-日本に相応しいGAP規範の構築とGAP普及のために-

GAP普及ニュース 72号

《巻頭言》
GAPとエシカル消費をつなぐ

田上隆一  一般社団法人日本生産者GAP協会理事長

 農業生産者は、"GAPが普及しないのは消費者の認知度が低いからだ"、という考えを改めて、世界が目指すグリーン経済(環境調和型経済)を再認識して、消費者視点(エシカル消費)で農業、農村、農産物を意識することが必要な時代になりました。多くの消費者が、環境や社会に配慮して生産された商品やサービスを購入することで、地球温暖化をはじめとした環境問題や地域活性化など、私たちが抱えるさまざまな課題の解決に貢献したいと考え始めているからです。

日本のGAP進捗

 リンゴを英国に輸出していた青森県の片山りんご園が2002年に「GAP認証」を求められたことを切っ掛けに、私は「JGAP認証制度(2005年)」を開発し、「GAP普及センター」でGAPの実践指導とGAP指導者養成を開始しました。現在は、GLOBALG.A.P.取得支援の他に、「日本生産者GAP協会」で環境調和型農業に取り組む都道府県の農業振興やJAグループのGAP普及事業を支援しています。

 農林水産省でも、「するGAP(持続可能な農業)」や「とるGAP(消費者信頼の農業)」のGAP政策を行い、「2020東京五輪」では、持続可能な食品調達に向けて全国各地でGAPの取り組みを推進してきました。しかし、五輪のレガシーとしてGAPが盛り上がることはなく、2020年に農業及び環境政策の大転換(EUのFarm to Fork戦略、米国の農業イノベーションアジェンダ等)を発表した欧米から、日本のGAPは2周回遅れの普及状況になっています。

食品安全は競争するものではない

 このような状況の中で、世界に遅れまいと打ち出される日本のGAP推進策の一つは、流通企業と消費者へのGAP農産物のPRです。まずは、卸や小売企業のGAP認知度を高めて買手側から生産者へのGAP認証要求を期待しようという声です。その点外資系小売り企業では、海外の店舗ではGAP農場の農産物が当たり前なので、当然日本でもそうしたいと考えているようです。しかし、認証を取得した国産農産物はあまりにも少なく、店頭の商品を認証商品で満たすことができません。かといって、欧州の小売企業のように、農業者にGAP認証の取得を可能にする具体的な産地指導を行っている様子もあまり見えません。

 また、消費者の認知度を上げようと、行政がGAP農産物のPR事業を行っている例があります。これには、GAP実践、特に認証を取得した農業者からの強い要望もあるようです。このような、農業者の努力を理解してもらおうという考え方は重要な対策ですが、その際に安全な商品の差別化としてGAPを知ってもらおうというPRの仕方は、必ずしもうまくいっていないようです。

 GAP認証は、食品安全ばかりではなく環境保全や労働安全の視点からも監査されていますが、国際取引で要求される農場認証は、農産物の食品安全性に主眼が置かれています。そのために生産者や流通・販売の関係者が自ら食品安全をアピールすることもあり、マスコミの表現でもGAPには食品安全が枕詞になっています。そのために社会のイメージは、"食品安全GAP"になっています。これでは、いくらPRしても消費者には響かないのではないでしょうか。農産物が安全であることは"販売する食品として当たり前"であって、安全ではない(ちょっとでも危険な)場合には社会的な大問題になるのですから。

GAPの目標は環境か経済か

 そもそもGAPは、欧州の環境政策から生まれたものです。1960年代初めに環境保全の様々な行動が始まり、環境を守るための法律は、EUのあらゆる分野に影響を与えています。1980年代には農業の分野でも、「水や大気や土壌をきれいにすること、化学物質を安全に取り扱うこと、動植物の生息地を守ることなどの実践規範」(適正農業規範:Code of Good Agricultural Practice)が策定され、「政策としての環境保全型農業」(GAPステージ1)*1により、1990年代半ばにはGAPは欧州農業者のマナーになっていました。

 これらに加え、欧州農業政策の現在は、資源の効率化を図り、究極的に再生力のある循環型農業への移行が具体的な目標になっていると言われています。新たな国際戦略であるEUのFarm to Forkへの志向であり、GAPが戦略推進の土台になっているということです。

 このように言うと、「欧州市民が環境や食品に対する意識が高いからで、日本ではそうはなっていない」とよく言われます。たしかに、日本の環境政策といえば、1960年代からずっと「公害問題」としての認識で、水質や大気汚染の問題は工場や工業地帯での規制として取り組んできたものばかりです。世界的水準での環境保護政策が始まったのは1993年の「環境基本法」からかでしょう。そして、日本でGAPが意識されたのが冒頭の2005年のGAP認証ですから、欧州の「流通ビジネスとしての農場監査」(GAPステージ2)*2が定着してからということになります。日本ではGAPステージ1を経験していないので、GAPと言えば認証ありきで、農業ビジネスとしての「食品安全GAP」をイメージする人が多くなっています。

気候中立を目指す持続可能な食料供給政策

 EUの「Farm to Fork戦略」や米国の「農業イノベーションアジェンダ」に倣って、日本では2021年に「みどりの食料システム戦略」が策定されました。人間の活動から発生する排出物を限りなくゼロにすること(ゼロエミッション)を目指す高いレベルの環境政策(GAPステージ3)*3です。

 これらの世界標準に合わせるためには、「プラネタリーバウンダリー」*4で示された"地球の持つ限界のなかでより良く生きる"という長期目標を理解し、日本で実現すべきグリーン経済(環境調和型経済)を農業分野でどう実現すべきかを考えて行動する必要があります。世界の温室効果ガス排出量の4分の1は農林業・土地利用が占め(IPCCレポート2015年)、現代農業は気候変動に拍車をかけているからです。

 しかし、植物は光合成により大気中の二酸化炭素(CO2)を取り込み、残渣や堆肥などの有機物が土壌に帰ることで炭素が固定化され、大気中のCO2が減少します。つまり、循環型農業で生産性を上げると同時に、その循環型農業そのものが「温室効果ガス」の削減に貢献する可能性があります。したがって、農業の現場では、"総合的な農地の炭素循環、IPMなどによる低リスク農薬への転換、そして限りなく有機農業へ"、というGAPのP(プラクティス)を実行することが求められています。持続可能な食料供給政策のGAPは、"生産性向上と自然生態系の保全を両立させる農業"を目指すことです。

消費者のための農業と「エシカル消費」

 本誌71号の巻頭言「日本農業のトランスフォーメーションを考える」で、中島洋理事が「農業は誰のためにあるのか」という課題を掲げて、「消費者のための農業」についても分かり易く解説しています。消費者のための農業のあるべき姿では、「SDGsとエシカル消費」がキーワードになっています。エシカル消費とは、「地球環境や社会問題の解決に貢献できる商品を買い、そうではない商品は買わないという消費活動」のことです。「エシカル」という言葉を知らない人々が多い中で、衣食住やライフスタイルを通じて、自然とのつながりやオーガニック的ライフスタイルを心地よく取り入れていく女性や若者が増え始めているのです。「エシカル」は「エシック(倫理的)な」という意味で、「地球環境にやさしい」というほどの感覚です。"衣類についていえば化学繊維は避ける"、"食器や雑貨品ではプラスチック製を避ける"、"レジ袋の使用を避ける"、"輸送に伴うエネルギー多消費を避ける"など細かいところで商品選好の基準に変化が起きつつあります。加工食品の選好でも、原料となる農産物にまでさかのぼって「エシカル」かどうかの情報を要求する。消費傾向を先取りする消費者は、商品について生産から流通に至るまでチェックし始めているのです。(中島)

