3.3 作物の特性や、生育段階に合わせた施用、作物の根元への局所施用、緩効性肥料の使用など、肥料が効率的に作物へ利用される技術に取り組んでいる。 3 コ 低成分肥料(単肥配合を含む)の利用
サ 可変施肥機の利用(ドローン活用等も含む)
シ 局所施肥(側条施肥、うね立て同時施肥、灌注施肥等)
ス 育苗箱(ポット苗)施肥の利用
ソ 地域特任技術の利用(県協議会で決めたもの)(内容による)
2.3.4 堆肥・有機質肥料の施用において、その性質や使用方法を考慮して食品安全面および環境面へのリスク評価を行ったことが分かる記録がある。少なくとも、以下のことを考慮している。(原材料、製造方法、微生物汚染、雑草種子の混入、重金属や放射性物質含量、施用の時期/場所/可食部への接触)
○堆肥・有機質肥料の施用は、収穫との間に、食品の安全性を損なわないだけの期間を設けている。
4 (オ 汚泥肥料の利用、カ 食品残差など国内資源の利用 ← GH評価規準では直接、利用推進は言っていませんが、汚泥肥料や食品残渣などの利用の際に、必要となるリスク評価が、この作2.3.4になります。むしろ、国が、オ.カ.やエ.キ.の推進の際に、注意事項としてリスク評価をしっかりと説明しなければなりません。)
4.2 肥料の保管
4.2.2 ○肥料は定期的に実地棚卸を行っており、購入記録(購入伝票など)と使用記録から正確な在庫が確認できる。
○在庫に動きがあった後、一か月以内に更新している。
3 令和4年秋肥については令和4年6月~10月に注文したもの、令和5年春肥については令和4年11月~令和5年5月に注文したものであることが分かるもの(注文票など)に加え、購入したことが分かるもの(領収書または請求書)

2022/8


セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介

株式会社AGIC 事業部

「GAP指導者養成研修(GAP実践セミナー+農場実地トレーニング)」

①"GAP=持続可能な農業のための実践"を再認識
GAPにはIPMやアニマルウェルフェアが含まれると初めて知った

受講者 普及指導員

  研修を受けて、GAPは持続可能な農業のための実践をするための取り組みだということを再確認できた。
 また、汚染のリスクを最小限にできればよいため、上を求めすぎると継続できないという認識が指導者側であることが意外だった。そのため、BAP(Bad Agricultural Practice)をGAP(Good Agricultural Practice)に変えていき、悪くない、つまりGoodな農業が実現できるよう、問題点を探し、指導できるよう努力したい。また、GAPにはIPMやアニマルウェルフェアなどの考え方についても盛り込まれていることは初めて知った。自身が認識していたよりも様々な観点から農業のあり方について考えられていることが分かった。その中でも、食品安全や環境保全については、不特定多数の人に影響があることから、非常に重要視されていることが分かった。


②かつては生産性、今は環境負荷低減で農業を工業並みに

受講者 普及指導員

 農業は特に水・土・大気などの自然資源を直接利用するので、環境負荷をかけないためにGAPが必要だと分かった。また、ヨーロッパでの環境保全推進の流れでGAPが進められてきており、日本はそれを後追いする形でGAPを進めていることも分かった。工業分野においてもGAPのような考え方は推し進められてきたと思うが、現状は、農業の方がむしろ工業分野より環境負荷に対して意識が遅れており、かつて生産性の面で農業を工業並みにしようとした時代があったが、今度は環境負荷の面で同じように農業を工業並みにしようとしている点が面白いと思った。


③GH評価は、自然にGAPの理念やGAP的な考え方が身につく良いツール

受講者 普及指導員

 GAPについて頭では理解しているつもりでも、農業者に対して簡潔に説明することは難しい。農業者に指導する際もGAPの理念から理解してもらわないと、その必要性や取り組む意義があいまいとなり、長続きしないと考える。その点で考えると、いきなりGAPというよりも今回の研修で学んだGH評価は、自然にGAPの理念やGAP的な考え方が身につく良いツールだと感じた。実際に農業者に指導する際は、もう少し経験を積まなければとならないと個人的に感じた。