エシカル消費の動向

 消費者庁はホームページで、「エシカル消費とは、地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことです」、と定義し、「私たち一人一人が、社会的な課題に気付き、日々のお買物を通して、その課題の解決のために、自分は何ができるのかを考えてみること、これが、エシカル消費の第一歩です」、と言っています。

 エシカル消費は、英国から始まったと言われています。英国では1989年に「エシカルコンシューマー」という専門誌が創刊され、積極的にエシカル消費を広めています。また、1998年には「エシカル・トレード・イニチアチブ」(https://www.ethicaltrade.org)という協会が誕生し、企業が倫理的な取引を行うためにどのようなステップを踏むべきか、エシカル消費(及び貿易)の行動規範を定義し、また、労働者の生活にプラスの変化をもたらすにはどうしたらよいか、人権とビジネスからのアプローチで、企業、労働組合、NGO等に働きかけています。

 日本では2015年に「一般社団法人エシカル協会」が設立され、エシカル消費についての普及教育活動を行っています(https://ethicaljapan.org)。また、「一般社団法人日本エシカル推進協議会」は、特にサステナブル購入、フェアトレード、FSC、MSC、レインフォレストアライアンス認証、RSPO、動物福祉、オーガニック、ESG投資、エシカルファッションなどのエシカルなライフスタイル並びにエシカル文化全体を底上げする活動を行っています(https://www.jeijc.org/)。

 さらに、持続可能な原材料調達や環境・社会的配慮につながる、さまざまな 国際認証ラベルをより多くの方に知ってもらおうと、「一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会」(https://jsl.life)が、農林水産業や繊維産業をはじめとする様々な分野のサステナブルとエシカルにつながる「国際認証ラベル」の推進事業を実施しています。

GAP実践とエシカル消費のすれ違い

 これまでGAPを語る際には、"生産者のための農業"のあるべき姿として、持続性、健全性、生産性等の視点から論じ、その際に消費者は、農産物市場の背景や"消費する顧客という需要"の面から取り上げられてきました。そして、生産者のGAP実践が消費者の購買行動につながらないのは、生産(供給)側と消費(需要)側との情報断絶が大きな原因であるという理由で、商業的PRに力を入れています。

 しかし、GAPの商業的PRは消費者に響いていないようです。生産者が目指す持続可能性(GAP)と消費者が求める倫理的(エシカル)は、目指すところが同じなのに出会うことなく"すれ違い"を起こしているようです。差別化を戦略とする商業主義的な情報伝達では、持続可能な農業を目指すGAPの本質が伝わらないのです。

 今や消費活動は心地よいライフスタイルを実現するためのものというように変わってきています。多くの消費者が、自然とのつながりやオーガニック的なものを暮らしの中で体感するための購買行動をとるのですから、GAPのPRでは、「生産性向上と自然生態系の保全を両立させる農業」を目指す農業本来の姿を消費者に伝えていくことが必要です。たとえ無意識であってもエシカル消費を実行している生活者が増えているという実態は、GAP農業者に勇気を与えてくれます。「エシカル消費とは、地球環境や社会問題の解決に貢献できる商品を買い、そうではない商品は買わないという消費活動のことです」という定義はGAPに目覚めた農業者にとって百万の味方を得た思いです。

GAPとエシカル消費をつなぐ

 「GAPとエシカル消費」の組合せは、正に「人新世」*5と言われる現代に求められる「SDGs目標12.つくる責任・つかう責任」の現実的な行動様式と言って良いと思います。SDGs 12.では、生産段階のサステナブル(持続可能性)を消費者のエシカル(倫理)につなぐためには、両者はもちろん、関係するあらゆる人々を巻き込んだサプライチェーンが必要です。サプライチェーンでは、水や大気や土壌の保全、エネルギー消費の節約、食品ロス等の解決に向けた取り組みが一貫して実施されている必要があります。

 持続可能な社会づくりのために、サプライチェーンの各プレイヤーそれぞれが責任を果たし、その上で消費者が参画して消費行動で責任を果たすことで目標達成の第一歩が始まります。消費者の責任には「サステナブルではない商品は買わない」という行動もあり、その消費行動がライフスタイルになることです。商品を知るためにサステナブルとエシカルにつながる「国際認証ラベル」などの事業が推進されていますが、その際に、「売れる仕組みの構築」としての従来型のマーケティングではうまくいくとは限らないでしょう。少なくてもサプライチェーンのスタートラインに立つGAP実践者は、GAP認証のラベルで勝負するのではなく、農業生産活動の全てにおいて持続可能で社会的責任を意識した管理体制を作り、農産物サプライチェーンの信頼を高めることに貢献することが必要です。そうすることでGAPとエシカル消費がつながる社会変革が期待できると思います。

*1 GAPステージ1:政策としての環境保全型農業
*2 GAPステージ2:流通ビジネスとしての農場監査
*3 GAPステージ3:国際戦略としての持続可能な農業
*4 プラネタリーバウンダリー:地球の限界と呼ばれる人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念
*5 人新世:人類が農業や産業革命を通じて地球規模の環境変化をもたらした時代と定義され、人間たちの活動の痕跡が地球の表面を覆いつくした年代という意味

2022/11


≪提言≫ 『みどりの食料システム戦略』を理解するために
EUの『Farm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略)』を読む《後半》

田上 隆一  社団法人日本生産者GAP協会理事長

 2050年を見据えた「みどりの食料システム戦略」が、EUの「Farm to Fork戦略」をお手本にしているというのであれば、日本の生産者・農業関係者は、EUの戦略が何を意味しているのか調べてみる必要があります。農業の政策やそれに基づく戦略は、国や地域よって異なるものですが、背景や戦略の内容がほぼ同じであり、達成目標も同じもの、ということであればなおさら、私たちは「写し」ではなく「原本」に当たってみる必要があると思います。

 以下に欧州連合公式ウェブサイト【https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52020DC0381】のFarm to Fork 戦略(日本語訳)を掲載します。日本語訳にはDeepL翻訳ソフトを使用しました。

なお、日本語訳の項目見出しは訳者が付けたものです。

後半では、巻末の[注]を本文の各項目の後に移動しました。

後半では、本文中の説明を要する(と思われる)単語の解説を緑文字で記述しました。

公正で健康的、かつ環境に優しい食品システムのためのFarm to Fork 戦略
欧州委員会から欧州議会、欧州理事会、欧州経済社会委員会、欧州地域委員会へ

欧州委員会 ブリュッセル、2020.5.20 COM(2020) 381 final

3. 新たな農業・食料システムへの移行を可能にする

3.1. 研究、イノベーション、技術、投資

Farm to Fork戦略の推進力は一次生産から消費に至る研究とイノベーション(R&I)

 研究とイノベーション(R&I)は、一次生産から消費に至るまで、持続可能で健全かつ包括的な食料システムへの移行を加速させる重要な推進力である。R&Iは、解決策の開発と検証、障壁の克服、新たな市場機会の発掘を支援することができる(40) 。Horizon 2020(2014年から2020年までのEUの研究・イノベーション資金約80億ユーロのプログラム)の下で、欧州委員会は、2020 年のグリーンディールの優先事項のために、総額約 10 億ユーロの追加提案募集を準備中である。Horizon Europeでは、食糧、バイオエコノミー、天然資源、農業、漁業、養殖、環境に関するR&Iと、農業食糧のためのデジタル技術と自然ベースのソリューションの活用に100億ユーロを投じることが提案されている。主な研究分野は、マイクロバイオーム(生物の身体に棲む微生物叢)、海洋からの食品、都市のフードシステム、植物、微生物、海洋、昆虫ベースのタンパク質や肉代替品などの代替タンパク質の利用可能性と供給源を増やすことに関連するものである。

(40) 欧州委員会スタッフ作業文書-食料・栄養安全保障のための欧州研究・イノベーション、SWD 2016/319、欧州委員会FOOD 2030ハイレベル会議背景文書(2016)-食料・栄養安全保障のための欧州研究・イノベーション.を参照

土壌の健康と食料分野のR&Iで農薬、肥料、抗菌剤の使用量削減に貢献する

 土壌の健康と食料の分野におけるミッションは、土壌の健康と機能を回復するための解決策を開発することを目指す。新しい知識とイノベーションは、アグロエコロジー・リビングラボラトリー(組織外からアイデアや技術を取り入れながら、新たな価値を創出するオープンイノベーションを実践する場)に関する専門的なパートナーシップを通じて、一次生産におけるアグロエコロジカル・アプローチを拡大する。これは、農薬、肥料、抗菌剤の使用量削減に貢献するものです。

農業生産性と持続可能性の加盟国協力、一次生産から消費に至るまでのガバナンス機構

 技術革新を加速させ、知識の移転を促進するために、欧州委員会は加盟国と協力して、戦略計画における欧州革新パートナーシップ「農業生産性と持続可能性」(EIP-AGRI)の役割を強化する。さらに、欧州地域開発基金は、スマートな専門化を通じて、食品バリューチェーンに沿った技術革新と協力に投資する。「人、地球、気候の安全で持続可能なフードシステム」のための新しいHorizon Europeパートナーシップは、栄養、食品の質、気候、循環性、コミュニティの共同利益を提供する革新的ソリューションを提供するために、一次生産から消費に至るまでのフードシステムの関係者を巻き込むR&Iガバナンス機構を設置する予定である。

2025年までに農村部における高速ブロードバンドインターネット100%アクセス

 すべての農民とすべての農村地域は、高速で信頼性の高いインターネットに接続する必要がある。これは、農村部における雇用、ビジネス、投資、そして医療、娯楽、電子政府などの分野における生活の質を向上させるための重要な手段です。高速ブロードバンドインターネットへのアクセスは、精密農業や人工知能の利用を主流にすることも可能にする。また、EUは衛星技術における世界的なリーダーシップを十分に発揮することができるようになる。これは最終的に、農家のコスト削減、土壌管理と水質の改善、肥料、農薬、GHG排出の削減、生物多様性の改善、農家と市民にとってより健全な環境の創造につながるだろう。欧州委員会は、2025年までに100%のアクセスを実現するという目標を達成するため、農村部における高速ブロードバンドインターネットの普及を加速させることを目標としている。

農業と食料の持続可能性への投資のために投資部門を動員するEUタクソノミー

 イノベーションを奨励し、持続可能な食料システムを構築するためには投資が必要である。EUの予算保証を通じて、InvestEU Fund (41)は、欧州企業による投資のリスクを軽減し、中小企業や中堅企業(42)の資金調達を促進することにより、農産物分野への投資を促進する。2020年には、持続可能な投資を促進するためのEUの枠組み(EUタクソノミー(43))と持続可能な金融に関する新たな戦略が、農業と食品生産部門を含むより持続可能な投資を行うために、金融部門を動員する。また、CAPは、農場の回復力を向上させ、グリーン化とデジタル化を加速させるための投資支援をますます促進させなければならない。

 *EUタクソノミー 「持続可能性に貢献する経済活動」を分類・列挙したもの(グリーン・ウォッシュ排除のため)
 EUでは2019年12月に欧州グリーンディールを公表し、2050年までに気候中立(温暖化ガス排出量の実質ゼロ)を目指すことを表明した。そのため、目標に向けた産業技術のイノベーションと並行して、それを可能にするための莫大な資金が必要になる。そこでEUは、投資家の資金と企業の設備投資を「脱炭素化」に集中させる金融戦略として、2020年6月に「タクソノミー(分類)規則」(EUタクソノミー)を法令化した。

(41) InvestEUプログラム設立のための欧州議会と理事会の規則に関する提案、COM(2018) 4439, 2018/0229 (COD)に規定されたInvestEUプログラムの一部として設立された。

(42) 欧州戦略投資基金では、「中堅企業」とは、従業員数が250人から3000人までの企業で、中小企業でない企業を意味する。

(43) EUのタクソノミーは、資本市場が環境政策目標に貢献する投資機会を特定し、それに対応することを可能にするための実施ツールである。

3.2. アドバイザリーサービス、データと知識の共有・スキル

知識とイノベーションは、農家・農村コミュニティが課題に対処する上で重要

 知識と助言は、食料システムのすべての関係者が持続可能なものになるための鍵である。第一次生産者は、持続可能な経営の選択について、客観的でカスタマイズされたアドバイザリー・サービスを特に必要としている。そのため、欧州委員会は、フードチェーンのすべての関係者が参加する効果的な農業知識・技術革新システム(AKIS*)を促進する。CAP戦略計画において、加盟国はAKISへの支援を拡大し、グリーン・ディールの目的と目標の達成に必要な適切な助言サービスを開発・維持するための資源を強化する必要がある。

*AKIS(農業知識とイノベーションシステム) 「農業システム移行の加速:アグロエコロジーリビングラボと研究インフラ」の戦略的研究とイノベーションアジェンダの開発を担当する組織

農家支援は「会計データネット」を「持続可能データネット」に拡張

 欧州委員会は、Farm Accountancy Data NetworkをFarm Sustainability Data Networkに拡張し、Farm to Forkおよび生物多様性戦略の目標やその他の持続可能性指標に関するデータを収集するための法案を提出する予定である(44) 。このネットワークは、地域、国、セクターの平均値に対する農場のパフォーマンスのベンチマークを可能にする。このネットワークは、個々の農家に合わせた助言サービスを通じて、フィードバックとガイダンスを提供し、その経験を欧州イノベーションパートナーシップと研究プロジェクトにつなげる。これによって、参加農家の収入など、持続可能性が向上する。

(44) 欧州相互運用性フレームワークを全面的に尊重した上で、2020年以降のCAPの提案に含まれるような栄養素のためのFarm Sustainabilityツールを含む。

 Farm Accountancy Data NetworkをFarm Sustainability Data Networkに拡張: (2022/07/13 に更新) - ビューロー決定日: 17/05/2022 本会議20221026-27

https://www.eesc.europa.eu/en/our-work/opinions-information-reports/opinions/conversion-farm-sustainability-data-network-fsdn

 2022年6月22日、欧州委員会は、農業会計データネットワークを農場持続可能性データネットワークに変換するための規則の提案を発表しました。

 連合農業部門と共通農業政策の発展には、連合農業保有地のパフォーマンスと持続可能性に関する客観的で適切な情報が必要です。

 現在の農業会計データネットワーク(FADN)は2009年に設立されましたが、最近の研究では、農業レベルのデータ収集を強化し、環境および社会的パフォーマンスに関するデータも収集する必要があることが確認されています。