「技能講習(リスク評価)」

④経営支援の側面からも役立つリスク評価

受講者 普及指導員

 GH評価員の資格維持と技能向上を目的とした本研修では、その目的に対する効果に加えて、普及職員としての経験が乏しい自分としては、経営支援的な側面からも得るものがあったと感じた。
 リスク評価の効果として、"ほ場情報のデータベース化"による生産場所の経営への影響(繋がり)が見える様になる点は、狭くなりがちな視野を広げる手法として参考となる。また、日々の巡回で得る多くの情報は断片的なものが多く、体系的に集約することにより今後の経営支援に活かしていきたい。


2022/8


青果物集出荷施設等の衛生管理の手引書に基づく
全中が開催『青果物集出荷施設の自主的衛生管理に係る講習会』

株式会社AGIC 事業部

 全国農業協同組合中央会(全中)は、全国のJAが自主的衛生管理の徹底を図るために、「食品衛生法の改正に伴う情勢や対応策の講習会(Web)」を開催しました。この講習会で『青果物集出荷施設等の衛生管理の手引書』を作成した日本生産者GAP協会の田上理事長が講師を務めました。

 日本生産者GAP協会では、青果物集出荷施設(選果場等)の衛生管理セミナー(1日コース)を開催しています。

2022/8


株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載43回)
~経営改善計画の実行とスマート農業化~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役


 会社を設立して第10期の決算が終わった。今期も経常損失が36万円となり、赤字経営となった。しかし、前期190万円の赤字よりは改善はできた。昨年は緊急策として社長給与半減と著者所有の地代及び施設貸し付け経費を未払い処理して会社に現金を残したことで運転資金はクリヤーできた。今期も給与半減は継続、その他経費も未払いで対応することとした。経営改善の最も重要なことは「おいしくて売れるみかん」を生産することであることはわかっていたが、農作業に余裕がなく品種更新に取り組めかったことが失態である。栽培管理技術は向上してきたことから、次の改善としては、ことわざにある「品種に勝る技術なし」に取り組みはじめた。現状の異常気象下では古い品種は対応出来ない状況である。どんな年にでも品質が一定でおいしい品種に「ゆら早生」「田口早生」があり、今年と来年で中晩柑をその品種に更新する。社員のアイデアで、早期に収穫量を確保するため、一般の定植本数の数倍を定植し、3年で成園なみの収穫量をあげる計画だ。苗木代金が多く必要だが、数年でカバー出来る計算である。社員が自分の将来をも見据えた長期経営計画を立てていることをたのもしく感じているこの頃である。

 また、グロワーシッパーとして当社と姉妹関係にあり、流通を担当する「株式会社みかんの会」との連携も順調に進み、フェイスブックやインスタグラムなどSNS上での商品紹介ではCitrus生産チームとしてアップされ組織化ができてきた。生産現場の画像はCitrusが撮影し、生産と流通を一体化することでEC(電子商取引)の売り上げも徐々に拡大してきている。

 若者たちのネットワークが構築され農作業や「みかんの会」の仕事も相互協力出来るようになり、単なる個人経営ではなく理想とする1つの経営体の在り方が見えてきた。


 一方、栽培管理の合理化としてのスマート農業化も進めている。ドローンや自走式の草刈り機のデモや研修会等に社員自ら希望して参加している。みかん園で導入可能な機械は少ないなか、唯一運搬の軽労化を図るための電動式の一輪車「E-CAT KIT」を購入し試運転をしたところである。アルミフレームにE-CATのタイヤとバッテリーが組み込まれたもので、和歌山県の有田で開発され全国展開している運搬機械である。社員がこのE-CAT KITの開発者と知り合いで、若者の間で話題となり、昨年より有田のみかん園で流行っている。写真のようなところでも楽々自動車までみかんを運搬する。

 ドローンによる薬剤散布は、京都にあるエアロジャパン(http://www.flyaero.jp)の志村伊織社長と交流を深め、傾斜地のみかん園での操作を自動化できないか試験運転中である。(写真はCitrus園での試験飛行中のドローン)しかし、みかん園の地形を読み取るプログラムを書き換えるシステムエンジニアがいないので実用化に至っていない。導入するにはまだ早いと考えている。

 社員らが今、経営内容の見直しやスマート農業への関心を高めていることで、今後Citrusの運営が大いに楽しみである。

2022/8


≪予告≫2022年度GAPシンポジウム開催

  • 日 時:2023年2月9日(木)・10日(金)
  • 会 場:(会場つくば市)+オンライン(zoomミーティングルーム)
  • テーマ:『みどりの食料システム戦略』と『適切な農場管理(GAP)』
  • 2022/8