 そこで、Farm to Fork戦略において、経済的側面に加えて、環境・社会的側面も考慮したFarm Sustainability Data Network(FSDN)への拡張が発表された。その目的は、共通農業政策、グリーン・ディール、農場から食卓まで、生物多様性戦略の目的に沿って、農家の収入を含む持続可能性を改善し、食料システムをより公平で健康的、かつ環境的・社会的に優しいものにすることにある。 この新しいデータ収集により、農場のパフォーマンスをベンチマークし、農家に合わせたアドバイスや指導を行うことが可能になる。2022年6月22日、欧州委員会は、農業会計データネットワークを農業持続可能性データネットワークに転換するための規則案を発表した。欧州経済社会委員会はこの提案について意見を述べる予定である。

農場会計データネットワーク(FADN)
https://www.fao.org/family-farming/detail/en/c/288261/

  セルビアの農業部門は、EU加盟の過程で、一連の規制や基準を調整し、共通農業政策(CAP)の目的に準拠した一定の要件を採用することになっており、特に、農業会計データネットワーク(FADN)を構築することが求められています。このシステムは、年間を通じて農場レベルでの取引を記録することができるため、一方では農家の経営管理を改善し、他方では政策立案者が実施した施策の効果を評価することを可能にします。特定の経済指標を監視するために使用されるこのシステムは、国、地域、欧州レベルでそれぞれの農場データを比較することを可能にします。

農場持続可能性データネットワーク(FSDN)
https://www.mdpi.com/2071-1050/13/15/8181/ htm#:~:text =The%20extension %20to%20a %20Farm%20Sustainability %20Data %20Network,states %20and%20a %20survey %20among%20all %20member%20states.

  欧州グリーン・ディール、そのFarm to Fork戦略、生物多様性戦略は、共通農業政策(CAP)の将来の改訂の舞台となる。CAPは、持続可能な開発目標やパリ気候協定への貢献など、ますます多くの目標に取り組むことになる。根拠に基づく政策立案とモニタリングを可能にするため、Farm to Fork戦略は、現行のモニタリングシステムを拡張し、より幅広い持続可能性の問題を含めることを提案している。

  現在のモニタリングシステムは、Farm Accountancy Data Network(FADN)と呼ばれ、財務・経済データに強く焦点を当てています。FADNはEU共通農業政策のモニタリングと評価のための手段であり、8万件の農場から帳簿の結果を収集している。Farm Sustainability Data Network(FSDN)への拡張は、農場の持続可能性パフォーマンスに関するより広範な指標を含むべきである。本論文では、9つの加盟国でのパイロットと全加盟国での調査の経験に基づき、FSDNでこの幅広い持続可能性指標を収集するためのコストを試算している。その結果、FADNに含まれるすべての農場から持続可能性データを収集すると、約40%のコスト増になることがわかった。この結果は、データ収集にかかる現在のコストと、持続可能性指標を含めるために予想される追加作業によって、国によって大きな違いがあることを示している。このようなデータの緊急性を考慮し、15,000農場のサブサンプルから持続可能性データを収集するシナリオを作成しました。これは、FADNのサンプルを85,000農場から75,000農場に減らせば、現在の予算の範囲内で達成可能である。ディスカッションセクションでは、FADNからFSDNへの拡張について、農家の意欲、管理負担、FADNの経済的背景、データの質など、いくつかの懸念事項を取り上げています。

欧州共通農業データスベースでEU農業の競争力の持続可能性を高める

 欧州データ戦略の一環として、欧州共通農業データスペースは、生産、土地利用、環境、その他のデータの処理と分析を通じて、EU農業の競争力の持続可能性を高め、農場レベルでの生産アプローチの正確かつ個別の適用と部門のパフォーマンスの監視を可能にし、炭素農業イニシアチブも支援する。EUのプログラム「Copernicus」と「European Marine Observation and Data Network (EMODnet)」は、漁業・水産養殖部門における投資リスクを軽減し、持続可能な実践を促進する。

中小の食品加工・小売・外食業者支援 持続可能性に関するBest Practice guidance作成

 欧州委員会は、中小の食品加工業者や小規模の小売・外食業者が新しい技能やビジネスモデルを開発するのを支援するために、追加の行政的・費用的負担を回避しつつ、それぞれのニーズに合った解決策を確保する。また、小売業者、食品加工業者、食品サービス業者に対し、持続可能性に関するベストプラクティスに関するガイダンスを提供する。エンタープライズ・ヨーロッパ・ネットワークは、中小企業のための持続可能性に関する助言サービスを提供し、ベストプラクティスの普及を促進する。また、欧州委員会は、フードチェーンが十分かつ適切な技能を持った労働者を確保できるよう、「Skills Agenda (45)」を更新する。

(45) 欧州委員会コミュニケーション「人的資本、雇用可能性、競争力を強化するための協力」、COM/2016/0381

4. 新たな農業・食料システムへの世界的な移行を促進する

Farm to ForkとSDGsの目的に沿って世界的なグリーン同盟を指導する

 EUは、Farm to Fork戦略とSDGsの目的に沿って、持続可能な農業・食料システムへの世界的な移行を支援する。国際協力や通商政策を含む対外政策を通じて、EUは、二国間、地域、多国間のフォーラムにおいて、すべてのパートナーとともに、持続可能な食料システムに関するグリーンアライアンスの発展を追求する。これは、アフリカ、近隣諸国、その他のパートナーとの協力を含むものであり、世界の様々な地域における個別の課題に配慮するものである。世界的な移行を成功させるために、EUは、人間、自然、経済成長のためになる包括的で統合された対応の開発を奨励し可能にする。

すべての貿易協定で持続可能な開発条項を目指す

 通商政策を含む適切なEUの政策は、EUのエコロジーへの移行を支援し、その一端を担うために利用される。EUは、すべてのEU二国間貿易協定に野心的な持続可能性の章が設けられるよう努める。EUは、EUの首席通商執行官を通じて、すべての貿易協定における貿易と持続可能な開発に関する条項の完全な実施と執行を確保する。

国際基準設定機関を通じて持続可能なフードシステムへの転換促進

 EUの通商政策は、動物福祉、農薬の使用、抗菌剤耐性との闘いといった主要分野において、第三国との協力を強化し、野心的な約束を得るために貢献する必要がある。EUは、関連する国際機関において国際基準を推進し、高い安全性と持続可能性の基準に適合した農産物の生産を奨励するよう努めるとともに、小規模農家がこれらの基準を満たし、市場にアクセスできるよう支援する。EUはまた、栄養状態を改善し、食料システムの回復力を強化し、食料廃棄物を減らすことによって食料不安を軽減するための協力を強化する。

持続可能な開発のための政策一貫性をすべての政策に統合

 EUは、気候変動への適応と緩和、農業生態学、持続可能な景観管理と土地統治、生物多様性の保全と持続可能な利用、包括的で公正なバリューチェーン、栄養と健全な食生活、特に脆弱な状況における食糧危機の予防と対応、弾力性とリスク対策、統合的害虫管理、植物と動物の健康と福祉、食品安全基準、抗菌性、人道と開発の協調介入の持続性に特に焦点を当てた食糧研究と革新の国際協力を行っていきます。

 EUは、現在進行中のイニシアチブ(46)を基礎とし、持続可能な開発のための政策一貫性をすべての政策に統合していく。これらの行動は、世界の生物多様性への圧力を軽減する。このように、自然生態系のより良い保護は、野生生物の取引と消費を減らす努力と相まって、将来起こりうる病気やパンデミックの予防と回復力の強化に役立つだろう。

(46) 例えば、DESIRA(Development Smart Innovation through Research in Agriculture)農業研究によるスマートイノベーションの開発など。DESIRAは、アフリカ、アジア、ラテンアメリカにおける研究とイノベーションプロジェクトを支援し、国、地域、大陸、世界レベルの主要アクターが関与する研究能力と研究ガバナンスを強化することを目指している。

*アグロフォレストリールワンダの例:目的は、アグロフォレストリーによる劣化した農地の回復とバイオマスエネルギーの持続可能な利用のペースと規模を拡大し、それに伴って土地の健全性や生計、貧困を改善することである。具体的な目的は、ルワンダの東部州およびキガリ市周辺地域におけるアグロフォレストリーによる復元と持続可能なバイオマス利用のスケールアップに至る生態系、社会、経済の経路と、そこから得られる利益を効果的に理解し実証することである。

森林劣化に関連する製品のEU市場への投入を回避・最小化の立法

 世界の森林減少および森林劣化に対するEUの寄与を減らすために、欧州委員会は2021年に、森林減少や森林劣化に関連した製品のEU市場への投入を回避または最小化するための立法案およびその他の措置を提示する。

違法、無報告、無規制漁業では毅然たる対応方式を

 EUは、違法、無報告、無規制の漁業(IUU)との闘いにおいてゼロ・トレランス(tolerance:寛容)を適用し、乱獲と闘い、魚介類資源の持続的管理を促進し、海洋ガバナンス、海洋協力、沿岸管理を強化する (47) 。

(47) 地域漁業管理機関、持続可能な漁業パートナーシップ協定、IUUに関する第三国との協力、漁業・養殖業における持続可能なバリューチェーンに関する我々の協力を通じて;協力は特に気候変動の影響を受ける国との関連性が高い。

2021年から2027年の期間に優先事項を盛り込む

 欧州委員会は、人権、ジェンダー、平和と安全といった横断的な目標に十分配慮しながら、2021年から2027年の期間における第三国との協力のためのプログラミングガイダンスに、上記のすべての優先事項を盛り込む予定である。

輸入製品に対する厳格な評価と実行

 輸入食品は、関連するEUの規制と基準に引き続き適合していなければならない。欧州委員会は、WTOの基準と義務を尊重しつつ、EUで承認されなくなった農薬物質の輸入許容の要請を評価する際に、環境面を考慮する。抗菌剤耐性という世界的な脅威に対処するため、EUに輸入される動物由来の製品は、最近合意された動物用医薬品規則に従って、抗生物質の使用に関する厳しい要件を遵守しなければならなくなる。

貿易相手国と活発に関わり、植物保護製品や代替方法の普及を図る

 EUの食料システムをより持続可能なものにするためには、貿易相手国がより持続可能な慣行を行うことも必要です。より安全な植物保護製品の使用への段階的移行を促進するため、EUは、WTOの規則に則り、リスク評価を行った上で、「カットオフ基準」(48)を満たし、人間の健康に対して高いレベルのリスクを示す物質の輸入許容量を見直すことを検討する。 EUは、貿易の中断を避け、より持続可能な農薬使用への移行を伴うために、特に発展途上国を含む貿易相手国と活発に関わり、植物保護製品や代替方法の普及を図る。

(48) これらの物質は、人の健康に影響を与える可能性があり、規則(EC) No 1107/2009 の付属書 II の 3.6.2 から 3.6.5 及び 3.8.2 に規定される変異原性、発癌性、生殖毒性、又は内分泌かく乱特性を持つものとして分類される物質が含まれる。

持続可能な食料システムへの世界的移行を推進

 EUは、国際的な基準設定機関、関連する多国間フォーラム、および国連生物多様性条約第15回締約国会議、成長のための栄養サミット、2021年の国連食料システムサミットを含む国際イベントにおいて、持続可能な食料システムへの世界的移行を推進し、そのすべてにおいて野心的な政策成果を求めていく。

世界の規格・基準・表示等の枠組みをリードする

 消費者への食品情報に関するアプローチの一環として、また、持続可能な食品システムに関する法的枠組みと組み合わせて、EUは、スキーム(EUの持続可能な食品表示枠組みを含む)を推進し、持続可能性基準の普及を促進するために多国間フォーラムにおける国際持続可能性基準および環境フットプリント算定方法に関する作業をリードする。また、誤解を招くような情報についての規則の施行も支援する。

5. 結論

Farm to Fork戦略の目的は、EUの食料システムを持続可能性の世界標準にすること

 欧州グリーン・ディールは、食料システムを地球のニーズと調和させ、健康的で公平な、環境に優しい食料を求める欧州人の願望に積極的に応える機会である。この戦略の目的は、EUの食料システムを持続可能性の世界標準にすることである。持続可能な食料システムへの移行には、あらゆるレベルのガバナンスを担う公的機関(都市、農村、沿岸地域など)、食糧バリューチェーンに関わる民間セクター、非政府組織、ソーシャルパートナー、学識経験者、市民が参加する集団的な取り組みが必要である。

持続可能な食糧政策を策定するための幅広い議論

 欧州委員会は、すべての市民と利害関係者に対し、国、地域、地方の議会を含め、持続可能な食糧政策を策定するための幅広い議論に参加するよう呼びかける。欧州委員会は、欧州議会と理事会に対し、この戦略を支持し、その実施に貢献するよう求める。欧州委員会は、この戦略について、協調的な方法で市民に働きかけ、我々の食料システムの変革に参加するよう奨励する。

Farm to Fork戦略はグリーンディールの中核として地球観測も含めて包括的評価のデータ収集をする

 欧州委員会は、この戦略が、グリーン・ディールの他の要素、特に2030年の生物多様性戦略、新CEAP*、汚染ゼロの野心と緊密に連携して実施されることを確保する。また、EUの食料システムの環境と気候のフットプリントの目標達成と全体的な削減を含め、持続可能な食料システムへの移行を監視し、それが地球の限界(planetary boundaries)の中で運営されるようにする。また、この戦略のすべての行動が競争力、環境、健康に与える累積的な影響を包括的に評価するために、地球観測に基づくものも含め、定期的にデータを収集する。また、2023年半ばまでにこの戦略を見直し、取られた行動が目標達成に十分であるか、あるいは追加的な行動が必要であるかどうかを評価する。

*新CEAP:New Circular Economy Action Plan2020(新循環型経済行動計画)
https://environment.ec.europa.eu/strategy/circular-economy-action-plan_en
EUの循環型経済への移行は、天然資源への圧力を軽減し、持続可能な成長と雇用を創出する。また、EUの2050年の気候中立性目標を達成し、生物多様性の損失を止めることも前提条件。新しい行動計画は、製品のライフサイクル全体に沿った取り組みを発表します。製品の設計方法、循環型経済プロセスの促進、持続可能な消費の促進、廃棄物の防止、使用される資源のEU経済への保管を可能な限り長期的に行うことを目指している。

2022/11


米国における持続可能な土づくりの本(その2)

山田 正美  社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

 前号では、米国農務省(USDA)の国立食品農業研究所(NIFA)が出資した持続的農業研究教育(SARE)プログラムが発行した『BUILDING SOILS for BETTER CROPS(より良い作物のための土づくり)』から、いくつかの内容について紹介しました。
本号においても、前号に引き続き、いくつかの興味ある内容について紹介します。

土壌の劣化と土壌有機物

 19世紀以前の農業では、有機物は、土壌の必須成分であり、作物栽培に欠かせないものとして認識されていました。

 しかし、第二次世界大戦後、工業的に生産した安価な窒素肥料と大型の農機具が入手可能になり、また乾燥地帯では灌漑用の水が安価に入手できるようになったため、多くの人が化学肥料や大型の農業機械に頼るようになり、良質な土壌を作るための有機物の重要性を忘れたり、無視したりするようになってきたのです。これにより土壌中の有機物が徐々に減少し、土壌が劣化していったのです。

  科学者たちは、生産性が低下した「劣化」土壌は、主に土壌有機物の枯渇に起因していることに気づき、同時に、土壌に変化が起きていることにも気がついたのです。そのため、いかに土壌中の有機物を増加あるいは維持し、健全な土壌構造を作り、肥沃な土壌に変えていくかというところに米国政府も資金投入するようになっています。

土壌有機物の直接効果・間接効果

 土壌有機物が植物(作物)生育における直接的な効果を与えている機能として、主に以下のようなものがあります。

  1. 有機物が分解されると、養分は植物が直接利用できる形に変換されます。例えば窒素を含む有機物からはアンモニウムや硝酸イオンが生成されます。
  2. 分解過程でCEC(塩基置換容量)が増加し、カルシウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウムを保持する土壌の能力が高まります。
  3. 亜鉛や鉄など多くの微量要素を保持し保護する有機分子(キレート)が生成されます。
  4. また、リンの鉱物からの溶解性を高める微生物もいれば、空気中の窒素を固定し、他の生物や植物が利用できる形態に変換する微生物もいて、植物にこれらの養分を供給します。

間接的な効果としては、以下のようなものがあります。

  1. 土壌微生物が作り出す物質が、根の生長を促進し、根を健康にします。根が広範に伸び、健康であれば、植物は容易に栄養を取り込むことができます。
  2. 土壌有機物は土壌構造を改善し、団粒が多くなることで、雨後の水の浸透が良くなり、土壌の保水力が高まります。また、より浸透性の高い土壌に容易に根を伸ばすことができます。その結果、植物の健康状態が向上し、硝酸塩などの移動性養分がより多く根に移動し吸収できるようになります。

 以上のように、土壌中の有機物は微生物の助けも借りながら、植物(作物)の健全な生育にとても貢献しています。空気中の窒素を固定する根粒菌は、化学合成窒素肥料を減らしたり無くしたりすることにも貢献しています。自然のサイクルをうまく利用することによって化学肥料などの出費を抑え、経営面での改善にもつながります。

土壌有機物の軽視と文明の崩壊

 土壌有機物の減少による土壌の劣化は文明衰退の原因になったともいわれています。

 有機物が多く、肥沃で質の高い土壌は、作物の収量を上げることができるため、それを強調したいのですが、米国をはじめ、世界中の多くの土壌が劣化していることも認識しておく必要があります。つまり、「摩耗」してしまっているのです。劣化は、未開地を農地に開拓し、作物を栽培するが、必要な有機物を投入しない場合、有機物が分解されて最初のうちは十分な栄養を補給しますが、有機物の量が減少するに従い、作物への養分補給が減り、収量を減少させます。また、有機物含量の低下により団粒の形成が阻害されるため、降雨や強風により浸食されやすくなります。そのため、生産性の低下と土壌浸食を加速させ、その後の農作物の不作をもたらす負のスパイラルに入ります。土壌は固くなり、水が浸透しにくく、根が土の中を伸びにくくなります。さらに浸食は進み、養分は作物を育てるには低すぎるレベルまで低下してしまいます。

 このような負のスパイラルは、多くの初期文明に大きな打撃を与えました。その結果、ローマ帝国がエジプトの穀倉地帯を侵略したように、市民を養うための植民地事業が行われるか、あるいは文明が衰退するかのどちらかに帰着することになります。

ではどうすればよいのか

 現代文明が衰退しないために、私たちには何ができるでしょうか。

 有機物を重視するということは、化学肥料を完全に否定するということではないのです。土中の有機物や生物学を考慮せずに化学肥料だけに頼っていることが、土壌の健康状態を悪化させる主な原因であることは事実です。しかし、必要なところに十分な養分を供給しないことは、事態をより悲惨なものにしてしまいます。有機農法による作物生産が可能であり、理にかなっている場合もありますが、良くも悪くも現在の農業構造では、炭素と養分の循環に十分な選択肢が残っていない地域が多くなっています。そこで重視されるべきは、保全手法と補助的肥料を使用して養分の損失を減らし、作物収量を維持し、バイオマス循環を促進することです。そうでなければ、土壌の健康状態はさらに悪化し、収穫量の減少によって食糧不足が発生するか、アマゾン熱帯雨林のような未開地域へのさらなる耕作面積拡大を迫られることになるでしょう。このようなことになる前に手を打つ必要があるでしょう。

  今回の記事は前号に続く2回目の記事ですが、このまま化学肥料のみに頼った農業を続け、土壌の劣化を招くことになると、地球に住む私たちの食料が不足し、現代文明の終焉ということにもなりかねません。この本は、科学的な根拠を示しながら土壌有機物の大切さを、具体的な事例を出しながら説明しています。米国と日本では、農業の背景は異なりますが、日本にはこのような視点で書かれた土壌の本は少なく、日本の人に知ってもらうことには意義があると思っています。そのため、日本語で全文を紹介したいと思い、現在、翻訳作業を進めているところです。

2022/11


家族農業のためのGAP(適正農業管理)
国際連合食糧農業機関(FAO)のGAPガイドライン紹介(5)
8.有機物(動物・植物由来)肥料はどのように使用すべきか?
9.農場内の動物について
10.収穫で最も大切なことは何ですか?
11.食品の輸送はどのように行うべきか?

8.有機物(動物・植物由来)肥料はどのように使用すべきか?

9.農場内の動物について

10.収穫で最も大切なことは何ですか?

11.食品の輸送はどのように行うべきか?

《続く 次号最終回》

2022/11


セミナー受講者の修了レポート(感想や考察)の紹介

株式会社AGIC 事業部

「GAP指導者養成研修(GAP実践セミナー+農場実地トレーニング)」

①GH評価演習を通じて、情報収集の難しさと重要性を感じた

受講者 市町村農林課

  1日目の午後からのVTRによるGH評価では、実際に点数をつけてみましたが、会話のキャッチボールの中から情報を聞き取り、証拠を確定し判断の材料とする難しさを実感しました。まあ大丈夫かな?というところでも潜在的な問題として評価されていて「観察」と「質問」の重要性を感じました。

 2日目は実際に農家役の講師と対話をし、評価をつける実習を行いました。聞き取りを行いながら評価をつけることに大苦戦しました。5W1Hを意識しすぎて脱線してしまったり、情報を聞き出しきれなかったりと「情報収集」の難しさを実感したと同時に重要性を感じました。


②今までの他の座学研修では実際に指導することへの不安があった

受講者 都道府県普及指導員

  GH評価のヒアリング映像を用いたワークショップやバーチャル演習では、具体的な評価の視点とヒアリングの流れ、手法等を学ぶことができた。今までGAPに関する指導はほとんど経験がなく、座学研修の受講のみにとどまっていたため、実際に指導を頼まれた場合に不安があったが、今回、評価演習という実践形式で講師の指導を受けながらヒアリングを経験できたので、今後のGAP指導に活かしていきたい。


③GH評価にすぐに取り組んで欲しい

受講者 都道府県普及指導員

 今回の学びの1つに、国外とのGAPの実情の違いがあった。EU等では、卸・小売からGAP認証が必要条件的に求められていて、それを産地・生産者らが理解し許容しているシステムが成り立っているが、日本においては考えられないと感じた。おそらく、国内で同様の水準までシステム化しようとすると、面倒に感じたり、費用対効果への不信感から反発があるか、あるいは共感しても自律的に継続できる生産者はまだまだ少ないと思う。

 ただ、今回学んだGH評価基準は、理解が進むほどに内容的にはどれもすぐに取り組んで欲しいことばかりであった。農家が自律的にGAP実践することが難しく、そこに普及員の役割が求められるのであれば、本研修を学んだことを活かして、今後積極体に取り組んでいきたい。


④普及指導活動にも役立つGH評価トレーニング

受講者 都道府県普及指導員

 これまで、GAPについてはリーフレットなどの資料を読むだけでした。今回初めて、背景やGAPをめぐる我が国、世界の情勢を知りました。

 評価の仕方について、農家への対応は、相手を混乱させない、丁寧でも的を射た言い方をする、相手が言わないことを観察や知識により補う、現場現物を確認する、事前での情報収集など、平素の普及指導活動の心得としても参考になります。また、ガイドブックを読んで、設問の意味を理解しておくこと、各種法令について正確な知識を持つことを忘れてはいけないと思いました。(実は、受講前は1人あたりの受講料が高額だと思っていましたが、認識が変わりました。必要です。)


⑤農業関連法令も網羅的に学べる、経営支援に活かせる

受講者 都道府県普及指導員員

 GH評価の知識を深めることで、「肥料の品質の確保等に関する法律」、「農薬取締法」など農業者が関係する法令も網羅して理解できるので素晴らしいと思いました。GH評価に取り組むことで、発生しうるリスクを考える、という教育システムは素晴らしいと思いました。私の担当業務は経営支援でありコンサルティングのような指導をするのですが、否定するのではなく、改善点を一緒に探していく、という姿勢など支援方法、支援マインドが似ていると感じました。


2022/11

株式会社Citrus 株式会社Citrusの農場経営実践(連載44回)
~みかん収穫作業アルバイトが集まらない~

佐々木茂明 一般社団法人日本生産者GAP 協会理事
元和歌山県農業大学校長(農学博士)
株式会社Citrus 代表取締役

 会社をはじめて毎年苦労するのは収穫期の作業人員確保である。昨今どの業界でも働き手不足が聞かれるが、今年初めて農業人材派遣会社と人材募集サイトのセールスが我が社にやってきた。人材派遣の会社名はYUIME株式会社(本社東京)で外国人労働者を派遣する会社である。和歌山県のJAを対象にセールスに入ったと聞いた。その受入条件は収穫作業にしては時給が1500円と高く、住居確保、月190時間以上の労働補償、最短契約期間3ヶ月とのことで、みかん収穫作業では採用が難しい条件だったのでお断りした。過去に外国人技能実習生を入れたが、それとは内容が違っていて、雇用ではなく社員派遣だという。外国人労働者派遣の話ははじめて知ったが10年くらい前からやっていると聞いた。また、求人サイトへの登録料は月額12,000円でヒット率は高いですという某有名サイト、大手の企業なら正社員募集にはいいと思うが、小さな農業生産法人には無理がある。なぜならば年契約であり、最低でも毎年144,000円かかる。2ヶ月間の短期契約を交渉したがだめだった。和歌山県内には契約者が60社あるが農業分野がないので我が社のHPをみて来たようだ。


 我が社の実情は後で示すが、今年は地元からアルバイトを募集することとし、経費のかからないオーソドックスなハローワークへの登録と、無料の求人サイト「インディード」を使って採用を試みている。現在2件の応募があり1件成立した。まだまだ足りないが、これまでの取り組みでなんとか解決できる可能性が見えてきた。これらの現状から過去の経験談をお伝えして、人員確保の困難さをお伝えし、よい方法があれば読者からの情報が欲しい。

 さて、人手不足と一言で表現してしまうが、ここ10年間の経験からアルバイト雇用の形態が変わってきた。10年前には和歌山県が主宰する「グリーンサポート」という無料求人サイトに登録すれば多数の応募があり、応募者全員を呼び寄せ、仲間の農家への紹介もしながら3年間はうまく運営できた。また、宿舎として古民家2戸を借り受け、共同生活をしてもらってもOkayだった。多少メンタルな問題もあり、途中で中断したこともあったが、友達と一緒に来るパターンや最初に来た人が友達を呼び寄せるといった仲間での参加が多かったので運営しやすかった。しかし、このパターンで4年目に入った時は古民家の生活で水回りの不備を訴える人も現れ、また古民家の耐震問題などもあり、5年目には宿舎としてアパート2室を会社で借り受けて対応した。

 このころから県主催の求人サイトからの応募はなく、急遽有料の求人サイト「農家のお仕事ナビ」や同様のサイトを活用して募集した。すると全国から応募があったが、早めに契約できた人のドタキャンということが多くなった。やむを得ず収穫期に入ってから応募があった人を無条件で採用したが、これも到着直後にキャンセルや3日でいなくなったケースもあった。それでも3名程度は確保出来た。3年間は問題無くアパートの確保で対応出来た。しかし、この頃になるとグループでの応募はなく、単独の応募となったのでアパート2室では共同生活が難しくなった。2019年にはいつも利用していたアパートに空き部屋がなく不動産屋に断られた。やむなく予備に設定してある1室を大家さんに無理やり頼んで確保した。アパートは女性専用とし、リピーターで4年目の就農を目指す青年を我が家の離れの2階で宿泊させ対応した。

 筆者はこの年からこれまでのような繁忙期の雇用形態を問題視するようになった。悩んでいるとき県農林大学校就農支援センターから25日間の農家実習生2名を迎えることができ、労力として大変助かった。翌年の2020年には実習に入った女性を社員として新規採用した。その直後に、有田川町の地域おこし協力隊員の青年の農業研修依頼を受けいれたことで作業人員がそろった。また、この年も県農林大学校就農支援センターから農家実習生を迎えることができ、繁忙期を乗り越えた。2021年は年間を通じで新規就農を目指す青年の研修を受けたので、会社設立時の構想にある人材育成を目指した農業形態になった。しかし、同年、会社のポリシーとしては成功だが、ベテラン社員の自立のための退社は痛かった。なんとか、就農支援センターからの前年の実習生を新規採用できたことで会社運営を継続できた。

 そうして今年2022年は県農林大学校就農支援センターからの実習生もなく、地域おこし協力隊員の自立準備に入ったため会社で独占指導はなくなった。また、1年間の研修生も11月末で終わりになることから、新たなアルバイト雇用を入れないと回っていかない状況にもどった。この夏から、アパート確保のため不動屋さんを回ったがアルバイト用の短期契約ができなくなっていた。短期で借りられるちょっと高めのアパートを見つけたが、2ヶ月契約だと約2倍の家賃13万円を請求された。それにより今年は全国募集を諦め、通勤可能な範囲での募集とし、時給1,200円にアップして募集したところ、地元の自営業の青年(26才)を確保することが出来た。また、地域おこし協力隊員にも時間の許す限りご夫婦で応援してもらえることとなり、ちょっと安心した。まだ2名くらい確保しないと豊作年(今年)を切り抜けられるかが問題であるが、我が社と流通業界と連携したグロワー/シッパーの仕組みでなんとか切り抜けるしかないと考えている。

(注:写真のメンバーで今年は2名を除いて5名は継続し、これに1名プラスが見込まれる。)

2022/11


2022年度GAPシンポジウム

『みどりの食料システム戦略』と『適正農業管理(GAP)』


開催趣旨


 EUの「Farm to Fork戦略」、アメリカの「農業イノベーションアジェンダ」に続き、日本でも「みどりの食料システム戦略」が策定され、その実現のために「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」が公布されました。大きな農業・食料システム戦略の変革(トランスフォーメーション)に向けて、サステナブル・エシカル消費とそれに応える農業技術と農場管理(GAP)について、専門家の知見や現場の取組みを学びます。


開催概要


名称
2022年度 GAPシンポジウム
会期
2023年2月9日(木) 受付12:00~開始13:00~17:00
    10日(金) 受付9:15~開始9:45~17:00
会場
【ハイブリッド開催】
オンライン(Zoomミーティングルーム) ・ つくば研修支援センター(会場定員 50名)
※開催後に参加者限定で各講演のビデオをストリーミング配信
参加費
(個人)主催・共催の会員:\7,500、一般:\11,250、大学生: \1,500、高校生:無料
(団体:農学系大学・専修学校・農業高校の授業として聴講):\11,250
主催
一般社団法人日本生産者GAP協会
事務局
一般社団法人日本生産者GAP協会 教育・広報委員会、株式会社AGIC大会事務局
共催
農業情報学会
一般社団法人GAP普及推進機構
特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会
一般社団法人沖縄トランスフォーメーション(沖縄DX)

プログラム

※講演内容、時間は進行上の都合により変更になる場合もございます。あらかじめご了承願います。(敬称略)  9月29日更新

2月9日(木)

12:00~13:00受付
13:00~13:15開会・オリエンテーション
13:15~14:00講演
EUのFarm to Fork戦略に学ぶみどりの食料システム戦略
田上隆一
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長
14:05~14:50講演
エシカル消費に応える持続可能な農業
山口真奈美
一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会 代表理事
14:55~15:40講演
持続可能な農業の次のステップに向けたGLOBALGAPver6対応
田上隆多
株式会社AGIC 事業部長
16:00~16:45総合討論
田上隆一、山口真奈美、田上隆多
16:45~17:001日目クロージング

2月10日(金)

9:15~ 9:45 受付(入室)
9:45~10:002日目オリエンテーション
10:00~10:45講演
日本農業のトランスフォーメーションを考える SDGsとGAP
中島洋
一般社団法人沖縄トランスフォーメーション 代表理事
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事
10:50~11:35講演
米国農業のパラダイムシフト「健全な土壌のための生態学的管理」
山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事
11:40~12:00質疑応答
12:00~13:00昼休憩
13:00~13:45講演
(調整中)
13:50~14:35講演
「本物の野菜作り」から学ぶ総合的作物管理(ICM)の実践(仮題)」
髙橋広樹
株式会社みずほアグリサポート
14:40~15:25講演
農林大学校で取り組むGLBOALGAP認証・MPS認証を通した持続可能な農業に向けた教育体制の構築(仮題)
鳴川勝
和歌山県農林大学校
15:25~15:40休憩
15:40~16:45質疑応答・総合討議
16:45~17:00クロージング・閉会

講演
①EUのFarm to Fork戦略に学ぶみどりの食料システム戦略

田上隆一
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事長

 農林水産省の「みどりの食料システム戦略」が、EU共通農業政策の「Farm to Fork戦略」を参考にしているということなので、EU委員会からEU議会、EU理事会等に提出された「公正で健康的かつ環境に優しい食品システムのためのFarm to Fork戦略」の原本を読んでみました。戦略の基本や達成の目標がほぼ同じであれば、そこから「みどりの食料システム戦略」の本質が理解できるかもしれません。

講演
②エシカル消費に応える持続可能な農業

山口真奈美
一般社団法人日本サステナブル・ラベル協会 代表理事

 GAPは持続可能(サステナブル)で倫理的(エシカル)な方法で農業を営むことです。今、世界の消費行動基準は、原料の生産や調達から消費に至る全ての過程においてサステナブル・エシカルであることが求められています。エシカル消費の意義や情勢をひも解くことで、サステナブル・エシカル生産である持続可能な農業(GAP)の重要性・必要性について理解を深めます。

講演
③持続可能な農業の次のステップに向けたGLOBALGAPver6対応

田上隆多
株式会社AGIC 事業部長

 農産物取引シーンでグローバルに展開する総合農場保証(IFA)制度「GLOBALGAP」は、EU共通農業政策の「Farm to Fork戦略」など、持続可能な農業・食料戦略の大転換の方向を反映し、2015年のメジャー改定以来、7年ぶりにバージョン改定が行われました。気候変動、エネルギー、炭素貯留に関する追加や、土壌健全性のための土壌管理計画の強化など、農場における実践レベルでの変更点と今後の取組みのポイントなどについて学びます。

講演
④日本農業のトランスフォーメーションを考える SDGsとGAP

中島洋
一般社団法人沖縄トランスフォーメーション 代表理事
一般社団法人日本生産者GAP協会 理事

 GAP規範の中の農薬や化学肥料の使用を減らす目標はSDGsの「気候変動への対策」や「生物多様性の維持」に相応します。GAPは実は、農業の「エシカル生産」実践の指針なのです。SDGsを物差しに現状の農業を見直し、消費者が意識する「エシカル消費」につなげることで、農業のトランスフォーメーションに踏み出せる可能性があります。

講演
⑤米国農業のパラダイムシフト「健全な土壌のための生態学的管理」

山田正美
一般社団法人日本生産者GAP協会 専務理事

 米国では、農業の環境フットプリントを半減させるという目標を掲げ「農業イノベーションアジェンダ」を発表しています。米国農務省の持続的農業研究教育プログラムでは、地球温暖化防止の視点も取り入れた「より良い作物のための土づくり」という体系的な指導書を発行しました。農業の問題は、これまでの対処療法よりも有機物の蓄積と維持に重点を置いた適切な土壌管理によって、すべて解決されるか少なくとも軽減することができる、という基本的考え方で貫かれています。

講演
⑥(調整中)窒素循環の再生で持続可能な農業生産へ(仮題)

 環境と調和を図りながら農業生産を持続的に維持発展させるには、土壌を環境資源として位置づけ、有機物を利用した土づくりと、土壌診断、栄養診断に基づいた適正な施肥管理、地域を中心として輪作体系の確立を一つのシステムとして構築することが必要です。農地からの硝酸態窒素の流出機構の解析から、持続可能な農業生産技術に向けた窒素循環の再生を目指した土壌・施肥管理技術について学びます。

講演
⑦「本物の野菜作り」から学ぶ総合的作物管理(ICM)の実践(仮題)

髙橋広樹
株式会社みずほアグリサポート

 「土作り」と「施肥」、「防除」と「IPM」のようにそれぞれを別の技術体系として捉えるのではなく、作物生体を、土壌管理、作物養分管理、病害虫管理が互いに関連した技術体系として管理することが、結果として環境的にも経済的にも社会的に持続可能な農業生産に繋がります。農業現場での「本物の野菜作り」指導の事例を通して、持続可能な農業の技術的中核をなす総合的作物管理(ICM)について学びます。

講演
⑧農林大学校がGLBOALGAP/MPS認証を通して取り組んだ持続可能な農業に向けた教育体制の構築(仮題)

鳴川勝
和歌山県農林大学校

 次代の農業者や農業関連産業従事者を育成する農林大学校の農場運営は、持続可能で適正な実践でなければなりません。和歌山県農林大学校では3カ年をかけて全校(全コース)でGLOBALGAP認証(果樹、野菜)・MPS認証(花卉)に取り組みました。学生の自主的な気付きと成長と同時に、教育を提供する教員側の認識と体制の改革に取り組んだ経緯から、これからの農業教育のヒントについて学びます。

2022/11